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タカシの外資系物語

企画部門って、何するの ?2004.03.05

私はコンサルタントという職業柄、経営企画部・営業企画部・商品企画部など、いわゆる「企画部門」の方と一緒に仕事をします。以前にもこのコラムで触れたように(『「営業」と「本部」どっちが偉い ?』参照 ) 
日系企業の企画部というのは、いわゆるエリートの集団です。東大や京大などの超難関大学出身者が占める割合は他部署よりも高いですし、大半の役員は企画部門を経験しているなど、一種の出世コースになっているのは事実です。


私が大学を卒業して就職した日系の銀行でもそうでした。私は最初、システム部に配属されたのですが、その部はシステム企画機能も持っており、半分ぐらいは「企画部門」という感じでした。ビルの 1 フロアが「企画」と「開発」に分かれていたのですが、企画と開発の「境目」は初めて見た人でもわかるぐらいハッキリしていました。というのも、だれが見ても企画側にいる人の方が明らかに優秀そうに見えるのです。開発側の人が何となくくたびれているのに比べると、企画側の人は難しい顔をしながらテキパキと仕事をこなしているような感じがするのです。


そういうこともあり、何事も「型が重要」と思っていた当時の私 ( 22 歳、若かった …… )は、システム部内での配属希望を聞かれた際、迷うことなく「企画課 !」と答えました。それに対して、配属担当の副部長は一言、「企画の仕事は経験がないとできないんだよ。まずは、開発課で銀行の仕事とシステムのことを勉強しなさい …… 」


私は、同じように企画部門への配属希望を出して却下された同期数名と、「どうせ三流大学出身ですよーーーだ !」などと、陰で文句を言っていたような気がします。


結果的には、新入社員で企画部門に配属されたのは、他の部署も含めてひとりもいませんでした。入社 4 年目ぐらいから企画部門に配属される同期が出てきましたが、実はそのときには、私はもはや企画部への配属を希望していませんでした。なぜなら、企画の仕事が面白いと思えなくなっていたからです。


外資系に転職してからも、私は企画部門で仕事をしたことはありません。というか、そもそも外資系企業では企画部門が存在しないので、配属されるわけがないのです。では、日系企業がやっている企画業務って、いったい何なのでしょうか ?


( 日系企業 ) 企画部門はエリート集団 - しかし、タカシはその仕事が面白くないと感じた


( 外資系企業 ) 企画部門が存在しない - だれがやっているの ? そもそも必要ないの ?


これらの謎を解明するために、外資系企業における企画業務について説明します。実例でお話しましょう。私は数年前に、ある日系銀行とのプロジェクトで、ロンドンと NY に行ったことがあります。プロジェクトの依頼は、日本にある本店の「海外企画部」というところから受けました。プロジェクトの内容は、ロンドン支店と NY 支店に、ある会計のパッケージソフトを導入するというものです。


銀行担当者 「……ま、詳細は現地の企画部にでも聞いてください」


タカシ 「ロンドンや NY にも、企画部があるんですか ?」


銀行担当者 「ええ、ロンドンには欧州企画部、 NY には米州企画部という形で、日本人が何人もいますよ」


ということで、ロンドンに出張した私は早速、ロンドン支店の「欧州企画部」を訪ねました。


タカシ 「東京から来ました、○○コンサルティングのタカシです。本店海外企画部の方から、こちらに伺えとのことでして……」


ロンドン支店日本人担当者 「ああ、どうもどうも、話は聞いていますよ。いやーーー、長時間の飛行機、疲れたでしょう ? エコノミーですか ?」


タカシ 「( エコノミーで悪かったな。そもそも、おたくの予算の関係じゃねぇか ! ) あのぅ …… 早速で恐縮なんですが、スケジュールの関係もありますんで、プロジェクト計画の詳細を詰めたいんですけど ……」


ロンドン支店日本人担当者 「え ? あ、ああ、詳細ね。詳細は、 Accounting 部門の Bill から聞いてください。」


タカシ 「…… あのぅ、私が直接、業務のご担当の方にお聞きしてよろしいんですか ? プロジェクトの目的とか、スケジュール感とか、欧州企画部としてどのようにお考えになっているのか、そういうところからお聞きしたいんですが ……」


ロンドン支店日本人担当者 「そういうのも全部まとめて現場の Bill に任せてあるんでね。あ、もう夕方の 5 時じゃない。タカシさん、仕事は明日にして、今日のところは一杯行きません ? ビールのうまいパブがあるんですよ !」


だ、だめだこりゃ …… この人いったい何のためにロンドン支店にいるんだろう……


つまりこういうことなのです。欧米では、日本でいう企画業務のほとんどは、現場の人間がやってしまうのです。 Accounting 部門の Bill に話を聞いたところ、ロンドン支店の会計業務に関しては、彼がほぼすべての企画 ・ 計画を立てていました。欧州企画部の日本人担当者は、 Bill が立てた企画をチェックして、本店の意向に沿わない部分を変更させるということしかやっていなかったようです。 Bill は次のように言っていました。


「本店からロンドン支店に派遣されてきた日本人は、現場を全く知らないんだから、企画なんて立てようがないよ !」


NY 支店でも状況は同じで、実質的な企画業務は企画部にいる日本人ではなく、現場のアメリカ人がやっていました。


この例でも明らかなように、外資系企業では企画業務を専門でやっている「企画部」はありません。現場作業レベルの企画は、現場部門の各担当者が自分で決めてしまうからです。日系企業のように、現場部門を手取り足取りサポートするような企画部門は存在しないわけです。


では、外資系企業では一切企画を立てないかというとそうではありません。外資系企業でも、企業レベルの経営計画は明確に存在します。しかし、その計画は社長を中心とした数名が決めてしまうものであり、日系企業のように数十名の企画部員が数字をこねくり回して作るような代物ではありません。


つまり、こういう図式なんですね。


( 外資系 ) 
ハイレベル経営計画 ・・・ 社長中心の役員数名で決める


現場レベル計画 ・・・ 現場担当者が個々に決め、自ら実行する


( 日系 ) 
ハイレベル経営計画・・・企画部門が青写真を書き、社長中心の役員幹部にはかる。ただし、役員もその計画がいいのか悪いのかわからないので、企画部門が綿密な計数検証を行う ( 最終的には、かなり程度「鉛筆をなめる ( = 自社に都合がいいように数字を作る )」)


現場レベル計画・・・企画部門が立てたハイレベル経営計画を、現場部門に配分し、さらにそれを実現するための方法までも指導する


外資系企業のやり方は、非常にシンプルでスピード感があるのがわかると思います。逆に日系企業のやり方は、本来経営層や現場がやるべき作業を企画部門が肩代わりしているわけで、作業の重複部分が多く、複雑な構造になりがちです。また、日系のやり方は中間部分に多数のホワイトカラー人員を抱え込むことになります。これらの人員は総じて高給取りなので、不必要に人件費が膨らむ要因にもなります。


一方、外資系のやり方では経営と現場の間が「中抜け」になっているため、現場が自分の都合に合わせて経営計画を解釈してしまうという欠点を持っています。経営計画の曖昧な部分が、現場に具体的に下りてこないわけです。具体化されないということは、だれも責任を取りません。よって、その計画は実現されないことになります。この観点では、日系のやり方の方が優れているような気もします。


私は、日系企業がこのような形態をとっているのには理由があると思っています。それは、営業があまり得意ではない文系の大卒、いわゆる「事務方」の人数が、欧米に比べて多すぎるということです。高度成長期以降、日本の大学進学率は大きく向上しましたが、その大半は、理系のようにはスキル ・ 技能を身につけることができない、文系の学生でした。理系 = 開発 ・ 生産管理、文系 = 営業 ・ 企画一般 ・ 事務 という配属が一般的だと思うのですが、文系でいう「事務」というのはそれほど高度なスキルを要求しませんし、「企画一般」というのも経営や各現場がやってしまえば済む話なのです。つまり、本来ならそれほど必要ない人員に対して、それなりの役職と給料を与える上で、「企画」というのは非常においしい業務だったわけです。


難しい顔をして仕事をしているわりには、モノを作っているわけでもなく、お客様と接しているわけでもなく……こんな仕事、やる必要あるの ? そう思っていたら、外資系企業では、だれもそんな作業をしていなかったというわけです。


さてさて、世の「企画マン」のみなさん。日々、現場に対してえらそうに振舞っていると、そのうちにシッペ返しに遭うかもしれませんので、くれぐれもご注意を !

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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