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タカシの外資系物語

どうすればいいか、わからないとき2005.08.09

みなさんは、仕事上「わからないこと」が出てきたら、どうしていますか ? 
「そのことを知っていそうな人に聞く」 ・・・ 確かに、これが一番手っ取り早いですね。 
「何とか自分で調べてみる」 ・・・ そういう手もありますね。 
さて、外資系企業の社員は、どのように対応しているのでしょうか。

2 種類の「わからないこと

一般に、「わからないこと」というのは、次の 2 種類が考えられます。


( 1 ) 自分が不慣れであるためにわからない 
これは基本的には、経験者 ( = 一度でもやったことがある人 ) に聞けばわかることです。ですから、自分でチマチマと調べるよりは、わかっている人に聞いた方が合理的といえるでしょう。一方で、


( 2 ) だれも明確な回答を持っていない=だれに聞いてもわからない 
これについては、答えを考えることそのものが仕事・業務 ( = 自分の値打ち ) みたいな部分もありますから、何とか自力で考えた方がいいのかもしれません。


こう考えてみると、「わからないこと」に対する対処法は、それがどのような内容であるかによって変わってくるということになります。しかし現実の仕事においては、明確に二分化されていないことの方が多いのも事実です。


実は、外資系企業においては、わからないことを素直に「わからない ・・・ 」と言ってしまうと、あまり評価されない傾向にあります。このことを具体的に説明してみましょう。


例えば、あなたが外資系企業に転職したばかりで、社内手続の仕方がわからないとしましょう。そのような場合に、「この手続がわからないのですが ・・・ 」と尋ねると、おそらく次のように返されます。「それなら、社内手続マニュアルに載っていますよ ! 」


つまり、上記 ( 1 ) のように、自分は不慣れだから知らないが、大半の人は知っているような内容については、外資系企業では、ほとんどの場合「マニュアル化」されています。自分でマニュアルさえ読めばわかるような単純な手続について、他の人の時間を奪ってまで質問するようなことをしてはいけないと考えられているのです。


次に、あなたが自分の顧客に対する営業アプローチについて、どのような方法をとればいいのかわからないとしましょう。そのような場合に、「 A 社への営業アプローチがわからないのですが ・・・ 」と尋ねると、おそらく次のように返されます。「それを考えるのがあなたの仕事でしょ ! 」


尋ねられた側としては、このケースの方が事態は深刻です。つまり、上記 ( 2 ) のように、自分がやるべき仕事について、自分なりの案も持たずに質問をすると、こいつはダメなやつだという烙印を押されかねません。

外資は冷たいのか ?

要するに、外資系企業においては、いかなる場合でも「わからない ・・・ 」と言うべきではないということになります。まずは、どこかのマニュアルに書いていないか調べる。マニュアル化されていないようなこと、すなわち、そのことを考えること自体が自分の仕事であるようなことについては、何としてでも自分で考えて、わからないならわからないなりに、自分なりの案ぐらいは作っておく必要があるということです。


日系企業から外資系に転職すると、このような考え方の違いに戸惑うことがあります。「外資というのは、何も教えてくれない。なんて冷たい所なんだろう ・・・ 」 そして、このことが「外資 = ドライ」というステレオタイプ的なイメージを、いたずらに増長しているような気がします。


しかし、よくよく考えてみると、自分で調べればわかることをいちいち尋ねられていては、周りの人が仕事にならないのです。外資系は、そのようなオーバーヘッド(間接的な手間・コスト)をなくすために、わざわざマニュアル化に力を入れているわけですから、外資に入った限りは、その考え方に則って行動する必要があるのです。


違う見方をすれば、日系企業にはマニュアルに書いておけば済むようなことにまで、手取り足取り答えてくれるような人が存在していることになります。答えてくれる人がいるから尋ねてしまうのか、尋ねる人がいるから答える人が必要なのか ・・・ しかし確実に言えることは、外資系企業では、たとえ部長クラスであっても、自分一人の力で社内手続を進めていく力がなければ、仕事をやっていくことはできません。日系企業の管理職が、周りに取り巻きを集めて、ふんぞり返って何もしないのに比べると、大きな差があると思いませんか。

外資における「わからない ・・・ 」とは ?

以上は、( 1 ) の「マニュアル化できる作業」について述べていますが、 ( 2 ) の「自分の仕事として考えるべき作業」についても、日系と外資系では大きな違いがあります。


一番大きな違いは、日系企業の社員は「わからない ・・・ 」という答えをいとも簡単に、かつ声高に言う傾向があるということです。「えっ? Yes/No がはっきりしているのは、日系よりもむしろ外資系の方だと思うんだけど ・・・ 」というふうに感じられる方が多いのではないでしょうか。実は、外資系でいうところの「 Yes/No 」というのは、「わかるか / わからないか ? 」ということを意味しているわけではありません。


外資では、何か課題や問題が起こったとき、または尋ねられたとき、いきなり「わかりません ・・・ 」と答えることは、まずあり得ません。そんな回答をしようもんなら、下手をすれば仕事から干されます。つまり、ご法度なんです。わかろうがわかるまいが、まず考えてみる。そして、いくつか自分なりの案や仮説が導き出せた段階で、次のように言うのです。「この問題は非常にチャレンジングな( = やりがいのある、難しい、ということを表現する便利な言葉。外資で多用される。No 189 『 Be "Challenging" ! 』 参照 ) ものですが、私はいくつかの仮説を元に、このように考えてみました。もちろん仮説を立てようにも、全く材料がない部分もあり、その点についてはわからない部分もあります ・・・ 」 つまり、自分で考え抜いた上で、どうしてもわからなかった部分についてのみ「わからない」と言っているわけで、考えようともしないで「わかりません ・・・ 」と言っているのとは全く違うのです。

「わからない」症候群からの脱却

一方、日系企業ではわからないことを早い段階で表明することの方を、むしろ評価するような風潮があります。「わからないなら、初めからわからないと言え ! 」などと叱られることもあるぐらいでして、いきなり「わからない」と言った方が、かえって「潔い」とか、「ハキハキしている」なんて評価を受けたりすることもあります。こういう文化に慣れた人が外資に転職してくると、非常に厄介なことになります。


私 「来週のプレゼン資料なんだけど、最後のまとめ方はどうしたらいいと思う ? 」


新入りスタッフ 「え ? 私はプレゼンの経験がないので、わからないですね。普通はどうすべきなんでしょうか ? 」


私 「どうしたらいいか、オレが聞いてるんだろ ! プレゼンの経験があろうがなかろうが、一緒に案を出してくれなきゃ、話してる意味ないじゃん ・・・ オレはお前の教育係じゃないんだから ・・・ 」


私は、日系企業の若手が「わからない」を多用する最大の原因は、日本における徒弟制度に似た「教育係」制度にあるのではないかと考えています。日系企業では、新入社員の 1 人 1 人に、ベテラン社員を教育係として付けます。新人は、教育係のすることをそのまま真似することで、仕事を覚えていきます。


この教育係制度、金太郎飴的な社員を作り上げるのには成果を上げるのですが、自力で物事を考える能力が全く身につかないという欠点があります。なぜなら、「わかりません」と言えば、教育係が何でもすぐに教えてくれるのですから、自分で考える必要がないのです。


さてさて、日系企業から外資に転職を検討されているみなさん、外資系企業においては、くれぐれも「わからない」という言葉を気安く使わないように。外資系企業は、「わからないこと」を何とかしてわかろうと努力することにこそ、給料を払ってくれているということを忘れてはいけません。

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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