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タカシの外資系物語

Pursuit Team 結成 ! ( その 2 )2004.03.19

前回の続き )わが社の新製品 XYZ システムを営業する「Pursuit Team ( 販売促進の特別チーム ) 」のキックオフ ・ ミーティングでのこと。製品に関する勉強よりも、顧客への販売そのものに興味のある Nick は、日本での営業事例を説明するように、私に要求してきました。しかし、XYZ システムは開発されたばかりで、まだオフィシャルに宣伝もされていません。


タカシ 「Nick、A 銀行のケースは、まだみんなに話せるような状況じゃないんだよ」


Nick 「ナヌ ? でもタカシは A 銀行に売り込みをかけてるって、S 部長が言ってたぞ !」


タカシ 「いや確かにね、将来的に XYZ システムの導入につながるように、業務改善の提案とか、既存システムの効率化の話はしてきたけど …… それが直接、XYZ システムにつながるのはもう少し先の話なんだから ……」


Nick 「じゃ、その先まで含めて話せば、XYZ システムの話につながるってことだな」


ま、確かに Nick の言う通りなんですが、新製品を開発したからといって、すぐにそれを入れてくれなんていう勝手な提案はできません。そもそも日本支社では、XYZ システムの全貌を理解していないわけで、だからこそ S 部長がオーストラリアから講師を招いてレクチャーを実施しているのですから。


Nick 「Takashi, do you understand A bank's "pains"? ( タカシ、そもそもお前は A 銀行の「ペイン」( A 銀行が業務システムの観点で困っていること ) を理解しているのか ? )


タカシ 「Ummm… No flexibility, very low performance, high maintenance costs … ( えっと、柔軟性がなくて、パフォーマンス ( 処理スピード ) が遅くて、維持費が高くて…… )


Nick 「ほら、まさに XYZシステムを導入すれば解決できる内容じゃないか !」


そりゃま、そうなんだけど …… XYZシステムだって、導入するにはかなりの初期コストと手間がかかるんだから、そんな簡単な問題じゃないんだよな ……


Nick 「そこまでわかってるのに、どうして売れないんだ ? 何が問題なんだ ?」


タカシ 「XYZ is … expensive … compared with other vendors’ solutions …」( XYZ システムって、他社のソリューションより、ちょっと高いんだよ …… )


「So, How much, can we A bank to sign for ? ( じゃ、いくらなら契約してもらえるんだ ? )」


さっきまでレクチャーしていたインド人講師まで、Nick 側につき始めました。こりゃ勝ち目はありません。チームの日本人メンバーを見渡すと、みんな私を哀れむような目で見ています。


「タカシ、も、申し訳ない。でも、この状況を打開するほどの英語力がなくて …… す、すまん ……」


Nick 「OK! じゃ、ここからは、どうすればクライアントから契約が取れるのか考えてみよう。タカシの話を聞いていてわかったことは、クライアントの課題を理解していても、それを XYZ システムにつなげることができないということだな …… つまり、そのクライアントに対する Value Proposition ができていないわけだ」


「Value Proposition」というのは、直訳すれば「価値命題」、要するに XYZ システムがいかに顧客の悩みを解決し、収益向上に貢献するのかということを表したものです。Nick の言っていることは、なるほど確かに正しいのですが、XYZ システムを正しく理解していない日本人スタッフにとって、顧客に対する Value Proposition を作成するのは、やはり次のステップのような気がします。


Nick 「Value Proposition は、話す相手に応じて変更しなければならない。タカシがアプローチしているのは、どんなレベルの人なんだ ? CEO なのか、CIO、それとも COO ?」


そんなレベルの高い人じゃないよ、システム部の課長さんなんだから。過去にもこのコラムで触れたように、日本の場合は、欧米のように CEO や CIO が即決してプロジェクトが開始されるような例はほとんどありません。まず担当者がシステムの良し悪しを十分に吟味した上で、部長クラスに上げます。部長は他部門との調整をはかりながら、うまくいくと判断できた段階で役員会に通して、そこでやっと決裁されるのです。経営のやり方が欧米式に変化していっているといっても、日本ではまだまだこの「みんなで合議」方式が幅を利かせています。銀行の場合は、特にその傾向が顕著です。


Nick 「よしわかった。じゃ、オレがその課長さんに会って話をつけてやろう。火曜の午後なら空いてるから、至急課長さんの予定をブロックしろ !」


こりゃ困ったことになったなぁ …… と思っていると、突然後ろから S 部長の声がしました。


「Nick, What did I say the purpose of today's session was ? It is not 
our business review !」


( ニック、今日の目的って何だっけ ? さっき言ったはずだぜ。営業の反省会をしてるわけじゃないんだから )


S 部長はかなり怒っていました。しかし、決して感情的にはならずに、理路整然と以下のことを Nick に説明しました。


・ 日本支社に足りないのは、営業の方法論ではなくて XYZ システムの商品知識そのものであるということ


・ 営業戦略については、商品知識を十分に付けた上で、日本のマーケット慣行に合わせた形で別途検討するということ


・ 当リーダーは ( Nick ではなく ) 私なのだから、私の方針に従ってもらうということ


Nick はそれでもまだ Value Proposition がどうのこうの言っていましたが、S 部長が「最終的な責任は自分がとる」と言い放った後、静かに引き下がりました。レクチャーは当初の予定通り再開されました。しばらくして、Nick は「約束がある」と言って、部屋を立ち去りました。


「タカシさんよ、こりゃもう、意地でも結果出すしかないぜ ! 頑張ろうな」


「そうですね ……」


S 部長の言う通り、Nick の前であれだけの啖呵を切ってしまったわけですから、目標を達成しなければ何を言われるかわかりません。レクチャー終了後、日本人スタッフだけが残って、S 部長の指揮のもと、顧客毎の綿密な営業計画を立てました。時計の針は、夜の 11 時を回っていました。


今回のケースで印象深かったのは、S 部長が「オレの責任でやる !」と言い切ったことでしょう。外資系企業の日本法人にいるマネージャーというのは、とかく本社の板ばさみになって、本来自分の思う仕事ができない傾向があります。私の前職でもそうでした。本社の外国人が自説を話し出すと、だれも反論することなく、「You are right!」を繰り返します。そしてその外国人がいなくなった後で、「そうは言ってもなぁ …… 」などと頭をかくのです。


私は S 部長が一方的に正しいとは思いません。Nick の言う Value Proposition という発想は、確かに日本人には欠けているものです。 Value Proposition をはっきりしないがために、顧客にとってはほとんど意味のないソリューション ( この場合、IT システム ) を導入してしまうケースも散見されます。また、営業のキーマンを限定せずに、ダラダラと茶のみ話に終始してしまう営業の結果、ただでさえ遅い顧客の意思決定をさらに遅らせる結果になっています。スピード感を重視するならば、少しぐらい強引なやり方であっても、かえって顧客のためになるのかもしれません。


しかし、日本には日本固有の事情があります。MBA で教えるような欧米式の営業は、机上の理論では正しくても、いざ実践となるとうまくいかないケースの方が多いのです。実際には、一方的に Nick の言うことをウンウンと聞いているだけではなく、S 部長や私の方からもっと歩み寄る姿勢が必要なのだと思います。


その試みの第一弾として、S 部長が自分の責任で自分の意見を言ったことを、私は非常に評価しています。Nick の言うがままでは、いつまでたっても日本支社は進歩しません。われわれは、欧米の受け売りをしているのではなく、欧米の先進的なソリューションを、日本流に、日本のお客様に提供することが仕事なのですから。


ガンコな S 部長のことです。Nick との「和解」には、時間がかかるかもしれません。


「ここはいっちょ、私が一肌脱ぐかな ……」


私は 2 人に、以下のようなメールを出しました。


「Hi, Nick 今日はいろいろ教えてくれてありがとう。日本支社では XYZ システムの機能や販売方法について、まだまだ学ばなければならないことが多いと思っています。近いうちに、S 部長も交えて、相談させてください」


「S 部長、今日は危ないところを助けていただいて、ありがとうございました ( 笑 )。Nick とのやり取りでは、私がうまく説明できなかった部分もあります。もう少し詳細に詰めた上で、再度 Nick とセッションを持たせてください。もちろん、営業戦略は私の方で作成しておきます」


いずれにしても転職後最初の大仕事である「Pursuit Team」はスタートしました。さてと、今日のレクチャーのおさらいでもして、XYZ システムの機能を理解しましょうかねっと。


「うぅぅ …… 全然わからん、ね、ねみゅい …… Zzzzz ……」


今日のところは、おやすみなさい …… トホホ …… Zzzzz ……

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

「タカシの外資系物語」の作者、奈良タカシさんへメッセージをお寄せください。

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