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タカシの外資系物語

転職・奥の細道 ( その 1 )2003.10.24

「今日よりや書付消さん笠の露」


な、なんだ、いきなり俳句かよ...と思われたかもしれません。これはかの有名な、松尾芭蕉『奥の細道』( 曾良との別れの巻 ) に出てくる俳句です。


『奥の細道』というのは、芭蕉が旅を通して感じたことをまとめたもので、まぁ旅行日記みたいなもんです。( 正確には「紀行文」といいます )。芭蕉は弟子の曾良 ( 「そら」と読みます。人の名前です )。と一緒に旅に出て、この名作を書き上げるわけですが、旅の途中で曾良が体調を崩してしまい、曾良だけが旅行をリタイヤしてしまいます。これはそのときの悲しい気持ちを歌ったものです。


書付 ( 「かきつけ」と読みます ) というのは、ふたりだけの合言葉みたいなもんですな。「モーニング娘。命」なんてのを、笠の内側にでも書いていたのでしょうか。で、笠の露というのは、この場合は芭蕉の「涙」を表しています。つまり、こういうことです。


「気の合う曾良と分かれるのはホントにつらいのー。一緒に書いた「モーニング娘。命」の合言葉も、俺の涙で消してやる、コノヤローーー、えーーーーん ! さみしいよーー (T-T)」てな感じ。


さらに、「今日よりや」の「や」は係り結びといいまして、非常に強い気持ちを表しています。さらにさらに、「消さん」の「ん」は意志をあらわす助動詞で、係り結びの場合には連体形になります。これ重要 ! 試験に出るよ ! ...って、失礼しました...ひとりで熱くなってしまいました。まるで予備校講師のよう......実は私、今まで黙っていたのですが、中学・高校の国語の教員免許を持っておりましてですね、特に中世から江戸にかけての随筆や紀行文を専門にしていたものですから、黙っていられなかったのです。


なぜ「国語」の教員免許なのか ?! 当時、「3 年 B 組金八先生」というドラマが流行りましてその影響で、私は経済学部の学生だったのですが、文学部にもぐりこんで国語の教員養成課程をとっていたのですね、これが。ま、苦労してとってみたものの、その後全く役に立っていないところが悲しいところ。履歴書にも書いたことがありません。若気のいたりというやつです。


話を戻しましょう。私がなぜこの俳句を持ち出したかというと、私も転職するにあたり、何人かの同僚と別れなければならなかったわけです。特に、苦しいプロジェクトを一緒に乗り切った若手スタッフとの別れは、本当に悲しいものでした。転職の話を切り出したときの、彼らの目。「今まで一緒にやってきたのに、私を置いていくのか ! なんて薄情な人だ !」


でも私はひとりで転職しました。確かに、若いスタッフを引き連れての「集団転職」は珍しいことではありません。特に外資系企業では、事務のバックオフィスや管理部門を含めて、チームごと転職する例も結構あります。今の会社の上司である M 氏と面接したときも、「だれか連れてきたい人はいないの ?」と聞かれました。


「うっ.....」


私は何人かのスタッフの顔が頭に浮かんだのですが、ぐぐっとこらえて、


「いや、とりあえず、私ひとりで来ます」


と答えました。この「とりあえず」ってとこがミソですね。将来的にチャンスがあれば...みたいなニュアンスのつもりだったのですが、M 氏は理解してくれたでしょうか。


確かに、私のことを理解してくれているスタッフがそばにいてくれるなら、こんなに心強いことはないでしょう。私が頭に浮かんだスタッフの中には、私が二言三言話すだけで、内容を図にしてパワーポイントにまとめてくれるような「達人」もいます「あのさぁ、提案内容は 3 つのキーワード。ちっちゃい矢印で説明書き。上にはこないだ使ったカッコいい絵入れといて !」これだけで、本当にカッコいいスライドができるのです。長年一緒にやってきたので、私がどんなことを期待しているのか、体にしみついているのでしょう。一方で、今度の会社には、どんなスタッフがいるかわかりません。新入社員の大半は、国立大や有名私立大学レベルの出身者のようですから、さぞかし頭のいいスタッフが多いことは想像がつきます。でも上記のような「あうんの呼吸」を築くまでには、それなりの時間がかかるはずです。


今度の会社も外資系ですから、短期的な収益が期待されています。私とて、年末までに自力で案件のひとつでも取らなければ、ちょっとヤバイ状況になることでしょう。でも私は、当面はひとりでやってみることにしました。それはなぜでしょうか。


前々回のコラムでもお話した通り、私は前の会社での待遇に不満があって転職したわけではありません。確かに給料はそれほどもらっていなかったので、給料は上げてもらいたかったのですが、実は今の会社でも大差はありません。転職する理由になるほどの上増しはなかったのです。でも私は転職したのです。なぜなら、今の会社の方が、私の考え方・方針に合っているので、仕事がやりやすいと感じたからです。


もし「待遇に不満」という理由で転職したなら、私は同じように不満を持ったスタッフを大勢引き連れて転職したかもしれません。この場合は、給料やポストが上がるといったように、客観的な尺度で転職の「成果」をはかることができるわけで、「転職してよかったなぁ」という気持ちを明確に分かち合うことができます。ですから、「待遇に不満のある人、この指とまれーー」方式での人集めが可能となります。


一方、「自分の方針と会社の方針が合わない」という理由で転職する場合には、自分と全く同じ方針の人を探して、その人と一緒に転職することになります。でも私は、「自分と全く同じ方針の人」というのは世の中に存在しないと思っています。同じような考えを持っていても、みんな少しずつ違うはずです。「自分と会社の方針が合わない人、この指とまれーー」と言って人を集めても、それぞれの人が持っている自分の方針は、抽象的かつ少しずつ違うわけですから、それを再度修正しなければなりません。つまり、チームごと転職するための理由作りが難航するのです。


この意見には反論もあろうかと思います。全く同じ考えを持った有志が集まって、会社を移った、会社を興した、なんていう話が山ほどあるではないかと。でも、それは違います。たいていの場合には、そのグループ内に力の強い人がいて、その人の考えを「ゴリ押し」している部分があるはずです。そもそも考え方を全く同じにすることなど不可能なわけですから、最終的にはリーダーが無理やり決めるのです。「俺はこう思う。お前はそう思わなくても、そう思え ! これが転職の理由だ !」そして、このときのリーダーのゴリ押しが、あとあとになってメンバーの不満として爆発する、そんな例を私はたくさん見てきました。


多分私が呼びかければ、数名のスタッフが一緒に来てくれたと思います。少し思い上がりかもしれませんが、そう信じています。でも私は、自分の考えを彼ら ( 彼女ら ) に押し付けたくはありませんでした。彼らには彼らなりの人生があります。彼らの考え・方針と、私が移った会社の方針が合うというふうに判断したなら、彼ら自身の手で転職してくればいいと思っています。この会社に転職する実力は、すでに彼ら自身が持っているのですから。


「タカシ、ちょっと来てくれるかな」


上司の M 氏に呼ばれました。


「この人知ってる ?」


なんと、前の会社で一緒にやってい K くんでした。


「来週、面接しようと思ってるんだけど、どんな人かな.....?」

 

( 次回続く )

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

「タカシの外資系物語」の作者、奈良タカシさんへメッセージをお寄せください。

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