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タカシの外資系物語

外資系とディベート ( その 1 )2004.11.25

ディベートって、何 ?

みなさんは、「ディベート」をしたことがありますか? 


「ディベートって、『議論』のことだろ。それなら毎日やってるさ……」 


確かに、”debate” (ディベート)を辞書で引くと、「議論・討論」と出てきます。議論や討論なら、会議や打ち合わせで、毎日ウンザリするほどやっているかもしれません。しかし辞書を読み進むと、次のような意味も書かれています。「自分の主張を無理に決めて、相手と討論すること」「自分の主張がどんなに間違っていても、その主張を曲げないこと」…… これらの意味からでは、何となく「分からず屋」とか「頑固者」といったイメージを受けてしまいますね。 


では、”debate” って一体何なのでしょう。英英辞典を引くと、以下のように書かれています。 


・ the formal presentation of and opposition to a stated proposition (usually followed by a vote) (ある主張に関する公式な反対意見のこと(賛成と反対、どちらの意見を支持するかは、投票で決められることが多い)) 


・ a discussion in which reasons are advanced for and against some proposition or proposal (ある主張や提案に対する賛否両論を議論すること) 


そもそもディベートというのは、「賛成意見と反対意見を戦わせて議論する」ことを指します。ですから、ほとんど結論が決まっているような出来レースの会議で「議論」することは、厳密に言えばディベートとは言えません。 

ディベートにおける勝敗と「必勝法則」

私が初めてディベートに触れたのは、大学生のときでした。当時私は「ESS(English Speaking Society)」という英会話サークルに所属しており、その中に英語でディベートをするという活動があったのです。「英語で議論をするなんて、なんてアカデミックで優雅なサークルなんだ……」と思われるかもしれません。しかし、実態はかなり違っていまして、そこには勝ちか負けかという仁義なき戦いが存在していたのです。 


ディベートではまず、議論のテーマが決められます。次に、賛成なのか反対なのかをチーム分けします。ディベートでは賛成チームのことを ”affirmative”、反対チームのことを ”negative” と言います(それぞれのチームは、「アファ」「ネガ」と略されていました。「アファ」が「アホ」に聞こえるという非常にくだらない理由で、いつも何となく「ネガ」チームに行きたがっていたのは私だけではありません……)。チーム分けはくじ引きで決めるのですが、ここで重要なことは「議論の直前までどちらのチームになるかわからない」ということです。ですから、ディベートに参加するチームは、事前にテーマに合わせた「賛成意見」と「反対意見」の両方を用意しておく必要がありました。 


例えば、「日本は外国産の米を輸入すべきか否か?」というテーマを考えてみましょう。このテーマにおける「アファ」「ネガ」それぞれの意見は以下のような感じになります。 


・「アファ」(賛成意見) 

1. 安価な米が輸入されることにより、日本の消費者が喜ぶ 2. 輸出元となるアジア発展途上国の農家の所得水準が向上し、国力が増す 


・「ネガ」(反対意見) 

1. 日本の稲作農家が競争にさらされ、多くの農家が破綻する 2. 日本人の舌に合わない米が氾濫し、多くのおにぎりの味が落ちる 


ディベート大会に参加するチームは、事前にこのような賛成意見・反対意見を、それを裏付ける証拠(”evidence” といいます。通称「エビ」)とともに準備しておきます。議論は各チームのプレゼンテーション、相手チームへの質問およびその回答をして終わります。議論の勝敗は、審査員(”judge”)が決めます。勝敗のポイントは、どちらのチームが論理的な意見を述べていたか、相手チームの質問にスムーズに応対ができたか、などという観点で決められます。 


これは余談ですが、ディベートで勝つためには、ある「必勝法則」が存在しました。それは、「核戦争が起こる」という結論を導いたチームが勝つということです。例えば上の例で言えば、次のような感じです。 


外国米が輸入される→日本の農家が破綻する→日本各地で暴動が起こり、その鎮圧のために自衛隊を派遣→自衛隊では間に合わず、日本政府が欧米の軍隊に応援派遣を依頼→軍隊の応援派遣を依頼された核保有国の軍首脳が、誤って核ミサイルのボタンを押してしまう→核戦争が起こり、人類滅亡→よって、外国米の輸入反対 


まるで「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいな感じですが、この結論がスムーズに導き出せたチームが絶対勝ちます。なぜなら、核戦争以上に悲惨な状況は存在しないので、いかなる結論をも上回っているからです。何となく、今流行の「ロジカル・シンキング」みたいな感じだと思いませんか。 

相手のツッコミに備える

で、仮に上のような論理展開をした場合、まず間違いなく「軍首脳が、誤って核ミサイルのボタンを押してしまう」という部分にツッコミが入ります。「自国の軍隊を日本に派遣することと誤って核ミサイルのボタンを押すことについての、合理的な因果関係を教えてください !」こう質問されたら答えようがないのでアウトです。ですから、事前の準備段階でこのようなツッコミを想定して準備をしておくことになります。また準備をする中で、どうしても「ここの論理展開は弱いなぁ……」という部分は何となくわかります。事前にそのような部分を見つけておけば、実際の議論のときに非常に役立ちます。なぜなら、そのような部分は、自分の弱点であると同時に、相手チームの弱点でもあるからです。 


ディベートでは、アファならアファだけ、ネガならネガだけという風に、どちらか一方だけの準備では絶対に勝てません。仮に自分がアファで議論しているなら、ネガの準備をしているときに、どのような部分で困ったかを覚えておき、その部分について相手に質問を浴びせれば、相手も自分と同様に困るはずなのです。 


ディベートの流れは、裁判に似ています。しかし裁判の場合は、弁護士と検事の立場が入れ替わることはありませんが、ディベートの場合は自分がネガになるかアファになるかわかりませんから、より柔軟な取り組みが必要となります。 


日本人が海外の大学で MBA を取得する際に、一番面食らうのが「ディベート」形式の講義だと言われています。その理由は 1 つ。日本人がディベートに全く慣れていないからです。われわれが体感できる一番身近なディベートは、政治家同士の討論です。先ごろのアメリカ大統領選でもブッシュとケリーがテレビ討論を展開していましたが、あれはまさにディベートです。ブッシュ陣営(共和党)は自分の政策だけを述べているように見えますが、実はケリー陣営(民主党)の政策を研究し尽くした上で、その弱点を突いているのです。そして、ディベートの必勝法則を持ち出します。大統領選の場合は、「テロでアメリカ社会が破壊される」なんて結論を導いて、相手の意見を否定していたわけです。 

ディベートが下手な日本人

一方で、日本の場合はどうでしょうか。自民党の小泉首相と野党議員の攻防を聞いていると、これがディベートだとは到底思えません。一体、何が欠けているのか。それは相手の意見に対する研究(どのような質問をすれば相手が困るのか)とディベートの「必勝法則」(何に結論付ければ勝てるのか)を心得ていないことに尽きます。例えば、「戦争で人が死ぬ」というのは必勝法則の 1 つです。ですから、野党が与党のイラク派兵を責めるなら、「イラク派兵は殺人罪です。なぜなら、民間人でさえ殺されてしまう地に、自衛隊という軍隊を派遣すればどうなるかわかるでしょう ?」という具合に、極端な物言いをすることで、世論(= 審査員)を味方につければいいのです。それをウジウジと、曖昧な表現でわかったようなわからんような言い回しに終始しているから、世論を味方につけることもできずに、一生野党のままなのです。 


これはビジネス社会にも当てはまります。日本のビジネスマンは、呆れるぐらいディベートが下手です。それが日本人の国民性だと言ってしまえばそれまでですが、私は最も大きな理由は、ディベートすることのメリットを理解していないからだと考えています。ディベートのメリットとは何か ? それは、「物事の両極端(賛成と反対)の立場で考え、最終的な『落としどころ』を決める」ということです。ディベートの本来の目的とは、私が大学の ESS でやっていたような、アファとネガに分かれて勝敗を決めることではありません。とるべき結論というのは、賛成・反対といった両極端に存在するものではなく、ほとんどはその「中間」に存在します。特にビジネスにおいては、「総論賛成、各論反対」なんてことは日常茶飯事として起こるわけで、いかにバランスの取れた「中間策」を採るかが経営の巧拙を分けることになります。 


日本というのは単一民族国家であるために、ほとんどの国民は、だいたい同じような「常識」をもって生きてきました。ですから両極端を知らなくても、いきなり常識という中間策を出して、何となくコンセンサスをとることに慣れているのです。一方で、欧米人というのは侵略と戦争の歴史が物語るように、多くの民族や文化を融合しながら生きてきました。ですから、1 つの物事に対する賛成と反対の両極端を理解した上で、その中間の答えを導き出すこと(= ディベート)に慣れている(というか、そうせざるをえなかった)のです。 


確かに日本人、欧米人どちらのやり方でも「中間策」は出てきます。しかしここ数年の間に、日本人のやり方では、どうにもうまくいかない状況が出てきたのです。それについては、次回に詳しくお話します。 
(次回に続く)

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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