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タカシの外資系物語

本部の「えらいさん」がやってくる ! ( その 2 )2003.12.12

前回の続き )うーーーむ …… 会議室はさっきから重苦しい沈黙が漂っています。急遽、アメリカ本部から出張で東京に来ることになったホワイト氏。われら日本支社の重要な顧客である A 銀行で、彼に何を話させるか、それがこの会議の議題です。


「こうなったら、われわれの考えを、正直に話してみるか …… 」


A 銀行の担当営業であるイノウエ氏が、ようやく口を開きました。「われわれの考え」というのは、次の通り。わが社の製品の採用をなかなか決めてくれない A 銀行に対して、反対派の急先鋒である経理部長と企画部長をこちらの味方につけるために、策を講じようというもの。回りくどいやり方のようなのですが、いろいろ検討した結果、日本支社としてはこのアプローチで行くことを決めていたのです ( 前回コラム参照 )。


「でもさぁ、このアプローチをホワイト氏に説明するとなると、大変なことだぜ、おい ……」


<そりゃそうでしょうよ>私もその意見には同感です。そもそもわが社が A 銀行への導入を目論んでいる製品は、システム部の管轄です。本来ならシステム部長が「ウン」と言えば済む話。しかし、関係者の全員一致を意思決定の基本とする日本企業では、横からいろいろなちょっかいが出てくるのです。いわゆる「政治的圧力」というやつですね。今回のアプローチは、その圧力を何とか和らげようとした苦肉の策なわけで、こんな複雑な事情を「部外者」に、かつ日本語が話せない「外国人」に説明するのは、かなり大変な話です。


「よし、ホワイト氏に説明だ。ヨシオ、電話かメールで話しといてくれよ !」


「や、やですよ、そんなのぉ。イノウエさん、僕の TOEIC の点数知ってるんですか、500点ですよ、500 点 ! 」


<自慢することか……>


「そーか、そうだよな。こういうのは英語ができるやつじゃないと …… だれか、TOEIC 2,000 点ぐらいのやついないのか !?」


<TOEIC は 995 点満点だっちゅうに。そもそも、そういう問題じゃないと思うんだけど ……>


「この際、当社の翻訳チームに頼みましょうよ。あのチームって、こういうときのためにあるんでしょ ?」


<それも違うんじゃねぇか ?>


「あのですね ……」


私はいたたまれなくなって、話し始めてしまいました。


「そもそも英語ができるとか、そんな問題じゃないと思うんですが。わが社と A 銀行の関係をホワイト氏に説明するのは、関係者じゃないと無理ですよ。すっごく、複雑なんだから」


「じゃ、だれがやる ?」


「やる人がいないなら、私がやってもいいですよ。」


「お、さすが TOEIC1,500 点のタカシちゃん !」


<そんな点数ないっ ちゅうとるやろーが !!>


「ホワイト氏の説明はそれでいいとして、ホワイト氏が A 銀行にする話は、やっぱりホワイト氏自身が考えた方がいいと思うんですけど ……」


「いやいや、そこで変な話されたら、今までのわれわれの苦労が水の泡じゃ ……」


「イノウエさん ! よく考えてみましょうよ。どうして今、こんなに苦労してるかっていうと、いまの今まで、われわれ日本支社のアプローチを、ホワイト氏に説明してこなかったからですよね ?」


「そ、それはさぁ ……」


みんな顔を見合わせています。


「ホワイト氏は、私も含め、ここにいるみなさんの上司にあたる人なんですから、自分の部下がどのように仕事を進めているのか、知る権利があるはずでしょう ?」


「だから、それはさぁ ……」


「いや、何も私は正論ぶって、分からず屋な意見を言うつもりはないんですよ。でもね、われわれが自分たちのアプローチで A 銀行を攻略しようとしているのと同様に、ホワイト氏にはホワイト氏のアプローチがあるんだと思うんです。それをやらせないで、われわれが書いた台本どおりに話してもらうのも可能なんでしょうが …… なんていうか、こんなことしていたら、いつまでたってもホワイト氏はわれわれに対して疑心暗鬼なままのような気がするんですよね。今回は彼の思うようにやらせて、彼自身に A 銀行攻略の難しさを体感してもらった方がいいと思うんですけど、どうですかね ?」


外資系企業に勤める日本人は、欧米本社の外国人幹部に対して、非常に気を遣います。今回のようなケースもそうですが、あまりに気を回しすぎるために、行き過ぎた対応をすることがあるのです。例えば、プレゼンテーションのシナリオを全て日本側で書いてやったり、顧客の前では当たり障りのないことしか言わせなかったり。しかし私の経験では、このような「過保護な」対応はろくな結果を生みません。本社の幹部は操り人形ではありません。彼らは彼らなりのビジネス経験を積んで偉くなってきたわけで、そこにはそれなりの「重み」があります。彼らの言いたいことを彼らの言葉で話させる、たとえ英語と日本語の違いはあっても、結局はその方が聞き手の心を打つことになるのです。


イノウエ氏をはじめ出席者全員が、私の主張に同意してくれました。私は早速、わが社と A 銀行との関係について、ホワイト氏宛にメールを書きました。メールの最後には、以下の文章を付け加えておきました。We all are looking forward to having your presentation for A bank ! (A 銀行へのプレゼン、楽しみにしています !)


「Good, Good, サンキューベリーマッチよ、ホワイトさん !」


イノウエ氏がだれよりもはしゃいでいます。実は先ほど、ホワイト氏の A 銀行に対するプレゼンが終了しました。プレゼンが始まるまでは、私も非常に不安だったのですが、プレゼンの内容自体は思った以上の出来でした。先方の評価も上々のようです。


「Takashi, thank you for your support!」


ホワイト氏も上機嫌で A 銀行を後にしました。


ま、よかった、よかった、と ……


私はホワイト氏を見送って、次回のアポをもらうため、再度システム部長のところに戻りました。


「あ、どうも、部長 ! 長時間頂戴しまして、ありがとうございました」


「いやいや、とんでもない。あれで良かったんでしょ ?」


「は ?」


「いやね、いつも世話になってるイノウエさんやタカシさんの顔に泥を塗るようなマネはできないからさ。ホワイトさんって、お二人の上司なんでしょ ?」


「え、えぇ、そうですけど ……」


「正直言うとね、ホワイト氏の話してくれた内容って、ほとんど理解できなかったんだけど …… ま、お二人に迷惑がかからなくて、良かった、良かった ……」


ガーーーーン ! 私は愕然としました。部長は、ホワイト氏の話など、ほとんど聞いてはいなかったのです。このプレゼンを無事に終了させなければ、イノウエ氏と私が、上司であるホワイト氏から何を言われるかわからない。だから、無事終了したようなフリをしてくれただけなのです。


「あ、ありがとうございました ……」


私は次回のアポを取るのも忘れ、その場を立ち去りました。なんて日本的な企業、日本的な考え方。部長はホワイト氏の話が理解できようができまいが、最初から最後までニコニコしている気でいたのでしょう。それは、イノウエ氏と私の顔を立てるためだけに、です。世話になった人には義理を立てる、たとえ無駄な時間を使ってでも、ということです。


「こりゃ、先が思いやられるわい …… 」部長が義理を切り捨て、無駄なものは無駄だと言えるようになるのは、いつの日なのでしょうか。いやはや、この古きよき A 銀行とは、今後とも気の長いお付き合いが続きそうですね。トホホ ……

 

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

「タカシの外資系物語」の作者、奈良タカシさんへメッセージをお寄せください。

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