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タカシの外資系物語

「割れ窓」に気をつけろ !2005.02.22

定期的な書類整理

今日は、4 半期に一度の「Paper Chase Day」です。Paper Chaseというのは、「書類整理」という意味でして、要はいらなくなった書類を整理して、シュレッダー等に捨ててしまう日という意味です。しかし、わが社では数年前からペーパーレスのオフィスを実現しており、全社で一斉に整理するほどの、大量の紙は存在しません ( どうしても紙でしか保存できないような書類、例えば人事関連の資料なんかは、若干残っているんですがね )。では、何を整理するのかというと、社内サーバーや自分の PC 上の「ファイル」を整理することになっています。


わが社の個人別 E メールサーバーには、150MB までのメールを保管することが可能ですが、150MB を超えた瞬間に外部にメールを出せない仕組みになっています。130MB を超えたあたりから、自動的に「Warningメッセージ」が届く (「もうすぐメールのやりとりができなくなりますよー」というメッセージ ) のですが、仕事が忙しいと、ついつい整理を怠ってしまいがちです。で、そのままにしておくと、外出時でモバイルでしかアクセスできないときに限って、サーバーの容量が 150MB を超えてしまい、メールのやり取りができず、ヒドイ目に遭ってしまうことが多いのです。全社行事として半強制的に「Paper Chase」を実施することによって、このようなトラブルを防止することにも、一役かっているわけです。いずれにしても、定期的に書類の整理をすると、気分もリフレッシュして仕事もはかどるような気になるのは事実です。

「ハンコ」が招く非効率

さて、上記の Paper Chase に代表されるように、外資系企業のオフィスは、一般的に非常にきれいで整理されています。わが社の場合でも、紙はおろか、机の上にバインダーや文房具のような備品すら、一切ありません。あまりにも整然とした何もない部屋で、夜間や休日などに一人で仕事をしていると、本当に寂しくて涙が出そうになるぐらいです ( ちょっとオーバーですが )。


実は私、机の上の書類とかを整理するのが、大の苦手でした ( 今でも苦手なのですが、定期的に書類整理を強制されるので、それなりに整理できるようになっただけです )。銀行にいたときなどは、書類が何重にも天高く積み上げられ、その「ペーパー摩天楼」の間を覗き込まないと、私の顔が見えなかったほどです ( これも、ちょっとオーバー )。


また当時は、いわゆるワークフロー ( 経費の申請や稟議書の回覧などを、システム上で自動的に処理できる仕組み ) などなかったものですから、上司に何かの承認をもらうためには、書類の右上に「4 つ目印」と呼ばれるハンコを押すための「枠判」を押して、それを「担当者→主任→課長→部長」などの順番に回覧していました。「書類はすべて紙に印刷し、自分が見たという証拠を残すために、ハンコを押す」…… このことによって、オフィスは紙で溢れかえる大きな原因を作ってしまったのです。そもそも、日本社会における「ハンコ」って、世界的に見ても異質な存在ですよね。見た証拠を残したいだけなら、サインで十分だと思うんのですが、どうでしょうかね。

 

「15 連くし団子」の恐怖 !

これは余談ですが、私は銀行員時代に「ものすごい修正印」を見たことがあります。どこの会社でもそうだと思うのですが、特に銀行では、書類上の一部を修正した場合には、修正箇所を二重線で消して、その上に「修正印」を押すという処理をしなければなりません。これ自体は法律で規定されている書類の正式な修正法なので、特に問題はありません。しかし、会社というのは厄介なところでして、担当者が修正印を押しただけでは、修正したことにならないケースがあるのです。例えば、その書類の責任者が課長である場合には、修正箇所を二重線で消して、その上から担当者が修正印を押し、その横に課長も修正印 ( いわゆる、添え印 ) を押さねばなりません。責任者が部長の場合は、「担当者+課長+部長」のハンコが押されることになり、見た目はさながら「くし団子」のようになります。私が見た「ものすごい修正印」というのは、「3 連くし団子」なんて生やさしいものではなく、なんと 15 連ものハンコが連なっているものでした。


私がシステム担当者だった頃、本決算の数字を間違って公表してしまったことがあります。もちろん、私が間違えたというよりはシステムのプログラムが間違っていたのですが、担当は私だったので、まず私が修正印を押したわけです。次に主任が押し、課長が押し…… これぐらいならよかったのですが、元の資料がすでに社外に発表されていたため、困ったことに責任者が「頭取 (= 社長 )」という扱いになってしまいました。そのため、「担当者 ( 私 )-主任-課長-副部長-部長-担当役員-・・( 中略 )・・-専務-副頭取-頭取」が順に修正印を押した結果、「15 連くし団子」が出来上がってしまったわけです。いやまぁ、確かに頭取までハンコが並ぶとそれなりに感動はあるのですが、それ以上に、私は何となくガッカリしたのを覚えています。その理由は、


・少なくとも、私が社長になるまでには、「15 ランク」もの昇進をしなければならない ( 気が遠くなりますね )


・ この「15 連くし団子」のハンコをもらうためだけに、課長と私が走り回って、2 週間以上かかった ( もっと意味のある仕事をしろ、って感じですね )


ということ。ま、このように、日系企業の「ハンコ文化」というのはバカげているということが理解いただけると思います。

「割れ窓理論」とは ?

さて話を戻しましょう。外資系企業には「ハンコ」はありません。なので、日系企業よりも格段に書類の数は少なくなります。しかし、「ハンコ」がないことだけが、外資系企業における書類が少ない理由だとも思えません。つまり、外資系企業では、「ハンコがない」「処理がワークフローになっていて、PC 上で完結できる」ということ以外に、もっと重要な理由があるために、日系企業に比べて書類が極端に少なくなっているのです。その理由とは、一体何なのでしょうか。


犯罪学者ウィルソンとケリングが提唱した理論に、「割れ窓理論("broken window theory")」というのがあります。「割れ窓理論」というのは、建物やビルの窓ガラスが割られて、そのまま放置しておくと、外部からその建物は管理されていないと認識され、割られる窓ガラスが増えるというもの。そのまま放っておくと、建物やビル全体が荒廃し、ひいては地域全体が荒れていくという考え方です。例えば五十年ほど前のアメリカでは、空き家になった住宅にヒッピーが住みつき、美しい町が荒廃の危機に直面したことがありました。つまり、たった 1 枚の割れ窓を放置した結果、町全体が荒れ、無秩序状態になり、町の崩壊につながりかねないということを意味しているわけです。


この考えを政策に活用したのが、かの有名なニューヨークのジュリアーニ前市長です。90 年初めのニューヨークは、凶悪犯罪が頻発する、非常に危険な都市でした。ジュリアーニ前市長は凶悪犯罪をなくすために、凶悪犯罪そのものを厳しく取り締まるのではなく、地下鉄の落書きなど、非常に軽微な軽犯罪の取締りを強化したのです。つまり、都市が荒れるのは、都市そのものがよどんでいることが原因なのであって、よどみをなくして「澄んだ水」にしてしまえば、凶悪犯もどこかに行ってしまうと考えたわけです。ジュリアーニ前市長の読みは見事に当たり、現在のニューヨークは観光客もそれなりに安心して町を歩ける、安全な都市になったというのは、みなさんも知るところだと思います。

 

――――――――― 「割れ窓」から自分を守れ ! ―――――――――

 


さて、この「割れ窓理論」とオフィスの整理との間に、どのような関連があるのでしょうか。それは、外資系企業がオフィスから書類や物入れを排除し、非常にきれいな職場環境を保持している最大の理由は、「オフィスから不正を起こさせない」とか、「処理ミスを防ぐ」ということを狙っているのです。つまり、ビジネス上の不正やミスが起きるのは、オフィスに紙などが散乱していて整理されていないことが主な原因であるという、一種の「割れ窓理論」の考え方に立っているのです。その証拠に、欧米企業のオフィスが整理整頓され、極端にシンプルにすることがブームになったのは、ちょうどジュリアーニ前市長による施策の効果が現れだした頃と同時期とのこと。欧米企業の多くが、ジュリアーニ前市長の施策の「マネ」をしたわけですね。


最近は、日系企業においても、非常に整理されたシンプルなオフィスをよく目にします。しかし、それを見てわれわれ日本人が感じるのは、単に「センスがいい」とか、「カッコいい」というような感覚的な域を出ていないような気がします。外資系企業がやっていることはすべて、何らかの理由があります。単に「カッコよさ」を追求するために、オフィスをきれいにしているわけではなく、「割れ窓理論」のように、それなりに納得できる理由をベースにしているということです。


さーて、読者のみなさんも、自分の身の回りを整理してみてはいかがでしょうか。「割れ窓」を放置しておくと、どこからともなく「不正」「紛失」「処理ミス」「非効率」なんていう、ありがたくない疫病神が寄ってくるかもしれませんよ。くれぐれも、ご用心を !

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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