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タカシの外資系物語

「未来の商品」を育てる2004.06.22

先日、1 年ぶりにヘッドハンターの T 氏から連絡がありました。T 氏とは、もうかれこれ 5 年ぐらいの付き合いになるでしょうか。何を隠そう、彼は私にとっては初めて「正式に」お付き合いしたヘッドハンターなのです。実はそれまでにも、数人のヘッドハンターから声がかかったことはありました。しかし T 氏のように長くお付き合いできている方は、いまだかつていません。理由は簡単でして、 T 氏以外の方からは、それ以降連絡がないだけのことなのです。おそらくは、私に声がかかったのは何か特別な案件 ( 例えば IT 企業が大量のコンサルタントを募集している等 ) があって、たまたま私がその条件に合っただけなのでしょう。そのようなケースでお断りをした場合、ほとんどの場合は二度と連絡はありません。


以前にもお話したように、ヘッドハンターにはいくつかの種類があります。( 『転職を考える ( その 2 )』参照のこと )

T 氏の所属するヘッドハンティング会社は、世界的にも有名な会社のようでして、いわゆるエグゼクティブ ( 管理職 ) 以上を対象にしているそうです ( 私も詳しくは知らないのですが、インターネットで調べたところ、世界で五指に入る会社とのこと )。5 年前に声がかかったとき、T 氏からその話を聞いた私は、「お声かけいただくのはうれしいのですが、私はまだまだ 『エグゼクティブ』 なんてほど遠いと思いますがね ……」と、正直に感想を述べました。すると T 氏いわく、


「いや、今のタカシさんに興味はないんですよ。私はあなたの 10 年後に期待しています。ですから、それまで良好な関係を続けていただければと思っています」


と、これまた正直な回答をもらったことを覚えています。なんか、喜んでいいのか悲しいのか、複雑な心境でしたがね。 
  
それにしても 10 年とは、何とも気の長い話です。しかし T 氏の会社のやり方は、少数精鋭にターゲットを絞って、その人たちの転職を斡旋することにあります。一般に、ヘッドハンティング会社が紹介先の企業から受け取るフィーというのは、紹介者の年俸の 20% 程度と言われています。T 氏は年俸 1,500 万以下の案件は手がけないそうですから、1 つ成功すれば 300 万以上の儲けということになります。T 氏の会社は、薄利多売ではなく、それなりに収益の見込める案件に絞っているわけです。そのためには、長期にわたる「種まき」が必要だということですな。


違う見方をすれば、T 氏にとっては、私はまだまだ「未来の潜在商品」でしかないわけです。はっきり言えば、エグゼクティブとして私をどこかの企業に紹介するには、まだまだ物足りないわけで、その証拠に、これまで T 氏から具体的な話を持ちかけられたことはありませんでした。5 年間の付き合いの中で、実際に 10 回程度会っていますが、いつも近況や世間話をするだけで終わり。おそらくは、今回も単に私の近況を探るという目的で、T 氏は私に連絡したに違いありません。しかし、私は T 氏と会って話したいことがありました。実は私、昨年転職したことを T 氏に話していなかったのです。昨年の転職時には、私は自分の行きたい会社が決まっていたため、自分で応募して転職しました。ほかの斡旋会社を使ったわけではないので、何も T 氏に気兼ねする必要はないのですが、今の今まで、なぜか言い出しにくかったのは事実です。


T 氏との約束は、ある週末のお昼前、場所は有名ホテルのロビーでした。


T 氏 「いやぁ、タカシさん、すっかりご無沙汰しています。かれこれ、1 年半ぐらいになりますかね。どうですか、最近、何か変わったことあります ?」


( ギ、ギクッ ! )


タカシ 「いや …… 実は去年の 10 月に転職したんですよ、同業の○○コンサルティングに。自分で応募して決めたんですけどね ……」


T 氏 「ほぅーーー ……」 
気のせいかもしれませんが、一瞬 T 氏の顔がピクッと反応しました。


タカシ 「ま、同業ですから、仕事の内容は前とほとんど変わりませんがね」


T 氏 「じゃ、一時避難したって感じですかね」


今度は私の顔がピクッと反応しました。「一時避難」というのは何とも微妙な表現です。しかし、T 氏の言いたいことも、よくわかります。私とて、今の○○コンサルティングへの転職が最終ゴールだとは、つゆ思っていないのですから。


T 氏 「タカシさんの前の会社は、最近業績があまり芳しくなかったですよね。かつ、事業の方向性を大きく転換しようとしていました。それがイヤで辞めたんですね ?」


( ず、図星やんけ …… )


T 氏 「今回の転職先は○○コンサルティングですから、長期的に見て、タカシさんのキャリアにマイナスになることはありません。でも、あまり転職を繰り返すのはお勧めしませんよ。仕事の内容が大きく変わるようなら別ですが、今回の場合はそうでもないようですから。5 年後のことを考えて、じっくり考える姿勢も必要です」


さすが T 氏。そんじょそこらのヘッドハンターとは格が違います。私がどうしてこれまで T 氏との付き合いを続けてきたかと言うと、彼の私に対する真摯な物言いに感銘を受けているからに他なりません。彼は、ときに非常にキツイ言い方で私に迫ってくるのですが、その指摘たるや否定のしようがないほど的確なのです。


T 氏 「今後そういうことがある場合には、私に一声掛けてくださいね。」


タカシ 「は、はぁ …… すみませんでした …… ( な、なんで謝らなアカンねん …… )」


T 氏の表情が少し和らぎました。自分が 10 年越しで手がけている「商品」にキズがついていなくて、少し安心したのでしょうか。


T 氏 「さてと、久しぶりなんで、タカシさんの将来に対するイメージを、再度伺っておきたいと思います。5 年後には、どうなっていたいと思っています ?」


再び、ギクッ ! 5 年前、初めて T 氏と会ったときと同じ質問です。そのときは、「10 年後はどうなっていたいか ?」でしたが …… それにしても、5 年後の将来像なんて、普段ほとんど考えてないよなぁ ……


タカシ 「そうですね …… 5 年後かどうかはわからないですが、最終的には普通の事業会社で仕事をしたいと思っています。コンサルタントという立場ではなくて、自分の会社のために仕事をしたいですね」


T 氏 「お考えがちょっと変わったようですね。以前は、ずっとコンサルタント業界にいたいというお話だったように記憶してるんですが ……」


タカシ 「ええ、考え方が少し変わりました。コンサルタントもそれはそれで面白いのですが、なんかこう、達成感がないんですよね。結局は他人の会社の話だし …… コンサルタントとして身につけた経験やスキルを活かして、自分が所属する会社の変革を実現できたら、なんてことを考えています」


T 氏 「なるほど。実は私もその方がいいと思います。タカシさんはコンサルティング業界で出世するには、少し優しすぎる……なんていうか、ズルさがないんですよ。あなたのような素直な人は、この業界では頂点には行きにくい。あとは学歴ですね。MBA をお持ちでないのは、正直言って厳しいです……」


話しているのが T 氏以外の人だったら、私はムッときていたに違いありません。しかし、T 氏の指摘が正しいのは、業界に身を置く私には痛いほどわかるのです。


T 氏 「事業会社を目指すのであるなら、スキルセット ( スキルの構成 ) を変えた方がいいかもしれませんね。タカシさんの場合は、営業-事務-システムと、会社のあらゆる実務をバランスよく理解されています。でも、このスキルセットは、強みでもあり、弱みでもあるのです。確かにコンサルタントとしては、強みとして有効に機能したかもしれませんが、事業会社で働く場合には、どこかに突出したスキルがあった方がいいのです」


これも痛いところを突かれています。確かに、私は自分で言うのも何ですが、ある意味で非常に「物知り」です。特に、金融機関においては、営業から事務・システムまで一通り経験していますし、大抵のことは知っています。なので、コンサルティング業界に移ってからも、どのようなテーマの案件にも対応できる、非常に使い勝手のいいコンサルタントとしてやってきました。しかし、どこかに突出した強みがあるかというと …… 特にないのですよ、悲しいことに。


T 氏 「ここ数年は、何でも対応するんじゃなくて、何かテーマを絞って、コンサルティング案件を取捨選択してはどうですか ? 例えば、営業部門の業務改革に特化して案件をこなしていくとか。このまま『何でも屋』としてやっていると、5 年後がきつくなりますよ」


…… トホホ …… ま、T 氏の言う通りなんだけどね …… 実際には、仕事を選ぶなんてことは、なかなかできません ……


結局その日も、T 氏から具体的な転職話は出ませんでした。しかし私にとっては、大きな収穫があったと思っています。日常の仕事に追われていると、ついつい長期的な視野が失われていきます。たまに T 氏に会うことによって、長期的な目標 = 「5 年後、どうなっていたいのか ?」 を再認識することができます。


そして何よりも、自分の弱みを他人から指摘してもらうことで、それを改善する意識・意欲がわいてきます。確かに T 氏の話の大半は、私にとっては耳の痛い話なのですが、それに耳をふさいでしまっては、これ以上伸びることはないのでしょう。人間、それなりの年齢になると、「オレはこれ以上変わりようがない。今が完成形だ !」と考えがちになりますが、実はそう考えた時点で終わりなのです。特に、外資系企業に勤める上では、成長を止めること = 自分のキャリアにとっての死を意味します。何歳になっても、常に成長する意識がなくては、外資系企業ではやっていけません。


5 年後に T 氏の思い描くような「商品」になれるかどうか、現段階では何とも言えませんが、少なくとも T 氏が継続的に会ってくれている限りにおいては、何らかの可能性はあるのでしょう。


T 氏 「…… では、5 年後に向かって、頑張りましょうね !」


果たして、T 氏にとっての未来の商品「タカシ」は、どのくらい大化けしているのでしょうか。自分のことながら、楽しみにしていたいと思います。

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

「タカシの外資系物語」の作者、奈良タカシさんへメッセージをお寄せください。

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