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タカシの外資系物語

「スロービジネス」への誘い2002.10.18

最近、「スローフード」という言葉が流行っています。ハンバーガーなどのファスト (Fast) フードに対してのスロー (Slow) フード。伝統的な食材や料理、質の高い素材を提供する小規模な生産者を守り、消費者に「味」を再認識させる運動のことを指し「スローフード運動」と呼ばれています。


伝統的な食材や料理には、職人芸というか、歴史的かつ文化的な背景が含まれています。たとえば「寿司」を例に取りましょう。確かに寿司というのは、シャリ(酢飯)の上に刺身がのっているものを指します。ですから、人間が握らずにくるくる回転していても、寿司は寿司です。しかしそれでは何だか味気ない気がします。カウンターに座って、一貫ずつ握ってもらうからこそ寿司の醍醐味があるのだという意見もあるでしょう。


回転寿司は合理的・効率的だから値段が安く、伝統的な寿司屋は職人によるサービスの分だけ高い。それはその通りなのですが、冒頭の「スローフード運動」とは、伝統的なものを保護し、もう一度普及していこうという意思が込められています。ハンバーガーなどのファストフードや大量生産食品は、どうしても味が濃く、栄養価も偏りがちです。このままでは、あと何年もすれば、われわれの食べ物はすべて宇宙飛行士のようなチューブ型のものになってもおかしくありません。同じ味覚しかない人間を育ててはいけない、それぞれの食材の旨みを理解する多様な人間を育てていきたい、これが「スローフード運動」の真の意味するところです。


さて、この考え方はビジネスの世界でも当てはまります。かつて 10 年ほど前に、外資系企業が日本に持ち込んだ「ファスト」な考え方は、非常に新鮮でした。徹底的に無駄を排除し、効率性を重視する。そこでは、人間的な個性や「情」のようなものも、効率性の邪魔になることが多いので、排除されていきました。導入当初、確かにこの手法は受け入れられました。「今までどうしてこんな面倒なやり方をしていたのか ? 欧米のやり方で十分じゃないか ……」日本の大半の企業では、欧米流「ファスト」ビジネスを導入していきました。


私が所属するコンサルティング業界でも同じでした。同業他社のうち、最大手の A 社の売りは、コンサルタントの完全同質化でした。この会社のコンサルタントは、同じシチュエーションであれば、全く同じコンサルティングができるよう、みんな全く同じ人格として教育されました。彼らは「アンドロイド」と呼ばれ、同じことを言う安心感が市場に評価されていました。


しかし最近、A 社の業績が悪いのです。いつでもどこでも同じことを言うスタイルが、全く通じなくなってきたのです。「A 社コンサルタントのコメントは、確かにレベルは高いが、みんな同じで面白くない」ここ数年のうちに、日本企業が欧米流「ファスト」ビジネスを理解してしまったために、 A 社の方法論が通じなくなってきたのです。つまりこれは、日本企業の「スロー」ビジネス化を示している証拠なのではないでしょうか。


「タカシさんは外資系なのに、言っていることが何だか日本的だね」


これは私が外資系コンサルティング会社に入社して以来、クライアントからずっと言われ続けているコメントです。数年前は、「外資系なんだから、もっとしっかりした方法論を教えてくださいよ」という非難の裏返しだったのですが、最近は違うような気がします。むしろそのことを評価してくれているような趣さえ感じます。


私は、ここ数年で、外資系と日系企業の差が急激に縮まってきたのだと感じています。もちろん外資系企業の方が優れている面は多いのですが、日本でビジネスを展開する上では、何もかもを外資系と同じに揃える必要はありません。無駄は無駄のまま残す、ときにはそういうことも重要なのです。「スロー」ビジネスというのは、まさにこのことなのでしょう。


先日、来日して半年の David を夕食に誘いました。彼は大の日本通で、寿司が大好物です。しかし彼は、普通の寿司屋に行くぐらいなら、安い回転寿司屋に行くという考えの持ち主でした。私は彼に「スロー」フードの考えを教えようと、築地のある高級寿司屋に連れて行きました。


タカシ 「 David 、お寿司というのはだね、単に食べればよいというものではなく ……」


David 「 Oh, Delicious ! Great !」


タカシ 「いやいや、ちょっと話ききなさいよ、Dave ……」


David 「 Hey Master ! Next, this one ! 」( 大将、次これね ! )


タカシ 「ちょっと待てこのやろ ! それは大トロといって、すっごい高いんだから、せめて中トロにしときなさいよ、 Dave ! 」


…… というわけで、彼にとっては寿司が食えればそれでよかったわけで、「スローフード」の考え方は、それに共感してくれる人とのみ分かち合うことが重要だということがおわかりになったと思います。では!


…… トホホ、財布カラッポ ……

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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