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タカシの外資系物語

システムダウンの教訓2005.11.22

東証システムがダウン !

去る 11 月 1 日のこと、東京証券取引所 ( 東証 ) でシステムがダウンし、取引が全面停止という、前代未聞のトラブルが発生しました。トラブルは午前中に収束し、それ以降は通常の株式売買が可能になったものの、国際的な市場の中枢を支えるシステム面での脆さを露呈した結果となりました。


そもそも、「システムがダウンする」というのは、どういう状況のことをいうのでしょうか。システムダウンには、「ハード」と「ソフト」、 2 種類のダウンがあります。ハードのダウンというのは、機械そのものの故障です。自動車に例えると、エンジンがかからなくなってしまったような状態のことです。ソフトのダウンというのは、プログラムのミス・不具合のことを指します。真っすぐ走るはずの自動車が、同じ場所でグルグル回り続けるような状態だと考えるとわかりやすいと思います。


今回の東証のトラブルは、ソフトのダウンです。東証のシステムでは、毎朝注文を受け付ける前に、各証券会社の端末を照合する手続き ( 例えば、野村證券の端末がきちんとつながっているかどうかということを確認する ) を行なうのですが、ソフトの不具合によって、照合に必要なデータの場所をシステムが検知できなかったようです。つまり、証券会社の端末がつながっているかどうかということを調べるために、どこを確認すればよいのか、システム自身がわからなくなって「迷子」状態になったことが原因なのです。


「どうして、そんな初歩的なミスを犯してしまったんだ ・・・ もっと完璧に作れよ ・・・ 」と思われる方も多いと思います。しかし、システム開発に「完璧」はないのです。その理由は、「人間が作ってテストをしているから」です。人間が作っている以上、「完璧」(= 100% OK の状態 ) はありえません。システム部門は、完璧に近い形 (99.99・・・%)を目指して作業をしているのですが、100 % にはなりえない以上、トラブルが起こるのは仕方ない部分もあるわけです。

システム開発の課題 1 巨大で複雑

しかし、今回の東証のトラブルは、株式の全銘柄について売買が停止したということで、世界の主要取引所でも初めてのケースのようです。だれがやってもトラブルが起こるのはある程度仕方ないとはいえ、システム開発においては、日本は世界でも有数の技術を持っているはず。どうして日本でこのような大トラブルが起こってしまったのでしょうか。


外的要因として、取引量そのものが増えていたことが挙げられます。ここのところの相場上昇を受けて、株式の売買件数は増加を続けていました。また、株のネット売買が一般的になってきたために、個人のネット投資家からの少額注文が増え、システムへの負担が大きくなっていました。「だからシステム化して、効率化をはかってんだろーが ! 」と言われればそれまでなのですが、取引増加が引き金になっているのは事実なのです。今回のケースでも、取引増加に対応するために、システムの増強策をとった際、トラブルを起こした部分のテストを十分に行なっていなかったことが 1 つの原因のようです。


それにしても、海外の証券取引所で起こっていないようなトラブルが、日本にだけ起こったというのは解せません。やはり、日本人のシステム開発手法に、何か抜本的な問題が潜んでいるような気がします。


まず総じて言えることとして、日本人が作るシステムというのは、あまりにも複雑で難しいことを機械にやらせようとし過ぎて、過度に巨大になりすぎていることが挙げられます。おそらく、海外の証券取引所のシステムは、東証のものに比べると、ずっと「ショボい」作りだと思います。このことは、日本人のシステム・エンジニアが優秀であるがゆえ、何でもかんでも作ってしまう(作れてしまう)というのも理由の 1 つです。しかし、システム開発というのは、言われたとおりに作っていればいいかというと、そういうものでもありません。「そんな作業はシステムにやらせるんじゃなくて、手でやれよ、手で ! 」みたいな発想も、ときには重要なのです。いずれにしても、日本人が作るシステムは、あまりにも巨大になりすぎているのは事実です。

システム開発の課題 2 小回りが効かない

次に、日本人が作るシステムには、「小回りが効く」仕組みがありません。巨大になったならなったで、小回りを効かせればまだマシなのですが、巨大なものを巨大なままで動かそうとしているために、何かあったときに身動きがとれなくなってしまうのです。例えば東証のケースでは、「毎朝注文を受け付ける前に、各証券会社の端末を照合する手続き」でコケていますが、仮にこの手続きがうまくいかなくても、とりあえず先に進めるような仕組みを持っていれば、このような大トラブルにはならなかったはずです。つまり、「端末を照合する手続き」がコケたのなら、それは後回しにして、とにかくメインの株式売買の処理を前に進めるという発想です。わかりやすく言うと、こうです。みなさん、「ドミノ倒し」を知っていますよね。ドミノ倒しって、並べているドミノの数が多くなってくると、どこかで失敗してすべてが台無しにならないように、「ストッパー」を入れるじゃないですか。あの発想です。ストッパーが入っていれば、誤ってドミノを倒してしまっても、その部分だけの失敗ですみます。しかし、東証のケースではストッパーがなかったために、 1 つの小さなミスが引き金になって、すべてのドミノを倒してしまうような結果になったということです。

シンプルな発想で開発する

今回はたまたま東証のケースを例にとっていますが、上記のような発想は、日本人のシステム開発に共通的に見られることです ( 悲しいかな、私も含めて ・・・ )。日本人は、自分の開発力に自信があるために、どんな巨大なシステムを作っても、難なく動くはずだという「過信」を持っています。だから、ドミノ倒しでいう「ストッパー」も入れないのです。また、システムを巨大化してしまう原因は、「せっかくお金をかけてシステムを作るのだから、すべての作業を機械にやらせてしまおう ・・・ 」という、ある意味、貧乏性的な発想です。システムにやらせている作業の中には、人間がやったほうがかえって早くできる作業もあります。また、意味のない作業なら、そもそもやらなければいいだけの話です。


日本のシステム開発に比べると、海外のものは、極めてシンプルで「潔い」考え方をしています。システムにすべての作業をやらせてしまおうと考える前に、「本当にその作業は必要なのか ? 大した意味がないなら、やめてしまおう ! 」と考えます。なので、作業プロセスがシンプルになり、結果、システムも巨大化しません。また、そもそもプログラム・ミスは起こるものという発想で作られているので、とりかえしのつかないようなトラブルに発展しないようになっているのです。彼らのシステムは、見た目は確かにかなり「ショボい」。ですが、複雑で巨大なシステムを作れるということが、より優れているというわけでもありません。ショボいシステムであっても、トラブルなく仕事をまわすことの方がずっと重要なわけで、このことは、日本のシステム開発に抜けている発想だと思います。


・・・ などと、もの思いにふけっていると、突然携帯が鳴りました。


「タカシさん、大変です ! 」


私が PM ( プロジェクト・マネージャー ) をやっているプロジェクトで、システム開発を担当しているコージからです。


私 「どうしたの ? 」


コージ 「うちの会社が作ったシステムが、ダウンしちゃいました ・・・ 」


私 「ストッパーは入れてないのか ? 」


コージ 「へ ? 何すか、それ ? 」


私 「あ、いやいや、こっちの話 ・・・ よしわかった。ま、システムなんて所詮、人間が作ったもの。トラブルが出るのは仕方ないんだから、慌てなさんなって ・・・ 」


コージ 「お客さんサイドの部長さんが激怒されてて、『タカシを呼び出せーっ ! 』って、カンカンなんですけど ・・・ 」


私 「へ ? あ、そ ・・・ すぐに行くわ ・・・ 」


・・・ トホホ ・・・ ま、現実にはそういうわけにもいかんようです。では、怒られに行って来ます。トホホ ・・・

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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