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タカシの外資系物語

外資系と CSR ( その 1 )2004.07.27

最近、新聞や雑誌で「CSR」という言葉をよく目にします。CSR というのは、Corporate Social Responsibility の略でして、一般的に「企業の社会的責任」と訳されています。それでは、CSR とは一体何なのでしょうか ?


CSR という言葉は最近になって出てきたものですが、その概念自体は目新しいものではありません。企業も社会の構成単位である以上、社会の発展に貢献しなければならないのは当然のこと。金儲けも重要ですが、一方で欠陥品を販売したり、環境を破壊するような企業活動は禁止されねばなりません。つまり CSR というのは、企業と社会がともに持続的に発展していくための取り組みのことを指しています。


具体的に話をするために、CSR を 3 つの側面に分けて考えてみましょう。CSR の世界では、この 3 つを「トリプルボトムライン」と呼んでいます。


(1) 経済的側面 
先に述べたように、企業の大きな目的の 1 つは「金儲け = 収益獲得」を追求することです。収益を上げることを通して、株主や顧客に価値を提供していくこと、これがCSR の経済的側面です。


(2) 社会的側面 
社会的側面とは、社会貢献活動を推進したり、政治や行政と適切な関係を確立することを指します。ボランティアや公的イベントへのスポンサーなどがこれに当たるのでしょう。また、従業員の能力を高めたり、働き甲斐のある職場を作ったりということも、この側面に含まれます。


(3) 環境的側面 
これは文字通り、昨今流行りの「環境にやさしい経営」を推進することを指します。最近では、環境的側面を具体的に評価する基準として、「ISO」というのが認知されてきました。ISO というのは、International Organization for Standardization(国際標準化機構)の略です。ISO が定める基準にはいくつかあるのですが、企業が本当に環境に優しい経営を行っているかどうかを定めた規格を、一般に「ISO14001」と言っています。 
  
ここ数年、企業に対する ISO 取得のコンサルがはやっています。これは余談になりますが、実は私も以前の会社で ISO コンサルのお手伝いをしたことがあります(ISO 部門の人手が足りなくなったので、3 週間ほどヘルプで入っただけなのですが)。


ISO のマネージャー 「じゃ、タカシはさ、この工場のプロセスの中で、ゴミを出してるところをチェックしてくれるかな」


タカシ 「ゴ、ゴミですか……どんな作業プロセスでも、多少のゴミは出るんじゃないっすかね ?」


ISO マネージャー 「いや、そういう意味じゃなくて、大量のゴミとか、もしかしたら産業廃棄物とか、そういうのを言ってるんだよ !」


タカシ 「あ、なるほどね」


ISO マネージャー 「それが済んだら、そのゴミを、工場がどのように管理しているか、またはしていないのかチェックしてね」


タカシ 「へ ? 管理だけでいいんですか ? ゴミを減らすように指導するとか、そういうのは ?」


ISO マネージャー 「そりゃ、ゴミが減るにこしたことはないさ。でも ISO で重要なのは、ゴミを減らすことよりは、自分が出したゴミをきちんと管理してるか…… 例えば、不当投棄とかしてないかというのを自社でチェックできているかということなんだよ」


タカシ 「ふーーん、そういうもんなんですね……」


上記の通り、ISO が重視するのは、ゴミ廃棄など環境に影響を与えるプロセスについて、PDCA(Plan、Do、Check、Action)のマネジメントサイクルで管理ができているかということにあります。確かに、きちんとしたサイクルで管理されている企業は、産業廃棄物の不法投棄など起こしようもないわけですからね。


それにしても、ISO 部門スタッフは二言目には、「ゴミ出すな」「紙使うな」「電気消せ」、これに「風呂は入れよ」「歯磨けよ」が加われば、まるで口うるさい母ちゃんか、8 時だよ!全員集合のエンディングです(たとえが古い……)


さて、話を元に戻しましょう。以上が CSR のトリプルボトムラインということになります。「なーーんだ、当たり前のことじゃねぇか……」って、気がしませんか。その通り、CSR というのは、企業活動の基本中の基本といえるようなものばかりです。しかし、近年、数多くの企業が「基本中の基本」を守れなかったばかりに、不祥事や破綻を起こしています。体に害のある食品や欠陥車を売りつけておいて、事故が起こってからも知らんぷり。当たり前のことである CSR の考えを、再度徹底しようという動きが出てきたこともうなずけます。


また、それ以上に CSR が注目されるようになってきた大きな理由として、「投資家の目」があります。つまり、CSR への取り組み具合を投資の判断基準にしようという動きが、欧米を中心に活発になってきました。これを「社会的責任投資」(SRI:Socially Responsible Investment)と言いまして、最近では CSR に活発に取り組んでいる企業のみを投資の対象とする「SRI ファンド」なんてのも出てきました。


確かに、みなさんも学生時代のことを考えてみてください。スポーツが得意なだけ、勉強ができるだけ、ケンカが強いだけ、なんて人は、学級委員に選ばれなかったと思います。やっぱり、掃除もきちんとするし、くだらない授業でも「内職」しないでノート取ってるし、なんていう「優等生」が学級委員に選ばれるわけです。企業社会でも同じことでして、優れた商品やサービスを提供するだけでは、よい企業とはみなされないということなのでしょうね。


そして、CSR の考え方というのは、経営陣だけではなく、われわれ一般社員こそ肝に銘じなければならないことだと言えます。私も過去を振り返ってみると、反省すべき点が多いと思っています。最初の就職先として選んだ銀行に入るときは、「優れた技術を持っているのに資金不足で困っている企業を、何とか助けたい。そして、日本の、いや世界の経済発展に貢献したい !」なんていう志しをもって就職しました。しかし、ふたを開けてみると、その志は 3 年も持たずに消えうせ、行員全員で「一丸」となって不良債権隠しに邁進したというのが事実です。ま、私の例は極端だとしても、サラリーマンを長くやっていると、収益という「数字」だけに振り回されて、企業が果たすべき責任に関する意識が希薄になってきます。CSR というのは、企業の経営者から社員の末端にいたるまで、再度襟を正して、熱い思いを復活させるには絶好の「教材」なのかもしれません。


CSR が盛り上がる一方で、日系各社における現状の取り組みは、形式的な域を出ていないような気がします。上に述べたように、CSR への取り組み状況が自社の株価にも影響する昨今、各企業の経営者は、外部への情報発信だけに気をとられ、実際の活動が伴っていないケースも多く見られます。


CSR に関して形式的な取り組みにとどまっている日系企業と、CSR が経営の核として認識されている外資系企業、両者の差はどこにあるのでしょうか。次回以降でご説明したいと思います。

( 次回に続く )

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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