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タカシの外資系物語

To be, or not to be...2006.01.17

TO-BE とは何か ?

To be, or not to be, that is the question...( 生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ ・・・ )


これは、かのシェークスピア作『ハムレット』の中の有名なセリフです。実はこのセリフ、様々な解釈がなされていて、明治の文豪・坪内逍遥は「世に在る、世に在らぬ、それが疑問ぢゃ」と訳していますし、シェークスピア研究の第一人者である小田島雄志氏は「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ」という訳をつけています。


外資系企業に勤めていると、よく「 TO-BE 」という表現に出会います。ここで言う「 TO-BE 」というのは、「あるべき」という意味で使われており、「理想的なやり方、考え方」を表します。例えば、現状の紙と印鑑だらけの申請プロセスを、紙を無くしてペーパーレスで行なうやり方に変更すべきだ ! などというときには、「申請プロセスの “TO-BE” は、ペーパーレスである ・・・ 」なーんてことを言ったりします。これに対して現状のことを「 AS-IS 」と言います。


当然のことながら、仕事上のあらゆる局面において、 ”TO-BE” な状態を目指すことが必要です。しかし一方で、日本人と欧米人とでは、この ”TO-BE” に対する考え方が少し異なるのです。それはどういうことなのでしょうか?

TO-BE は “型” ?

「We have “TO-BE” process model in banking business area...」


私は今、あるミーティングに参加しています。議題は「銀行における “あるべきプロセス・モデル” について」。なんと、わざわざロンドン・オフィスの担当者を招いての会議です。


そもそも、ことの発端はこういうことでした。私を含めて、わが社の日本支社における金融コンサルティング部門のコンサルタントは、顧客である日本の銀行から、事あるごとに、こんなことを言われていました。「○○コンサルティングさんが考える、銀行の ”TO-BE” プロセスを教えてよ。コンサルティング会社なんだから、グローバル・スタンダードのモデルを持ってるんでしょ ? 」


実は、お客さんからこういうふうに言われるのが一番困るのです。なぜなら、そんなものは「ない」からです。私はかれこれ 8 年以上、それも複数の外資系コンサルティング・ファームに勤めていますが、お客さんの求めに応じて、 ”TO-BE” モデルが提示できたなんてことは、聞いたことがありません。その理由の 1 つは、お客さんが求めている ”TO-BE” モデルなんて、出来合いでは存在しないからなのだと思っています。


ということで、ロンドンの担当者による説明にも、疑心暗鬼で臨んでいました。説明を一通り聞いて、その思いは一層強くなりました。「やっぱり、 ”TO-BE” なんて存在しない ・・・ 」


ロンドンの担当者 「 Do you have any question...? 」


私 「あの・・・、で、どこが ”TO-BE” なんですかね ? 」


ロンドンの担当者 「質問の意味がよくわからないんですが ・・・ 」


私 「( トボけるなよ、おい ・・・ )今説明してもらったのは、うちの会社が考える、銀行の ”TO-BE”プロセスなんですよね。つまり、世界中の銀行がとるべき、理想的な仕事のやり方というわけだ」


ロンドンの担当者 「Yes! 」


私 「それにしては、なんか目新しさがないというか、普通っちゅうか、だれが考えてもそりゃそうだろというか ・・・ 要するに、今までとはどこが違うから ”TO-BE” なのかが、全然わかんないんですがね ? 」


ロンドンの担当者 「今までと、どこも違わないですよ。 ”違い” は、銀行ごとに異なるんですから、そんなのは、やってみないとわかりません」


つまり、こういうことです。 ”TO-BE” モデルというのは、銀行の戦略や置かれている環境によって異なるものであって、個別の銀行毎に千差万別である。よって、どこかから出来合いの ”TO-BE” モデルを持ってきて適用する、なんてことはありえないと ・・・ 。


私 「じゃ、あなたが説明した ”TO-BE” モデルというのは、一体何なの ? 」


ロンドンの担当者 「個別の ”TO-BE” を作るためのベースです。なんか、”型” みたいなものがないと、議論が進まないでしょ ? 」

TO-BE は自分で作る

多くの日本人の発想では、 ”TO-BE” モデルというのは、「すでに出来上がった、あるべき理想的なモデル」であると考えてしまいがちです。しかし、欧米のグローバル・スタンダード的な発想でいえば、 ”TO-BE” モデルというのは自社にとって最適なモデルを作るための「たたき台となるべき基礎のモデル ( 検討のスタートとすべきモデル ) 」であって、この段階ではまだ完成されたモデルとはいえないのです。あくまでも、 ”TO-BE” モデルをベースに、自社のあるべきモデルを作るという作業が必要だというわけです。


あるべき理想的な ”TO-BE” が存在すると信じ、それをすぐに手に入れようとする日本企業。あるべき理想的な ”TO-BE” は自分で作るものであって、お金で買えるものではない。お金で買えるのは、 ”TO-BE” のベースとなる標準的なたたき台だと考えている外資系企業。実際には、日本企業の大半は、出来合いの ”TO-BE” なんて存在しないことぐらい理解しています。日本を代表するトヨタやキャノンの生産プロセスは、どこかから買ってきたものではなく、彼らが長い年月をかけて自ら作り上げてきたものなのですから。


しかし、欧米流の経営手法が日本に入り込んでから、日本の経営者は少しおかしくなってしまった感があります。 ”TO-BE” model などと、横文字で説明された瞬間に、それがすぐに手に入るものであるかのような錯覚を持ってしまっているのです。


では、もう一度。 To be, or not to be, that is the question...(生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ ・・・ )


“TO-BE” ( 生きる ) がお金で買えるなどと思った瞬間に、もしかしたら ”NOT TO-BE” ( 死ぬ ) になっているのかもしれません。みなさんも、自分の ” TO-BE ” は、自分で作り上げましょう !

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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