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タカシの外資系物語

終わらない ?! 評価会議 ( その 2 )2002.07.12

前回の続き )前回は私が勤める外資系企業における「ランクアップ」の考え方についてお話しました。今回は、わが社の評価体系そのもののお話をしたいと思います。


実はここ数年、わが社の評価体系は、変更に次ぐ変更を繰り返してきました。あるときは、米国本社のものをそのまま採用したりしました。しかし、英語で表現された評価属性が、どうしても日本の文化的なニュアンスに合わないものが多く、評価が極めて難しくなるケースが出てきたのです。例えば、 "Humanity" という評価属性があります。辞書的な意味では「人間らしさ」ということになりますが、日本人的にはどうもピンときません。イメージとしては、「部下への思いやり、部下をひきつける魅力」みたいな意味なのですが、日本人にはなかなか説明しにくい部分です。


逆に、あまりにも日本的な評価属性にしてしまうと、グローバルベースでの整合性が取れなくなってしまいます。例えば、「勤務態度 = 良好」なんていうのをそのまま英語に訳すと、「勤務態度が良好じゃない社員てのは、一体どんな人のことを言うのだ。会社がサラリーを与えている以上、良好に決まってるじゃないか !」と、米国本社から言われるのがオチです。つまり、日本の伝統的な評価属性というのは、あまりにも曖昧で抽象的であるために、欧米人には理解できない場合が多いのです。


ということで、わが社では人事部が中心となって、欧米流と日本流のちょうど中間ぐらいの評価体系を作り上げました。今回は、その体系を用いた初めての評価会議ということになります。


今回の評価体系の大きなコンセプトとして、「すべての属性を数値化する」ということがありました。これは、従来までの評価体系の欠点を補うことを目的としています。従来までの評価の欠点を一言でいうと、結局はあるスタッフの評価を、 A ~ E の 5 段階に分けているだけで、「そのスタッフの強みは何で、弱みは何なのか、具体的にわからない」「A という評価を与えられたスタッフの中での、順位がわからない」などの問題がありました。今回の修正版では、すべてのスタッフの評価は点数化されるため、もし 100 人いるとすれば、1 位から 100 位までの順位が明確につけられることになります。


評価属性は、大きく分けると 3 つあります。まず "General Attributes" ( 「一般属性」 ) として、 "Teamwork" ( 「チームワーク」 ) "Flexibility" ( 「柔軟性」 ) など 10 項目。次に、 "Business Dimensions" ( 「ビジネス的側面」 ) として、 "Customer Sales" ( 「いわゆる営業」 ) "People Development" ( 「人材育成」 ) など 10 項目。最後に "Knowledge Area" ( 「知識エリア」 ) として、 "Industry Knowledge" ( 「業界知識」 ) "Products Knowledge" ( 「商品知識」 ) など 5 項目。これら計 25 項目について、 1 点刻みで 10 点満点の点数がつけられ、より重要な項目を加重平均して評価得点を算出します。


しかしこれでもまだ、読者のみなさんの中には、「いくら細かく設定したところで、結局は評価者の主観を積み上げただけじゃねぇか ……」と思われるかもしれません。実は、「評価マニュアル」には、スタッフのランク毎に各項目の得点のつけ方が詳細に記載されています。例えば、シニアスタッフの「柔軟性」という属性の場合、「以下のように採点せよ」と書かれています。


■ マネージャーが指示しなくても、臨機応変に作業変更できる →  8 点以上


■ マネージャーによる 1 回限りの指示で、作業変更できる →  5 ~ 7 点


■ マネージャーによる複数回の指示で、作業変更できる →  1 ~ 4 点


またこれ以外にも、いくつかの約束事があります。


■ 8 点以上をつける場合には、必ず何らかの実例(実際に起こったこと)を示すこと


■ 「きっとできるだろう」という見込み点ではなく、「実際にやった」ことをベースにすること


■ 25 項目中、 3 項目以上に 4 点未満がある場合には、原則としてランクアップさせない


実は、 3 つめの約束事については、賛否両論ありました。たとえいくつかの弱みがあったとしても、違う部分でそれらの弱みをカバーするだけの、強力な強みがあればいいじゃないのか、という反論です。これについては、「マネージャーになるからには、ある程度のジェネラリストであってほしい、あるべきだ」という見解が勝りました。


評価会議では、マネージャーが独り善がりの偏った評価をしないよう、他のマネージャーからのチェックが入ります。


「そのようなケースでは、私の場合は 6 点をつけた。なので、修正してほしい」


「シニアスタッフならそれぐらいできて当たり前でしょう。 8 点は甘すぎる」


などなど。このような作業を通して、全体の分布は極めて正規的な分布に近づいていくのです。


実は、私はこの評価方法を非常に気に入っています。結局のところ、ある程度の主観が入るのは仕方ないと仮定した上で、最終的な評価を「点数」という絶対的な基準に置いている点がいいのです。「A くんの方が、なんとなく B さんより優れている」ではなく、「A くんの方が、 B さんより 2 点高い」という方が、評価する側もされる側もわかりやすいと思うのです。


私が日系企業に勤めていたころの評価は、結局は、自分の上司に力があるか、または上司に好かれているかどうかで決まりました。そもそもソリが合わない上司の下についた瞬間、高い評価は得られないというあきらめモードになっていたような気がします。今回の評価でも、上司に嫌われたスタッフの採点は辛くなりがちでしょうが、ある程度のチェックが効くと思います。


逆に、今回のような評価の欠点は、ズバリ「時間がかかりすぎること !」です。私は 10 人のスタッフを評価したのですが、採点から評価会議まで含めると、 7 月の労働時間の 1 / 3 ぐらいを費やしているような気がします。一方で、お客様との仕事はいつも通りにやっているわけですから、これら評価作業は残業でカバーしていることになります。


( 評価会議の司会者 )「では次は、 E くんの評価です ……」


評価会議はまだ続いています。


「ふぁ~~あ …… ねむ ……」


人が人を評価する、という深遠なテーマを追求すべく、もう一頑張りしたいと思います。では !

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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