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タカシの外資系物語

外資系とゲーム理論 (その 2 ) - NIMBY2003.05.09

前回の続き )今回は、外資系企業の中で、ゲーム理論がどのように活用されているかをお話します。前回お話した「囚人のジレンマ」、「ナッシュ均衡」などはゲームの状況を表現したもので、やや発展的な内容です。ゲームを始めるにはまず、プレーヤーがどのようなスタンスでゲームに臨むのかを決めなければなりません。


例えば、プレーヤー同士が協力することもあれば、そうでないときもあります。ウソをつくこともあれば、脅したり、何かを要求したり、取引を持ちかけたりすることもあるでしょう。ゲーム理論には以上の要素すべてが含まれています。ゲーム理論が登場するまでの経済学・経営学では、何があっても合理的に行動するプレーヤーしかこの世に存在しませんでしたから、大きな発想の転換であったかと思われます。


実はゲーム理論は MBA の主要カリキュラムのひとつとなっており、ほとんどの外国人マネージャー(MBA 保持者)はその内容を理解しています。だからといって、常に確率の計算をしながら行動しているわけではありません(そもそもゲーム理論の計算はややこしいので、暗算でできるわけありませんが…)。外資系企業のマネージャーは、ゲーム理論のエッセンスを理解することで、そのときどきの状況に応じて多様な「駆け引き」を演じる精神的な素地ができていると思えるのです。そのことを端的に表していることの例として、「NIMBY 症候群」の話があります。


"NIMBY" とは、「ニンビー」と発音しまして、"Not in my BackYard" の略です。直訳すれば、「私の裏庭にはカンベンしてよね !」となります。 例えば、原子力発電所やゴミ処理施設の必要性は理解するが、自分が住んでいる近所には建てて欲しくない……そんな考え方のことを "NIMBY" と言います。


逆に、"YIMBY"(「インビー」)"Yes in my BackYards")というのもありまして、こちらは歓迎するようなケースを言います。公園とか過疎地の病院とかが、これにあたるでしょう。以上のような環境問題の場合、NIMBY のほとんどは人口の少ない過疎地が引き受けることになります。確かに、何か起こったときのことを考えれば、影響を受ける人の数が少ないにこしたことはないですが、建てられる側からすると「カンベンしてよね !」という気持ちもわかります。


さて、ビジネスの世界においても、NIMBY や YIMBY のような事象は頻繁に起こります。できれば NIMBY のような状況は避けたいわけで、YIMBY だけならハッピーに過ごせることは言うまでもありません。しかし、NIMBY も会社全体のことを考えると必要なわけですから、だれかが引き受けなければなりません。ここに、ゲーム理論でいうところの「駆け引き」が出てくるのです。以下は、うちの会社の役員会での出来事です。


部門ヘッド「このたび、当部門の HP を更新することになった。そこで、Web に載せる原稿をだれかに書いて欲しいんだが……」


ハッキリ言って、評価上は何の得にもならない作業です。一瞬、みんな顔を見合わせた次の瞬間のこと。


Jim 「OK, I do.(おれがやるよ)」


おおーーっと、私の上司である Jim が動きました。見事にナッシュ均衡(前回参照)を破壊しています。


Jim 「Instead... (その代わりと言っちゃあなんだが……)」


ついに出たぁーーー。Jim の「その代わりと言っちゃあなんだが」攻撃です(Jim が江戸っ子かどうかは定かではないが)。


Jim 「その代わりと言っちゃなんだが、次の社内行事のサポートは、うちのチームメンバーに頼まないでくれよ !」


ちなみに、Web の原稿書きと社内行事のサポートを比較すると、後者の方が 5 倍ぐらい面倒な仕事なのです。Jim はだれも動かない(動けない)状況において、自分の「献身ぶり」をアピールすることによって、自分の負担を削減することに成功しました。自らをNIMBYな状態に置くと見せかけて、実は他のもっと厄介な NIMBY を排除していく。これが外資のやり方かも知れません。


一方、日系企業の場合ならどうでしょうか。恐らく数分の沈黙が続いた後、その状況にいたたまれなくなったお人よしの A さんが、「しょうがないなぁ……私がやりましょうか……」と言い出すか、または、「そう言えば…… B さんって、文才あったよねぇ。じゃ、みんなで B さんにお願いしよう !」なんて感じで、気の弱い B さんに決まってしまうのがオチでしょう。その結果、 A さんも B さんも残業することになるでしょう。決して評価されない仕事にもかかわらず……このように、日本人は「どうでもいい」「面倒な」作業について、あまりにも無神経な気がします。


また、Jim のやり方には副産物的な効用があります。 それは、Jim がやりたくない作業というのは、実はそもそもやらなくても、だれも困らない作業が多いのです。 私は密かに、「Jim の駆け引きを続けていけば、効果的な BPR ができるんじゃないか……」と思っていたりします。


話を戻しましょう。以上のように、外資系企業の連中(特にマネージャー)は、常に自分に有利になるような「駆け引き」をします。 それは、自分が気に入ったことだけしかやらないといった「わがまま」ではなく、それなりに納得でき、かつだれも文句が言えないような方法を使います。これが、「ゲーム理論」に基づいた、外資系企業での処世術なのです。


Jim 「タカシ ! ちょっとお願いがあるんだが…… HP の原稿を書いてくれないかな、簡単でいいからさ……」


来た来た、来ましたよ~ん。よーし、ここは私もゲーム理論に基づいた「駆け引き」をしてみましょう。


私  「じゃ代わりに、例の営業レポートは勘弁してくれるかい ?」


Jim 「Absolutely NOT (ぜぇーーったい、ダメ !)」


……そう言えば、ひとつ言い忘れていました。ゲーム理論のプレーヤーは、基本的にはお互いに同等の力関係であることが前提となっています。みなさん、くれぐれもゲームのプレーヤーの選択には気をつけてください……トホホ……

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

「タカシの外資系物語」の作者、奈良タカシさんへメッセージをお寄せください。

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