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タカシの外資系物語

ノーベル賞と外資系2002.11.01

今年のノーベル賞は、 2 名の日本人がダブル受賞したことで大いに盛り上がりました。東京大学名誉教授の小柴氏と島津製作所の田中氏。特に田中氏は、現役の会社員であるということに加え、その朴訥とした態度から、まさに「時の人」となっているのはご存知のとおりです。


さて、ノーベル賞の中でもあまり話題にされない賞として、「経済学賞」があります。「そんなのあったけ ?」と思われる方も多いかもしれません。そもそもノーベル経済学賞は、 1968 年にスウェーデン銀行設立 300 周年を記念して設けられた賞で、他の各賞とは歴史的な経緯が異なるため、あまりメジャーな存在ではありませんでした。


一方で、過去のノーベル経済学賞受賞者は、サミュエルソン、トービンなど、いわゆる「経済学の巨人」と言われる有名人ばかりです。ですから、学生時代に経済学を専攻した私としては、化学賞や物理学賞よりも馴染みのあるものといえます。


最近のノーベル経済学賞の特徴は、理論よりも実学を重視するところにあります。例えば、 1997 年受賞のショールズ&マートン両教授の研究内容は、「金融派生商品 ( いわゆるデリバティブ ) の研究」です。金融オプションの価格式「ブラック=ショールズ式」はショールズ教授が発明したものであり、マートン教授はそれを株式以外の他の金融商品にも応用させることに成功しました。


多くの外資系金融機関は、両教授の理論を活用し、金融マーケットで大きな利益を上げることに成功しました。ほとんどが数式と化したマーケットの世界で、ひとり取り残されたのが、何を隠そう日本の金融機関でした。私が銀行に就職したのはちょうどその頃のこと。「だめだこりゃ …」というぐらいの差が、外資系と日系の金融機関の間に、確かに存在していたのです。


話を元に戻しましょう。つまり、最近のノーベル経済学賞は、実学が重視されるため、内容そのものがビジネスと直結しているのです。そして、その内容を世界で最も早くビジネスに取り込むのは、欧米の外資系企業に他なりません。


では、今年のノーベル経済学賞はどのような内容で、だれが受賞したのでしょうか。受賞者は 2 名で、ダニエル・カーネマン & バーノン・スミス両教授です。受賞内容は、「実験 ( ないしは行動 ) 経済学」という新分野です。


従来の経済学が、「完璧な合理主義者」を対象とするのに比べ、実験経済学においては「TPO に応じて対応が変わる、優柔不断な人々」を対象とします。その人々は、同じ質問内容であっても、聞き方や質問の文言が違えば、違う回答をします。また、自分が所属する集団のトレンド ( =流行 ) に大きく流されたりもするのです ( たとえそれが、自分のためにならないことだとしても )。


もうおわかりだと思いますが、これは「マーケティング理論」に他なりません。そして、マーケティングの考え方を、ビジネスに大きく取り入れて成功しているのは、日系企業よりも欧米外資系企業と言わざるをえないでしょう。


経済学や経営学は、自然科学のような「実証学問」ではありません。試験管の中で実験をするわけにはいかないからです。しかし、純文学のように、評価が完全に個人に依存するものでもありません。通貨の量が減れば物価が下がってデフレになるし、マーケティングを失敗すれば、どんなに優れた商品でも消費者には受け入れられず、収益は上がりません。現状をいかに素早く分析し、適切な対応を取るか。そのためには IT による仕掛けも重要になってくるでしょう。


以上のように、ノーベル経済学賞には、外資系ビジネスをとらえる上で、多くのヒントが隠されています。そして、もう一つ重大なこと。数あるノーベル賞の中で、唯一日本人が受賞したことがないのも、ノーベル経済学賞なのです。


いつか近い将来に、日本人初のノーベル経済学賞受賞のニュースが流れる頃には、日本のビジネス社会において、外資系企業が違和感なく存在することができるようになっているのかもしれません。

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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