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有元美津世のGet Global!

米大統領選とグローバル化2016.05.10

 

米大統領予備選でトランプ候補が共和党の指名を確実にし、それを何とか阻止しようとしていた党指導部は大騒ぎです。

 

日本での大統領選に関する報道は、トランプ候補ばかり取り上げた偏った報道が多いですが、同候補の中核の支持層は大卒未満のブルーカラーで「製造業が海外に移転し、職を奪われた」と怒っている人たちです。「雇用をアメリカに戻そう」というシンプルなトランプ候補のメッセージ、かつ庶民のことなど気にかけない政治家への不信感が、政界の人間ではないトランプ候補の支持につながっています。 

 

一昔前までは、大手メーカーに勤めれば、高卒ブルーカラーでも家やボートを購入して中流の暮らしができ、手厚い企業年金をもらって老後の生活も安泰でした。

 

ところが、過去25年、安定した雇用を得ることは難しくなり、とくに大卒未満の男性の雇用率は低下しました。かつ大卒男女の実質賃金は上昇したにもかかわらず、大卒未満の男性の実質賃金は大きく下落したのです。さらに、過去20年、他の先進国では中年男性の死亡率は減少しているのに、アメリカの中年白人男性の有病率や死亡率は上昇しており、とくに高卒以下での上昇率が激しいのです。「生活水準が落ちてしまった」「俺たちは見捨てられた」とこの層は怒っているのです。

 

ホワイトカラー職も安泰ではない

 

しかし、怒っているのは、この層だけではありません。近年、高給のホワイトカラー職も奪われているのです。たとえば、放射線などの画像診断は、もう10年ほど前からインドなどの放射線医にアウトソースされています。

 

最近では、米国内のIT職が海外からのエンジニアに奪われることが問題になっており、トランプ候補は、これにも対処すると発言しています。

 

2年前、フロリダのウォルト・ディズニー・ワールドで、IT職社員250人がクビを切られ、その後任としてアウトソース企業がインドからエンジニアを派遣しました。退職金受給の条件として、レイオフされた社員は派遣社員の教育を強いられたといいます。

 

本来、レイオフとは会社の業績が悪化したために職自体が廃止されるといった理由で行われるものなのですが、職はそのまま残り、安い労働力に置き換えるために雇用者が解雇されるケースがアメリカ企業で相次いでいるのです。

 

失業して一年以上、仕事が見つからないディズニーの元社員らは、「就労ビザは適格なアメリカ人労働者が見つからなかった場合のみ、アメリカ人の雇用に悪影響を及ぼさないという条件で発行される決まりで、それに反した」とディズニーを訴えています。同様に、後任のインドからの派遣社員を教育しなければならなかったカリフォルニアの電力会社の元社員らも、就労ビザ取得者の配偶者もが労働許可を得られるようになったことに関し連邦政府を提訴しています。

 

日本でもグローバル化の影響で非正規雇用が増加しましたし、海外へのアウトソースも進んでいます。ただし、「日本語」という壁に守られてきた部分もあります。 

 

実は、私は東南アジア旅行用に日本国内で営業するヨーロッパの保険会社から海外保険を購入したのですが、クレーム申請の顧客サポートは中国でした。メールで問い合わせると、日本語が流暢な中国人スタッフが返答してくるのです。クレーム処理はヨーロッパの本社で行うので、日本で必要なのは営業要員だけです。

日本語ができる顧客サポートが必要だからといって、もはや日本に事務所を置くことも日本人を雇う必要もないのです。

 

ベトナムでも日本語を話す人口は増えていますし、今後、日本語を要する仕事も海外の安い労働力に置き換えられる傾向は強まるでしょう。

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この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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