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タカシの外資系物語

値段をつけろ !2003.09.05

モノであれサービスであれ、企業が扱っている製品には「価格」がついています。企業は消費者に製品を販売することによって利益を上げているわけですから、当たり前のことですが、「売れば儲かる」形式にしておかなければなりません。ですから、価格というのは一般的には以下の式で表されます。


価格 = 作るためのコスト ( 材料費・労務費 )+ 売るためのコスト ( 販売費・一般管理費 )+利益


なんだか会計の授業みたいになってきましたね。要は、かかったコスト以上で売らないと儲かりませんぜ、ということになります。しかし、高くしすぎると製品そのものが売れなくなるので、この場合も儲かりません。


では、問題は「利益の幅」だけなのかというと、実はもっと複雑です。たとえ赤字の製品であっても、企業全体としては得をしているケースもありえるからです。例えば SONY の「プレイステーション 2 ( プレステ 2 )」は、原価 ( かかったコスト ) 以下の価格をつけていると言われています。つまり、プレステ 2 本体だけで見れば、売れば売るほど赤字になります。しかし、周辺機器やソフトが本体を大幅に上回る勢いで売れているため、プレステ事業全体としては、非常に儲かっています。


このように、「価格戦略」を検討することは、企業にとって非常に重要であることがわかります。どんなに性能の優れた製品を作っても、「価格戦略」の巧拙によって企業の収益は大きく変わってくるわけです。


私が勤めている外資系企業は IT を中心としたコンサルティングを行っているので、プレステ 2 のようにはっきりした定価があるわけではありません。しかし、お客様からお金をいただく以上、「○○をしたらいくらかかる ?」という値段がなければ商売ができません。で、その値段の付け方なのですが、これが結構難しいのです。お客様からは、「こういうソフトウェアを開発して欲しい」、「こういう業務改革をして欲しい」のような要望 = ニーズが寄せられます。私の方では、だいたいこれぐらいのスキルの人が何人、何ヶ月働くからこれぐらいの値段でしょう … のような見積もりを出します。しかし、見積価格通りに提示していたのでは、ほとんどのケースで日系の競合他社に負けてしまいます。理由は 2 つ。「日系企業の方が、人件費単価が低い ( ので総額も安い ) から」 「同じ値段、ないしは安い値段なら、日系企業の方を選ぶお客さんが多いから」なのです。


ということで、ここから本格的な「値段を付ける」作業を開始することになります。とは言うものの、取れる手段は 2 つしかありません。値段が高いまま強気で攻めるか、グッと値段を下げるか … みなさんなら、どうされますか ?


もちろん、値段の付け方はケースによって変わってきます。私はマネージャーになった 2 年目に、「Pricing Training」という研修で、値段の付け方を学びました。そのエッセンスは以下の通りです。


( 1 ) 値段が高いまま強気で攻める

これを、「スキミング ( 上澄み )・プライス」といいます。買い手が、品質を重視する ( つまり、多少は高くても、内容を重視する ) 場合や、有力な競争相手がいない場合に有効な策です。最初のうちは高い値段で販売し、この値段で売れる顧客層に行き渡った後は、値段を下げていきます。


( 2 ) グッと値段を下げる

これを、「ペネトレーション ( 浸透 )・プライス」といいます。当初は利益よりもマーケット・シェアを重視するやり方です。生産量が増加するに従って、全体のコストが下がるような場合や、プレステ 2 のように周辺製品で儲けるような場合に有効です。


会社として顧客に提示する金額を決める際には、「スキミング」なのか、「ペネトレーション」なのかを見極めなければなりません。もちろん、ペネトレーションの場合には、この案件が赤字になる可能性が高いわけですから、それなりのプラン ( なぜ、赤字にしてまで案件を取りに行くのか ) を説明する必要があります。


プライシングの考え方は、マネージャーによって千差万別です。スキミングばかりでは案件が取れませんし、だからと言ってペネトレーションばかりでは忙しいだけで全く儲かりません。短期と中長期の収益をにらみながら、うまく調整する必要があるわけです。


私の場合、どちらかというと「ペネトレーション・プライス」の方が多いような気がします。お客様との親密さにもよるのでしょうが、初めてのお客様、初めての製品・サービスという場合には、こちらも「勉強」していくという姿勢が必要です。最初は低価格を提示し、お客様との信頼関係が十分に築けた段階で、「スキミング・プライス」に移行していけばよいのだと思っています。


先日、上司の Jim から、あるプロジェクトの見積価格について説明するよう言われました。どうも、私が提示した値段が安すぎるという話のようです。


Jim 「Takashi, why 20M? Our workloads stand for 30M …( タカーシ、どうして 2 千万円なんだ ? ワークロード (= 作業に必要なスタッフコスト ) は 3 千万かかってるのに …))


Takashi 「 Jim 、ちょっと聞いて。競合の日系 A 社は 2 千 3 百万で出している。この案件は、今後の横展開 ( 違う顧客に同じサービスを展開していくこと ) も期待できるから、取りにいった方がいいと思うんだ。これは penetration price なんだよ !」


Jim 「Umm… で、どのくらいの確率で取れるんだ ?」


Takashi 「そうだな… 20M なら 80% 以上。この案件が取れれば、あと 2、 3 社は横展開できると思うよ」


Jim 「 OK, Let's go, Takashi ! 」


Takashi 「( ホッ ! 久しぶりにうまくいったな … ) Thank you, Jim !」


Jim 「…おっとタカシ、それで、もしダメだったら …」


Takashi 「え ? ( なんだ、なんだ、このおっさん … )」


Jim 「もし失敗したら、タカシの給料を penetration salary にしよーか ? なーーんてね ! ブワッハッハッハッハ !」


… じぇんじぇん面白くないぞ、コノヤロ。ま、みなさんもモノの値段を付ける際には、よく考えましょうね、ってことです、ハイ。

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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