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タカシの外資系物語

成果の上がる成果主義2003.11.07

つい先日のこと、某大手銀行が成果主義によるボーナス制度を発表しました。その内容は、5 年目以上の行員を対象に、毎月 3 万円を強制的に積み立てさせ、成果に応じて積立金を再配分するというもの。つまり、成果が上がれば他人の積立金からもボーナスがもらえるわけですが、成果が上がらなかった場合には、積立金は戻ってこないので、実質的には月 3 万円の給料ダウンということになります。人件費の総額は同じままで、行員の間に競争意識を醸成することができるわけですから、なかなかうまい人事政策といえるかもしれません。


え ? もっと辛口に評価しないのか、タカシらしくないぞ、って ? いやいや、私とて、いつも文句ばかり言っているわけではありません。いいものはいいと言います。この大手銀行の政策は、成果主義の「第 1 弾」としては、まずまず合格点だと思っています。「第 1 弾」としては ……というのがミソ。私の考えでは、成果主義というのには 2 種類あって、これはその 1 つめだと思っています。では、「2 つの成果主義」とは一体どのようなものなのでしょうかしょうか ?


成果主義 [ 1 ]


「そもそも同じ給料であることがおかしい …… 」という不満に対応するため多くの日系企業では、年齢が同じなら、もらっている給料もほとんど同じです。評価制度に対する社員の不満は、まずこの部分に集中していると私は考えています。


「どうしていつ見ても新聞読んでるような ( ヒマな ) ヤツとおんなじ給料しかもらえないんだ !」


この不満を解消しなければ、健全な成果主義には移行できません。こういうことを言うと、「みんな同じ仕事なのに優劣をつけることはできない」なんてことを言い出す人が必ずいます。あえて言いますが、そんなことはありません。優劣は必ずつきます。明らかに忙しい仕事、頭を使っている仕事、神経をすり減らしている仕事、そういう仕事とそうでない仕事の区別もつかないようなら、その部門の管理職の目は節穴です。


また、「たまたま人事異動で仕事が割り当てられただけなのに、差が出るのはおかしい」なんて言い出す人もいます。そういう人は、忙しい部署に行ってもらえばいいのです。これは個人的な意見ですが、このたぐいの文句を言う人に限って、実はヒマな人が多いと思います。仕事の内容が違うのだから、もらう給料が違うのは当たり前ではないでしょうかね。このような部分に差をつけるのが、1 つめの成果主義なのです。


また、この場合には、実際の成果にかかわらず給料は払います。いまいちピンとこない人は、こう考えてください。たとえばアルバイトの時給は、この考え方です。目が回るほど忙しかったり、技術の必要な仕事なら時給も高いですが、単純労働なら安い、それだけのことです。で、私は常々、この部分の差額は日本のサラリーマンの平均的な給料からみて、だいたい月額 3 万円ぐらいではないかと思っていました。なので、冒頭の大手銀行の政策は、第 1 弾としてはいいんじゃないの、と言ったのです。


成果主義 [ 2 ] 


「文字通りの成果をあげた ( 収益をあげた、コストを削減した等 ) から評価してほしい」に対応するため次が本当の「成果主義」です。多くの日系企業では、[ 1 ] の是正をしないままに[ 2 ] に移行しようとします。これが混乱を招く原因となります。


そもそも、「オレの部署は死ぬほど忙しいのに、あいつの部署はヒマだ」という話と、「オレの部署は成果を上げた」という話は、全く異なる次元の話です。日本の成果主義の悪いところは、これらを一緒くたに議論するところにあります。「今期、あなたの部署が忙しかったのは、経営陣も理解している。だから少しだけ給料を上増ししましょう。けれども、成果が上がったかどうかは別の話ですよ」とやれば、純粋に上げた成果 ( 収益向上、コスト削減 ) のみで話をすることができます。


さて、[ 2 ] の成果主義で難しいのは、何を基準にして成果をはかるかということです。収益ではかるにしても、案件を取ってきた人が評価されるのか、案件をやり遂げた人が評価されるのか。特にプロジェクトベースのサービスを提供している企業などでは、よく問題になる話です。さらに、収益を稼がない部署 ( 本部やバックオフィスなど、いわゆるコストセンター ) の評価はどうするかという問題もあります。


この問題について、私は明確な回答を持っていません。私にもよくわからんのです。私の場合も、成果主義ボーナスには翻弄されてきました。これは前職の話になりますが、前の会社では、「評価 ( ボーナスの金額 ) = 自分が管理したスタッフ数 ( つまり、どれだけの作業工数をクライアントに売ったか ) 」で、ボーナスの金額が決まりました。ボーナスを稼ぐのに一番手っ取り早いのは、それほど難しくない大規模プロジェクトに、できるだけ高いポストで入ることでした。要は、自分の配下の人数が多ければ多いほどいいわけで、仕事の質はあまり問われなかったのです。


確かに、新分野を開拓したり、扱いにくい顧客から仕事を取った場合には、「定性評価」という名目でボーナスが出ましたが、そんなものは管理したスタッフ人数という「定量評価」の前では、スズメの涙ぐらいの金額でした。こういう評価体系を続けていると、長期的にビジネスを開拓していこうというインセンティブがなくなってきます。これも私が転職した理由の 1 つです。


その一方で、社員全員が新分野や難しいクライアントにばかり目を向けていては、短期的な収益を得ることができなくなるという理屈もわかります。つまり、[ 2 ] の成果主義において、「何をどのように評価する」というのは非常に難しい話なのです。


さて、冒頭の銀行の話に戻しましょう。私も元銀行員の端くれとして、この銀行の決断は非常に評価しています。月額 3 万円も差がつくなんて、私が在籍した当時の銀行業界では考えられないことです。


一方で、この政策で、行員の士気がみるみる上がり、業績向上につながるかどうかという点については、私は否定的です。なぜなら、「評価」というのは必ずしも金額では言い表せない、むしろ金額以外のところに根本があるような気がするからです。これも私の経験談なのですが、私は銀行員時代に、同期より少しばかり大目のボーナスをもらったことがあります ( たった1度だけでしたが )。当時、私が在籍した銀行では、同期 200 人のうち 5 人程度、ボーナスを上増しして支給していました。果たしてその金額は …… 実は、たったの「1 万 5 千円」です。約 80 万円のボーナスで、たったこれだけ。でも私は、非常にうれしかったのを覚えています。それは金額ではなく、自分の上司や経営陣が、私のようなヒラ社員を見ていてくれて、他の同期よりも高い評価をくれていることについてです。


「課長、本当にありがとうございます。今期も頑張ります !」


「ボーナスたくさんもらってるんだから、しっかり働いてくれなきゃ困るぞーーー」


たった 1 万 5 千円で、こんな会話が成り立っていたのです。あれから 10 年以上が経過した今、同じ業界でも、当時の 20 倍の金額差が出てくることになったわけですが、果たして、私が課長と交わしたような会話が成されるかどうか ……


繰り返すようですが、私はこの大手銀行の政策を非難しているわけではありません。でも、お金が欲しいと文句を言うような人は、すでに転職してしまっているのではないかという気がしてなりません。銀行を含め、今の日系企業に必要な「成果主義」とは、お金やタイトルではなく、評価する側とされる側の強固な信頼関係ではないかと、ふと思ってみたりするのですが、みなさんはいかがですか ?

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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