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タカシの外資系物語

数学はお好き ?2002.05.24

面白い調査結果があります。それは、「文系学部卒業生で数学や理科が得意だった人は就職後の年収が高い」というもの。ある有名私立大の文系学部を卒業した 2000 人を対象に、得意科目別に平均年収を比べると、「数学」が 737 万円と最も高く、「理科」 723 万円、「英語」 694 万円という結果が出ました。調査を実施した、京都大学の西村和雄 教授は「論理的思考力があるため、できる仕事の範囲が広がるからではないか」と指摘しています。


私は、ある公立大学の経済学部出身です。専攻は「数理経済学」なので、何となく数学が得意な感じがするかもしれません。しかし実態は、数学は大の苦手です。数学のゼミを選んだのも、ゼミ選択時に連続 3 回も「じゃんけんに負けた」ために、仕方なく入ったにすぎません。就職のときも、「文系だけど営業はしたくない」という、何ともネガティブな理由で銀行を選びました。しかし、フタをあけてみると、最初の配属先がシステム部。その次が、金融工学を駆使するデリバティブのディーラーと、コンピューターや数式を使う仕事ばかりしてきました。


ただ、私なりに努力はしました。高校時代にやった数学は、「数学 1 」と「数学 2 」だけ。「数学 2 」といってもわからないかもしれませんが、幾何は平面のみ、微分積分も無限は対象外、確率統計も「 3 人でじゃんけんして A 君が勝つ確率はいくらでしょう ?」ぐらいしかやっていません ( だから、じゃんけんに負けまくったのかも …… )。そういう意味では、コンプレックスがあった分だけ、成果も上がったのかもしれません。金融工学の話でも、理系の大学院卒の人と会話できるぐらいにはなりました。


さて話を戻します。「数学好き」と「ビジネス社会での成功」は、関係があるのかないのか ? 私の個人的な意見では、「関係はある。ただしそれは、『数学』という切り口ではない」ということになります。


まず、数学とビジネスとの関係ですが、私は自分の経験から、「ビジネス社会の多くで使用される数学とは、高校の初歩レベルで十分」だと思っています。当初は「難解すぎて、自分では無理だ …… 」と思っていたデリバティブも、付け焼刃の勉強でなんとかなりました。微分積分を知らなくても、銀行員としてはだれでも知っている、為替と金利の知識があれば理解できました。 IT の世界でも同様です。私の知り合いの SE は、そのほとんどが法学部や経済学部出身の文系です。文学部の人もかなりいます。ロケットを設計したり、医薬品を開発したりするためには、高度な理系知識が必要かもしれませんが、それ以外の大半の仕事は計算さえできればなんとかなります。その計算だってエクセルなどの表計算ソフトがやってくれます。


では、「数学が得意だ」と自分で思っている人の特徴は何でしょう。それは、「物事のシロクロをはっきりつけたがる」人だと思います。数学には、複数の解答は存在しません。「これはシロ、それはクロ」と明確な答えが存在します。日本社会は長い間、「それはシロかもしれないし、クロかもしれない …… よくわかんないから、みんなで力を合わせて頑張っていこう !」という、極めて文系的な考えでビジネスが成り立っていました。しかしここ数年、金融ビッグバンに代表されるような構造改革と猛烈な外資参入の中で、数学的なハッキリした思想が求められるように変わってきたのです。冒頭の調査結果は、そのことを如実に物語っているような気がします。


外資系企業においては、特に顕著です。彼らは自分なりの明確な「答え」を持って生きています。それは数学が得意かどうかという切り分けではなく、彼らの「文化」そのものなのです。


( 私 )「アンソニー ( アメリカ人の同僚 ) は、数学は得意だったの ?」


( アンソニー )「全然ダメ。『数学恐怖症』("Mathematic-Phobia") だったわ。でも MBA のクラスではそんなこと言ってらんないから、頑張ったけどね」


( 私 )「日本人の数学について、どう思う ?」


( アンソニー )「えっ ? 日本人って、学生時代に数学ばっかりやってるんでしょ ? 私、タカシの計算の速さにはかなわないわ ……」


( 私 )「それって、数学っていうか、『算数』のレベルなんだけど ……」


( アンソニー )「そうそう、私、数学は苦手だったけど、『論理学』("Logic")は得意だったわよ」


なるほど、欧米には「論理学」なる科目があって、そこで論理的思考法を学ぶのです。日本では、「帰納法」「演繹法」などの多くは数学の中に含まれ、その一端しか学べないような教育体系が主流なっています。


今後の日本に必要なのは、数学教育そのものの底上げより前に、論理的な考え方をするための訓練、という意味での「論理学」を組み込んでいく事ではないか、と思う今日この頃です。

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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