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タカシの外資系物語

外資が好む業界とは ? ( その 2 )2004.06.15

前回のコラムでは、日本で成功する外資系企業の多くは、ルールの定まっていないマーケットに進出し、大きな成果を挙げていることをお話しました。「ルールが定まっていない」というのは、潜在的なニーズはあるものの、まだ勝ち組といえるような企業が存在しないような未成熟市場のことをいいます。では、これ以外に外資系企業が好んで進出してくる業界というのは、どのようなものがあるのでしょうか。前回お話したソフトウェア業界におけるインド系企業を例に考察してみましょう。


昨今のインド系企業の多くは、ソフトウェア開発の分野で強みを発揮しています。彼らは、最初のうちはソフトウェア開発の末端 ( いわゆる下流開発 ) を請け負うだけの存在であったものが、システムのオープン化の流れの中で実力をつけ、次第に主導権を握ることに成功しました。ちなみに「システムのオープン化」というのは、ハードやソフトの仕様 ( 仕組み、設計図 ) を標準的に外部に公開することをいいます。従来は、欧米や日本の企業が独自に開発したハードに、これまた独自に開発したソフトを載せていたわけで、結局のところ資本力のある大企業が、その系列の範囲内 = 閉じた世界でのみビジネスを行っていました。


技術の発展とともに、システムのオープン化が進展してくると、系列外の企業もそのビジネスに便乗することができるようになります。確かにハードの開発・販売にはそれなりの資本を必要としますが、ソフトウェア開発ならば、基本的には頭と体と PC さえあれば仕事ができます。インド系企業はしばらくの間は、ソフトの開発に特化することによって、資本力の乏しさをカバーして、何とか耐え忍んでいたわけです。そうこうしているうちに、システムのオープン化という大きな環境変化 (= ルール変更 ) が世界規模で起こり、旧来のハード・ソフト閉鎖型のベンダーが落ちぶれる一方で、オープン型のインド系企業が台頭してきたわけです。


実は私の同僚にも、数名のインド人がいます。彼らは、金融機関向けのリスク管理システムの開発やコンサルティングを行っています。リスク管理というのは高度な数学を駆使する世界でして、私もだいたいの内容ならわかるのですが、システム開発となると手も足も出ません。イメージ的には、日本でいうところの理系大学院レベルの数学力でしょうかね。しかしソフトウェア開発における彼らの強さというのは、大学院で勉強したからどうだといったもんでもないのです。何といいますか、「ツボ」というか「コツ」を押さえている、知り尽くしているという感じ。高度に訓練されている、という感じですね。試行錯誤があまりなく、正解に達するまでの時間が短いという印象です。


こういう話をすると、「インド人は 0 ( ゼロ ) を発明した国民なのだから、生まれつき数学などの理数系が得意なのだ」ということを言う人がいるのですが、それはあまりにも短絡的な考えです。生まれつき、あんな難解な数学を駆使できる人など、世の中に存在しません。国民の大半に、生まれながらに数学の能力があると考えるのは、そもそも無理があるのです。つまり彼らの理数力は、間違いなく後天的なものです。その能力向上に大きく貢献しているのが、官民挙げての「教育インフラの整備」ではないかと思います。まず英語のみで教育を行う仕組みを作り、英語をベースにしながら、徹底的に理数系を鍛えていく。こうすることで、英語が話せて理数系に強いインド人が数多く生まれてきたのです。


次に、インドには欧米や日本のような確固たる経済基盤がありません。つまり、地場の大企業が存在しないわけで、国内にはメシのタネがない以上、海外に目を向けていくしかないわけです。彼らは、欧米や日本の企業にとっての「外資系企業」となることによって、ビジネスを展開するしか道がなかったのです。欧米や日本の企業を顧客にするためには、同じ「レベル」で会話ができなければなりません。ということで、英語を使うことは必須。さらに IT の分野なら、「プログラム」という共通言語で勝負が出来るというメリットもあったわけです。


加えて、安価な労働力が挙げられます。最近は日本人より単価の高いインド人エンジニアも現れるようになってきましたが、それでもまだ、欧米や日本の人件費単価よりは安いというのが一般的でしょう。


以上のようなインド特有の要因にプラスして、資本を必要としない「オープン IT 化」という環境変化が起こった結果、現在の IT 国家インドが誕生したわけです。


ここで、インド企業の特徴をまとめてみましょう。


(1) ルールが確立していない世界 ( 例えば IT 業界 ) で勝負


(2) 「ハード」では資本力のある先進諸国 ( または自国内企業 ) には勝てないので、「ソフト」で勝負


(3) ビジネスに必要十分な英語力


(4) 付加価値の高い専門知識 ( 例えばソフトウェア開発の能力 )


(5) 安価な労働力を提供可能


これらの特徴は、「成功する外資系企業の条件 ( 特徴 )」として読み変えることも可能です。これが全てとは言いませんが、成功する外資系企業のほとんどは、(1)~(5) の特徴を兼ね備えています。逆に言うと、これらの特徴が十二分に発揮できる分野こそが、外資系企業が好んで参入してくるビジネス分野なのです。


では、日本企業は彼ら外資系企業に立ち向かうことができるのでしょうか。


まず (1) ですが、とかく日本人というのはルールのない世界で行動するのが極めて不得手な国民だと思います。ましてや自らの手でルールを作り上げるとなると、非常に困難だと言わざるをえません。


(2) についても同様に厳しいと思います。


(3) は言うまでもなくダメですね。


(4) もダメ、(5) もダメ …… トホホ …… でも、これが現実なのです。つまり大半の日本企業には、外資系企業と渡り合うために必要な特徴 ( 要件 ) が備わっていないということになります。何だか暗くなってきますね。


しかし、私は日本企業の未来に対して、それほどまでには悲観していないのですよ。まだまだ間に合うと思っています。


日本が外資系企業の侵略を受けないために、最も重要なことは「教育」です。日本においても義務教育段階からの英語教育の必要性がさけばれて久しいですが、ほとんど効果を上げていません。その最大の理由は、教える側のレベルが低いからなのです。英語のできない人に英語を教わっても、上達しません。語学というのはそういうものです。これを解決するためには、国が税金を使ってでも、英語教育用のインフラを整備することが必要です。


また、小学校の算数なんてのは大幅に削減してもいいのではないでしょうか。計算なんてエクセルがやってくれます ( 私のおいは小学 2 年生ですが、エクセルで四則計算をやってしまいます ! 全く暗算できないのも考えものですが …… )。算数なんかに時間を使うぐらいなら、何か創造力を伸ばすような授業 ( 芸術とか、運動会や学芸会の企画とか …… ) に時間を使った方が、日本の将来のためになるような気がします。ま、こちらも教える側の問題 ( 創造力を伸ばすような授業ができる先生がいるか否か ) はあるのですがね ……


とは言うものの、日本というのは、行政レベルで実行に移されるまでに途方もなく時間がかかる国ですから、当面は個人や家庭レベルで将来を見越した教育を行っていく必要がありそうです。土曜の休日や「ゆとりの時間」なんてのは、本来こういうことに使うために設定されたはずなんですが、なかなかうまく機能していないようです。ま、先生だけでなく、問題意識の薄い親の方こそ責任は重いのですがね。お父さんにしてみたって、見渡せばライバル企業の多くが外資系だという人も少なくないでしょう。または、気付いたら上司が外国人なんて人もいるんじゃないでしょうか。


ここ数十年の競争を生き残る日系企業というのは、外資系企業とまともに勝負をして打ち負かすことができる企業のことを指します。外資系企業の好む業界を理解した上で、いかに迎え撃ち、撃破するか …… 日系企業に勤めるみなさんも、たまにはこのようなことをお考えになってはどうでしょうか。外資系に勤めるタカシからの一言でした。

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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