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タカシの外資系物語

コミュニケーションの条件 (その 2 )2005.11.15

前回のコラムでは、職場において円滑なコミュニケーションを実現するための 3 要素として、「役割」「場・仕組み」「スキル」が必要であるというお話をしました。今回は、日系企業・外資系企業の各職場において、これら 3 要素がどのように機能しているかについて、私なりの見解を述べたいと思います。


結論から言うと、「コミュニケーションのしやすさ」という面では、私は日系・外資系のどちらかが優れているとは思っていません。つまり、どちらも一長一短があるのです。

「役割」が明確な外資系

「役割」という観点では、より明確なのは外資系です。外資系では、各スタッフの役割は、「ジョブ・ディスクリプション(Job description)」という形で規定されており、その人がやるべき仕事については、他のだれが見てもハッキリわかるようになっています。例えば、「企画部門スタッフ A の役割は、一般消費者向けマーケットに対する営業戦略について企画・立案し、マネージャーに報告する」とか、「企画部門マネージャーの役割は、営業戦略全般について取りまとめ、経営陣に報告する」などのように、個人がやるべき仕事が具体的に記載されているのです。


上記の例を見てもわかるように、外資のジョブ・ディスクリプションを見れば、その人がコミュニケーション上、どのような役割にあるのか(つまり、報告する人なのか、意思決定する人なのか等)が一目瞭然となっています。


一方、日系企業には外資のようなジョブ・ディスクリプションは存在しません。日系企業にも、「業務分掌表」があって、その部署の仕事内容が規定されている文書があったりしますが、ここに書いてあるのは部署としての役割であって、個人の役割まで規定されているわけではありません。確かに、課長などの役職者であれば、ヒラ社員よりは意思決定する場面は多いでしょうが、現実に意思決定しているかというと、必ずしもそうとはいえないと思います。実際には、末端の担当者が考えた企画書にハンコを押しているだけの管理職が大半なわけで、それならば担当者が直接、部長や役員に報告した方が、ずっと効率的なコミュニケーションができるケースの方が多いのではないでしょうか。外資のマネージャーには、ハンコを押しているだけの人など存在せず、彼らは自分の言葉で経営層に報告することを求められる点が、日系とは根本的に異なります。

「役割」が柔軟な日系

このように見てみると、何だか外資の方が優れているような感じがしますね。でも、外資には致命的な欠点があるのです。それは、ジョブ・ディスクリプションに記載されていることしかしないということ、つまり自分の役割以外のことには一切興味がないということです。


「明確に決められた役割を果たしていれば、それでいいんじゃないの ? 」と思われるかもしれません。確かに、ビジネス環境が何も変わらなければ、それでもいいのです。しかし役割というのは環境変化に応じて、時々刻々と変化していきます。ジョブ・ディスクリプションではカバーできない役割を、その都度だれかが臨機応変にこなしていかなければ、うまく回らないのです。


その点、日系企業は役割が曖昧である分だけ、柔軟性の高い組織になっています。半年前には必要なかった役割でも、現時点で必要だと判断すれば、だれかが気を利かして対応することが可能なのです。ま、そんなことをしているから、日系の企画部門スタッフというのは「何でも屋」と化してしまい、毎日残業するという憂き目に遭っているのですがね ・・・

話さなければ意味のない外資、暗黙の日系

「場・仕組み」についても、「役割」と同様のことがいえます。外資系の方が、コミュニケーションのための「場・仕組み」が多く存在しているのは事実です。例えば、セクション内での定例会議、プロジェクトの進捗会議はもちろんのこと、経営陣を囲んでのラウンド・ミーティングなど、末端のスタッフにも発言の機会は多く与えられています。


しかし一方で、スタッフ個々人の「役割」が明確に規定されているため、発言すべき役割を持たない人は、一切発言しようとはしません。なぜなら、積極的に発言したとしても、評価されないからです。例えば、事務の効率化に関する提案を考えているぐらいなら、自分のやるべき仕事をさっさとやった方が得なのです。


この点について、私は外資系の経営層は自己矛盾を起こしていると思っています。役割を明確に決めている一方で、ときには役割以外のこと ( 意見を言え ! 等 ) を要求しているのですから。


日系の場合には、コミュニケーションのための「場・仕組み」はほとんど設定されていません。しかし、日系企業のスタッフというのは、「場・仕組み」などなくても、個々人が暗黙のうちの業務を改善していくというような、「工夫」のすべを知っています。例えば日系の勝ち組製造業の生産現場などでは、業務を改善するために、コミュニケーションの「場・仕組み」が存在するわけではありません。しかし、「場・仕組み」を特段用意いなくても、トヨタやキャノンのように、暗黙のうちにコミュニケーションが実現できている企業はたくさん存在するのです。


「役割」「場・仕組み」についてまとめると、外資の場合は、あまりにも明確にしすぎたために融通が利かなくなっており、日系の場合は、あまりにも曖昧であるために、一部の勝ち組製造業などでしか成果が出ておらず、大半のホワイトカラーの現場では、仕事を抱えすぎの状態になっているといえます。明確にすべきところは明確にする一方で、日系が伝統的に持っている柔軟性を損なわないような「役割」「場・仕組み」が理想的だといえるでしょう。

コミュニケーション・スキルの本質

最後に「スキル」ですが、私は日系・外資系とも、コミュニケーションに関するスキルに大差はないと思います。確かに、外資の方がプレゼンがうまい印象を受けますが、プレゼンの巧拙というのは、コミュニケーションの本質ではありません。例えば、ニュースキャスターは話すのがうまいですが、彼らは何かメッセージを持っているわけではなく、単に原稿を読んでいるだけです。久米宏が人気があるのは、流暢に話すからというわけではなく、彼が自分なりのメッセージを持っているからなのだと思います。コミュニケーションの本質とは、いかに自分のメッセージを相手に伝えるかということが重要なのであって、流暢に話すとか、身振り手振りがうまいというのは大した問題ではないのです。


実は、外資の人がもっぱら訓練しているのは、「話し方」とか、「身振り手振り」の方でして、こんなものは慣れとか短期間の訓練次第でどうにでもなることです。一方で、「いかに自分のメッセージを相手に伝えるか」というスキルは、一朝一夕では身につきません。自分の言いたいことを論理的にわかりやすく話すのと同時に、相手の意見を真摯に受け止める謙虚さがなければ、コミュニケーション・スキルの向上は望めないように思います。 
  
さて、あなたの職場は、日系的ですか ? それとも外資系的ですか ? コミュニケーションに関しては、日系・外資系ともに見習うべき点があるように思います。また、コミュニケーションの本質である「いかに自分のメッセージを相手に伝えるか」というのは、日系・外資系に関わらず、世の中に普遍的なものなのだと思います。みなさんも是非この機会に、自分のコミュニケーション方法が、自分の職場でしか通用しない、「ローカルルール」になっていないかどうか、チェックされることをオススメします。

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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