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タカシの外資系物語

" インセンティブ・デバイド " と外資系 ( その 2 )2005.03.08

鉄の女、マライヤ

前回の続き )今回は、外資系企業における「インセンティブ・デバイド」についてお話ししたいと思います。ここでは、ある 1 人の外資系社員を例に挙げてお話します。


私が初めてマライヤ ( 仮名 ) と出会ったのは、もうかれこれ 6 年ぐらい前のことになります。当時私は、ある銀行の組織変革プロジェクトに参加しており、日本チームのリーダーをしていました。マライヤは、日本・アメリカ・イギリスの各チームを束ねる統括リーダーを務めており、要するに私にとっては上司にあたる人物でした。


私はそれまでにも、外国人が上司であるプロジェクトに参加したことはあったのですが、女性の上司は初めてでした。彼女の指示は的確である一方で、非常に厳しかったことを覚えています。


「それにしても、なんてキツイ女性なんだ ・・・・・・ MBA 持ってるインテリってのは、みんなこんな感じなのかね ・・・・・・ 」


年のころは私とほとんど同じだったように思います。スタンフォード大学の日本学科を卒業後、ペンシルベニア大学ウォートン校で MBA を取得し、ニューヨーク銀行( Bank of New York )に入社。その後、当時私が所属していたコンサルティング会社の米国本社に転職していました。


「銀行からコンサルティング・ファームに転職って、オレとほとんどおんなじような経歴のはずなのに、こりゃまたえらい差が出ちまったことよ ・・・・・・ トホホ ・・・・・・ 」


当時、彼女はパートナー ( 一般企業でいう役員です ) 直前のシニアマネージャーで、私は新米のマネージャーでした。私と彼女のランクには、少なくとも 5 年以上の差が出ていたのです。


「 MBAってのは、そんなにえらいもんなのかねぇ ・・・・・・ さぞかし、いいとこのお嬢さんで、英才教育を受けてきたんだろうなぁ ・・・・・・ 」

マライヤ、家庭環境を語る

そんなある日のこと、どういう風の吹き回しか、マライヤが私とケイイチ( NY オフィス所属の日本人。私と同い年です。) を食事に誘ってくれました。


マライヤ 「さぁ、今日は私のおごりだからね、じゃんじゃん食べてね ! 」


・・・・・・ なんか企んでるんじゃないだろうな ・・・・・・ 週末徹夜で仕事しろとかさ。勘弁してくれよ、もぅ ・・・・・・ とは言うものの、私もケイイチも一流レストランの魅力には勝てず、薦められるがまま食事を始めていました。


しばらくして、それなりに酔いもまわってきた頃、ケイイチが酔った勢いで次のように質問したのです。


「マライヤの両親って、どんな人なの ? さぞかし、子供の頃から勉強ばっかりしてたんでしょ、コノヤロ ! 」


一瞬、マライヤの顔が引きつったような気がしました。しかし、すぐに平静に戻った彼女は、ゆっくりと自分の身の上話を始めました。


彼女の母親はイタリア人、父親はアフリカ系黒人です。母親は英語が話せないとのことで、アメリカではこのパターンが一番差別の対象になるようです。兄弟は 10 人いて、彼女は 3 番目。弟や妹の面倒を見るのに時間をとられ、ほとんど勉強する時間はありませんでした。小学生の頃の彼女の夢は、「自分の机の上で勉強すること」。彼女は自分の机を持っておらず、いつも妹をおんぶしながら、食卓で勉強していたようです。

マイノリティー枠とは ?

さて、十分に勉強時間を確保できない状況で、彼女はいかにして難関のスタンフォード大学に入学できたのでしょうか。実は、彼女は「マイノリティー枠」という特定人種用 ( 黒人やヒスパニック ) の特別な推薦枠を使って、大学に入学しました。それに加え、大学時代には、マイノリティー枠を使って、日本に 2 年間留学までしています。


「あんな家庭環境では、まともに勝負したんじゃ、絶対に勝てっこないわ。自分に与えられた ”特権” を最大限に活かすしかなかったのよ」


厳しい家庭環境の中、彼女はそれなりに勝ち組として成り上がったわけですが、一方で白人 ( アングロサクソン ) との壁は感じる、とも言っています。


「ビジネス社会では、実力さえあればどんどん上に行けるわ。でもね、最後の最後には、やっぱり白人が勝つようにできているのも事実だと思う。だから私は、日本というマーケットを選んだの。大学で日本語を専攻したのも、そういう理由よ。このマーケットなら、私でもトップに立てるかもしれないから ・・・・・ 」


マライヤが成功した背景には、マイノリティー枠に代表されるような、米国社会における「弱者救済」の制度があることは言うまでもありません。マライヤが言うように、米国社会において黒人やヒスパニックが頂点に立つのは難しいでしょうが、実力さえあれば、それなりの地位にまで上り詰めることが可能です。


一方で、日本にはそういう制度はありません。確かに、アメリカのように多様な人種が混在しているわけではなく、貧富の差もそれほど大きくはありません。どんな子供にも、平等に勉強の機会が与えられていることになっています。しかし私は、むしろその考えこそが 「インセンティブ・デバイド」 を生む大きな要因になっているような気がするのです。

平等社会、ニッポンの罠

裕福な家庭の子供は、勉強が良くできる可能性が高い、というのはそれなりに正しいと思います。それは、アメリカも日本も同じでしょう。しかし、アメリカの場合は、上と下の差があまりにも激しいために、マイノリティー枠等で弱者を救済しています。大学入学時に門戸を広げ、卒業時に絞るというのも同じ効果があるのかもしれません。その結果、企業の中枢に多種多様な人材が集まり、社会が活性化していきます。


一方で、日本の場合は大学に入学する時点で、大半のキャリア ( 可能性も含めて ) は、ほぼ決定してしまいます。 18 歳のときの、ある一時点の偏差値だけで、です。となると、結局のところ、それなりに裕福な家庭の子供ばかりが企業の中枢に集まることになり、社会はちっとも活性化しません。ランクが同じなら、どこに行っても同じような顔ぶれしかいないのです。社長の子供は社長になって、課長の子供は課長、万年ヒラ社員の子供は ・・・・・・ というわけです。


日系の銀行に勤めていた頃、私の周りには、それなりに裕福な家庭で育った人間ばかりがうじゃうじゃしていました。そのような組織からは、革新的な発想は生まれません。


一方で、外資系企業では、人種も生まれ育った家庭環境も、本当に多種多様な人々が存在しています。確かに、最終的には白人 ( アングロサクソン ) がトップに立つ可能性が高いのは事実ですが、白人ではなくても、それなりの地位に行くことは可能です。実際に、私が勤める会社の米国本社のトップは白人、No 2 はインド人、No 3 は黒人の女性です。

マライヤ、酔っ払う

家庭が貧しいからとか、マイノリティーの人種だからといって、その人の人生が決まってしまうわけではありません。そんな理由で、やる気 ( インセンティブ ) をなくさせるような社会を作ってはいかんのです。「インセンティブ・デバイド」社会を阻止するために、教育制度や企業内での平等な評価を推進するとともに、その社会に所属する人々自身も、自分の人生に前向きに取り組んでいく必要があるのだと思います。


さーて、上司のマライヤ。今宵はすっかり気分がよくなったのか、レストランでこっくり、こっくり始めてしまいました。


「しょうがないなぁ ・・・・・・ オレが払ってくるから、ちょっと待ってて ・・・・・・ ( 「今日は私のおごりだからね、じゃんじゃん食べてね ! 」 って言ってたくせに、なんだよ。ブツブツ ・・・・・・ ) 」


支払いを済ませて戻ってくると、マライヤが私をにらみつけて言いました。


マライヤ 「お勘定は ? 」


私 「 ( なんでにらまれにゃならんのだ ! ) 済ませたよ」


マライヤ 「それじゃ、私の立場がないじゃないの」


私 「いいんだよ ・・・・・・ ( さっきまで、思いっきり寝とったやないけーー )」


マライヤ 「ユー アー スニーク ! 」


私 「だれがヘビやねん ! 」


ケイイチ 「ちがうちがう、You are sneak って言ってるんだよ。ずるい人ね、って」


私 「なんじゃそりゃ ! 」


マライヤ 「 ・・・・・・ タカシもケイイチも、頑張らなきゃだめよ。何事も、なせばなる ( can-do spirit )んだから、ね ! 」


その通り、「なせばなる」。いつも前向きなインセンティブを持ってやっていれば、道は開けるってもんですよね、マライヤさん !

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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