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タカシの外資系物語

エグゼクティブと付き合う ( その 2 )2004.08.31

役員には役員

前回の続き)さてさて、ある大手銀行の T 部長から、役員勉強会での講師を依頼された私。相手は、会長・社長以下、全執行役員ということもあって、緊張の中で準備作業を進めている最中に、T 部長から次のような「お願い」をされてしまいました。


「勉強会当日は、御社の役員の方(できればシニアクラスの方)にもご出席いただきたい……」


つまり、役員でも何でもない私では、役不足、バランスが取れないということなのでしょう。ま、気持ちはわからんでもありません。先方は会長・社長のトップが出席するところに、36 歳の若造が行って話をするというのは、日本のビジネス慣習からするとバランスを欠いています。しかし、よくよく考えてみると、これは単なる「勉強会」なのですから、そこまで形式的にする必要もないように思います。しかしまぁ、こんな些細なことでゴネていても仕方がありません。ここは穏便に、穏便に。


タカシ 「わかりました。内部で調整いたしますので、具体的に出席する者が決まり次第、ご連絡しますよ」


T 部長 「お手数かけてすみません。で、もう 1 つお願いがあるのですが……」


タカシ 「何ですか ?」


T 部長 「できれば、当日のプレゼンもその役員の方にお願いしたいのですが。。。」


おいおい、ちょっと待ってくださいよ、と…… 挨拶だけならまだしも、本編まで役員にやらせろとは、ちょっと勝手すぎるんじゃないですかね。


私は自分の顔が潰されたということで腹を立てているわけじゃないんです。今回のテーマ「金融機関の業務改革と IT」は私の専門分野ですし、うちの役員なんかより私の方がずっとうまいプレゼンができるのです。うちの役員に私が話すのと同じ内容を話させるように「特訓」するのも時間がかかるし、何よりも私が話した方が銀行の役員の方にも有意義な時間を過ごしていただけるような気がします。


タカシ 「そこまで、形式にこだわらないとダメなんですかねぇ ?」


T 部長 「いやぁ、面目ない…… 私自身としては、すべてタカシさんにやってもらうつもりでお願いしたんですけど、企画部の方がうるさくって…… お手数かけます……」
  
T 部長はしきりに恐縮していました。私としては、T 部長を困らせることは本意ではありません。この場は引き下がって、企画部の意向を呑むことにしました。それにしても、日本の会社って、疲れるなぁ……

わが社の役員に務まるか?

その日から 1 週間かけて、私は勉強会で使用するプレゼン資料を作成しました。本番まであと 1 週間に迫ったある日、勉強会でスピーカーを務めるわが社の役員 Y 氏と、事前打ち合わせをすることになりました。Y 氏は、組織上は私の直属の上司にあたるのですが、普段はほとんど会話をしたことがありません。日系ベンダーの営業部長から中途採用された人物で、コンサルタントというよりはバリバリの営業マンという感じです。


タカシ 「…… ということで、T 部長からの依頼を受けまして、勉強会の講師を引き受けることになりました。プレゼン資料のドラフトは、すでに私の方で作成済みです。先方の出席者は会長・社長以下、執行役員全員ということですので、今後わが社が営業活動を仕掛けていく上でも、有意義な機会になると考えられ……」


Y 氏 「よしよし、事情はなんとなくわかったよ。で、オレは何をすればいいの ? 挨拶して、座ってればいいのかな ?」


タカシ 「いや、本編のプレゼンをお願いします」


Y 氏 「ん ? 本編って ?」


タカシ 「だから、プレゼン本体を Y さん自ら話していただくんですよ !」


Y 氏 「なんで ?」


タカシ 「なんで、って、だから何度も言ってるじゃないですかぁ。先方の意向で、役員レベルの人に本編を話してほしいと言われたって !」


Y 氏 「おいおい、えらいことになったな…… こんな小難しい話オレには無理だよ。タカシさぁ、当日だけ役員に昇格させてやっから、お前が話せば ?」


…… あ、あのなぁ ……


その日から本番までの 1 週間、私は役員 Y 氏に対して、時間のある限り、本編で話すべき内容を伝えることにしました。しかし、Y 氏の多忙さもあって、実際にはほとんど時間が取れないままに、勉強会の本番を迎えることになってしまいました。

役員勉強会スタート !

勉強会当日。あと 10 分で勉強会が始まります。心配のあまり、昨夜はあまり眠れなかったもので、私は生あくびを必死にこらえていました。こんなことなら、自分で話す方が 100 倍くらいマシです。


Y 氏はというと、何食わぬ顔で T 部長と談笑しています。「大丈夫なのか、このおっさん……」


「それでは、ただ今より役員勉強会を始めさせていただきます。本日のテーマは 『金融機関における業務改革と IT』ということで、講師には○○コンサルティング 執行役員の Y さん、そしてコンサルタントのタカシさんをお招きしました……」


とうとう始まってしまいました。Y 氏は事前の段取り通り、私が作成した資料を説明しています。


「頼みましたよぉ、Y さん。お願いだから、変なこと言わないでね……」


プレゼン開始後 5 分経過、Y さん、順調に話しています。というか、むしろ話すのうまいし、面白いじゃないですか !


「かなり練習したんだな……」


私は Y 氏のことを誤解していたのかもしれません。これまでは、ゴリ押し営業のうまいおっさんぐらいにしか思っていなかったのですが、さすが「役員」になるだけのことはあります。


Y 氏のプレゼン終了後、質疑応答タイムになりました。さすがに質疑応答ともなると、プレゼン内容に関する細かい質問が多く、Y 氏では対応できないため、私の方で回答しました。意地悪な質問も多かったのですが、何とか切り抜けられたようです。ひとまず、ホッ。


勉強会の終了間際、社長さんからの一言がありました。


「本日は○○コンサルティングのみなさんにご足労いただきまして、本当にありがとうございました。プレゼン内容も質疑応答も非常に示唆に富む内容でした。今後の銀行経営の参考にさせていただきます。特に Y さんにおかれましては、執行役員というお立場上お忙しい中、私どもの勉強会でお話いただきましたことを心より感謝します……」

社長はすべてお見通し

翌日、私は早速 T 部長にお礼の電話を入れました。


T 部長 「あ、タカシさん、昨日はどうもどうも。本当に助かりました」


タカシ 「いやいや、お役に立てたのかどうか…… ご出席のみなさん、何かお話されてました ?」


T 部長 「いやそれがね、実はここだけの話なんですが、企画部の連中が社長に呼び出されましてね、何やら怒られてましたよ」


タカシ 「え ?! 何か問題でも……?」


T 部長 「いや、これはこちらの問題でしてね。何でも、こちらの都合で勝手にお願いした勉強会なのに、先方の役員を呼ぶとは何事だ、って。役員は忙しいんだぞ、こんな形式張った勉強会なら、講師の方に迷惑がかかるからやめてしまえ、って……」


タカシ 「はぁ ?」


T 部長 「つまり、企画部が気を回しすぎたってことですよ。こちらが役員だから、先方も役員って、そんなこと社長以下だれも気にしてなかったんですよね。実質的に、プレゼン内容そのものはタカシさんが考えたってことも、話聞いてりゃわかりましたから。それならタカシさん 1 人にお願いすればよかったのに、ってことです。いや、私もいろいろ反省する点が多いですわ。じゃまた、今度はビジネスの話持って行きますから……」

問題は役員のサポート役

自社、顧客企業を問わず、役員(エグゼクティブ)と付き合っていてわかるのは、以下のことです。


(1) 役員はやっぱり優秀である・・・わが社の Y 氏のプレゼン、あれは見事でした。私の心配は杞憂でしたね。


(2) 役員に対して周囲がいらぬ気遣いをするばかりに、無駄な作業を繰り返している・・・今回の件だって、講師は私一人で十分だったわけですから。


役員が意思決定できない、ガバナンスが欠如している…… など、いろいろと非難されている日系企業の役員さんですが、実はそんなことはないと思います。多くの役員さんはやっぱり優秀だし、実力もある。なのに、それを周りの取り巻き連中が妙に気を使うあまり、無駄な作業を繰り返す。挙句の果てには、不正や欠陥商品を隠して、会社を倒産の危機にまで追いやってしまう。


もちろん、役員の方にも非はあります。単に東大卒だからとか、年功序列だからという理由で、リーダーシップのかけらもない人も、中にはいます。しかし、役員の大半は、企業を経営していくのに十分な資質を持っている人だと思います。問題は、役員の補佐役であるスタッフの方こそあるのではないでしょうか。役員に傷をつけたくない、悪い情報は報告しない、そういったことが、結果的に役員を「裸の王様」にしてしまい、役員の能力を十分に発揮させていない原因となっているように思います。


「もし自分がこの会社の役員だったら……」 私は役員さんとお話する際には、このように考えながら話をするようにしています。常にそういう考えを持っていれば、「もし……」が「現実」になる日も近いのかもしれませんからね。

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

「タカシの外資系物語」の作者、奈良タカシさんへメッセージをお寄せください。

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