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タカシの外資系物語

事件後のメンタルケア ( NY テロ事件 2 )2001.10.12

前回の続き )NY テロの翌日から、私はオフィスに泊り込むことになりました。私は現在、ある邦銀の NY 支店へのシステム導入プロジェクトを手がけており、その対応をする必要があったからです。


プロジェクトメンバーの無事は確認されていましたが、私が何より気がかりだったのは、彼らの「メンタルケア」の問題です。NY オフィスの日本人セクレタリーであるヨシコの話から、彼らの精神的なダメージが相当なものであると聞かされていました。


まず、プロジェクト・マネージャーのエレンは、事件のショックで寝込んでしまったようです。普段から、彼女の「アメリカ信奉」は相当なものでした。「グローバル・スタンダード = アメリカン・スタンダード」とする彼女とは、私自身、よく衝突したものです。しかし今、彼女の目前で「強いアメリカ」が一瞬にして崩壊してしまったのです。彼女と同様に、苦学をして MBA を取得した層ほど、今回の事件での精神的ショックは大きかったようです。


次に、カナダのトロント・オフィスからプロジェクトに参加していた、マネージャーのデイヴが深刻でした。彼は事件当時、世界貿易センターの 2 つの棟にはさまれた、マリオット・ホテルに滞在していました。1 機目の爆発後、すぐにホテルの窓を開けた彼のその目の前を、数十人の「ヒト」が降ってきたそうです。彼はそれ以来、ずっと黙り込んでいるようです。


私は、彼ら 2 人と「対話」を続けることにしました。できることなら、すぐに現地に飛んでいきたかったのですが…。


私は以下のメールを送りました。


"I hope you can feel at ease, soon. Please ask to Tokyo colleagues, if you have any trouble. We can do it for you, as much as we can. Takashi."( 何か困ったことがあれば、東京オフィスが力になります。タカシ )


すぐにエレンから返事が来ました。


"Thank you for your message and for your concern. It will be a very long recovery and rebuilding process. We will keep you posted on the progress of things here."(メッセージありがとう。こちらの回復には時間がかかりそうだわ。何かあれば連絡するから)


その文脈からは、いつものような力強さが感じられませんでした。


数日後、CEO から「Global Aid Team」を設立する旨、連絡がありました。東京オフィスからは、私を含めて 5 人がアサインされました。社内の義援金を集めたりする活動はもちろんですが、もっと重要なことは、上記のように精神的なダメージを受けたスタッフの「メンタルケア」を行うことにあります。要するに、私がエレンやデイヴに行っている「対話」を世界規模で実施するというものです。私はエレンとデイヴ以外に、NY で事故に遭った日系人スタッフ 3 名を担当することになりました。


それから何日かたった朝、エレンから私の携帯に電話が入りました。


( エレン )「Hello! Takashi, are you doing well? ( タカシ、元気 ? )」


( タカシ )「やぁ、エレン。気分はどうだい ? 」


( エレン )「もう完全に回復したわよ。いつまでもメソメソしてられないもの。そうそう、私ね、NY の「Global Aid Team」のヘッドにアサインされたから。確か、タカシもチームの一員のはずね …。毎日私にレポートするのよ、わかった ? 」


やっぱりエレンはこうでなくっちゃ ! 私はアメリカ人の本当の「強さ」を見せつけられたような気がしました。


ショックを受けた NY のみんなが、エレンのように立ち直ってくれることを祈るばかりです。

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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