悩みに答える転職相談
石原

相談者の悩み( S.A. さん、 28 歳 )
幼少を海外で過ごし、香港で就職もしました。今は日本に帰国して海運会社に勤務しています。良くいえば伝統的、悪くいえば堅苦しいところです。私としてはもっと自己の裁量が大きく責任のある仕事に取り組みたいところなのですが、決まり事が多くてなかなか思うようにいきません。転職を考えると同時に、今の職場でキャリアを重ねるにはどうすればいいのか悩んでいます。今、私は何をしていけばいいのでしょうか ?

【相談者 経歴】 親の海外赴任のため中高を香港で過ごし、カナダの大学へ進学。香港に戻って人材コンサル系の会社に就職したが、日本で生活してみようと帰国を決意した。就職した会社の保守的な雰囲気に慣れず転職しようか、それともこのまま続けようかと迷っているところ。広東語・英語スキルには自信あり。
「日本に帰国してはじめての職場がものすごくコンサバティブな企業なんです」
相談者
今の職場環境についていくつか悩みがあります。男尊女卑の傾向があったり、何をするにしても非効率的な決まり事があったり……端的にいって非常にコンサバティブなんですね。転職するときに面談などで、この状況をどう伝えたらいいのか考えてしまうのです。例えば面談などで「お茶くみをするために就職したいとは思わない」といった本音を果たして伝えていいものかどうか……。
石原さん
ishihara 確かに言い方はいろいろありますよね (笑)。Aさんの悩みも理解できます。ただ、転職理由の説明に悩む前に、やはり自分がどうなりたいのか、何をしたいのかを明確にすることが大事だと思いますよ。Aさんが新境地で求めたいものは何なのですか ?
相談者
第一の希望は、与えられた担当業務について上司の許可が逐一必要でないような仕事に就くことです (笑)。今は何をするにも判子が必要なんです。海外の会社に勤めていた身としては大きなカルチャーショックでした。
石原さん
今、お勤めになっているのは海運関係ですね。ということは入社する前に、ある程度コンサバな業界だとわかっていた ?
相談者
ええ、話には聞いていたのですが、ここまで体質が古いとは予想できませんでした。
石原さん
わかりますよ。私もそうでしたから。新卒で就職した頃は、まだ FAX 一枚送るのにも上司への申請が必要だったんです。何をするにも判子が必要だし、書類の書式も細かく決められていました。ラッキーだったのは、それが最初の社会人体験だったことです。他を知らないから「こんなものか」と順応することができたんですね。ただ、逆にそういう仕事を知っているからこそ、別の所では緻密な仕事ができると考えられますよね。
相談者
というと?
石原さん
結論からいえば「お茶くみはイヤだ」といっても構わないと思います。一人で完結できる仕事というと、言葉を換えればそれだけ責任の伴う仕事ということになりますよね。ならばコンサバな職場環境の中でがんじがらめになりながら働いてきた経験を活かした上できめ細かい仕事ができるとアピールすればいいのではないでしょうか。ただ単に「責任のある仕事をバンバン任せてほしい」というのとはかなり印象が違いますよ。言葉の使い方や言い方というのは思った以上に大きな影響をもたらします。さらりと自分の決意を表明することができれば理想的ですね。
相談者
なるほど、それはよくわかります。
石原さん
最初はなかなかうまくいかないかもしれませんが、面談の 1 回 1 回を練習の場だととらえて気楽に取り組めば、いずれうまく表現できるようになるでしょうね。
「今の職場から吸収できるものはあるのでしょうか ?」
相談者
もうひとつの悩みは、仮に今の職場で働き続けるとしたら、そこで何を吸収すべきかというところなんです。職場環境を簡単に変えることはできないと思うのですが、少なくとも自分を変えることはできると思うのです。
石原さん
ishihara それはいい心がけだと思います。私もお堅い銀行にいたので、その経験を元にアドバイスさせてもらいますね。新人の頃、コピーの取り方ひとつにこだわる人がいることに驚いたことがありました。また、ある人は書類をホッチキスで留めるとき斜め45度にしないと怒るけど、また別の人は真っ直ぐ留めないと嫌がる(笑)。今ならくだらないと思うのですが、当時の私は「求められていること」を先読みするように心がけていったんです。「あ、この人は斜め 45 度だ」とわかっていれば、相手も気分がいいでしょうし、たったそれだけのことで人間関係が円滑になるわけです。電話の取次でもいくつかのパターンがあって、その人が一番満足する方法でやっていきました。そういう小さな改善が積もり積もって周囲の信頼を勝ち取ることができたんです。1 円玉貯金みたいに(笑)。そのおかけで私は事務職にも関わらず大きな会議に同席させてもらえるようになりました。さらにその経験が海外赴任へと結びついていったのです。チャンスは降ってくるものなのかもしれませんが、土台を作るのはあくまでも自分自身。女神の微笑みを見ることができるのは、あくまでも自分の目なんですよ。
相談者
それはすごいですよね。
石原さん
例えば「こんなことは新人の子にやらせてよ」というつまらない仕事に当たったとしても、それを自分でするとどうなるか、と考え方を変えていくことが肝心なんです。次に行く会社が、そういう1円玉貯金を必要としない環境であったとしても、今の積み重ねは必ずどこかで活きてきますよ。そう考えたら、Aさんが帰国子女であるにもかかわらず、帰国後日本でのキャリアをコンサバな会社でスタートしたこと自体が武器になるかもしれません。
相談者
例えばどういうことでしょうか。
石原さん
帰国子女は活発すぎると思われがちです。私自身が帰国子女でしたからよくわかります(笑)。しかし、その帰国子女が社会人としてのマナーや細かいルーティン作業の大切さをわかっているとしたら……これは大きな魅力ですよ。採用する側は相手が「社会人としてのスタートをどこで切ったか」を気にするところがあります。体質が古いといっても伝統のある会社は概して人を育て、躾けていくことに長けていますから、採用担当者もそこを魅力と受け取るはずです。ところでAさんはどんな仕事、あるいは会社に興味を持っているのですか?
「帰国子女で未経験職種にチャレンジ、これって可能ですか ?」
相談者
香港で最初に就職した会社が人材コンサルタントの業界でした。そこで人事の仕事に興味が出てきたんです。当時は非常に広い人事業務の一部しか体験できませんでしたが、今度は企業内部の人事担当者としてヒューマンリソースに関わる仕事をしてみたいと考えています。
石原さん
ishihara そこまで決まっているのなら会社を絞りやすいと思います。ただ、弱点があるとしたら社内人事の仕事は未経験だという部分でしょうか。しかし、それでも 30 代 40 代の未経験と 20 代の未経験では大きな差があります。たとえ未経験であったとしてもAさんのような 20 代の柔軟性は魅力ですからね。
相談者
未経験の場合、どんなアピールが適切ですか?
石原さん
簡単にいってしまえば「手間がかかりそうだけど雇ってみるかな」と思ってもらうことですよ。また、海外での経験や英語のスキルはいつか必ず役立つときが来ます。Aさんは日本の企業に対してどんなイメージを持っていますか ?
相談者
香港のビジネスを体験した私としては、ルールやポリシーがしっかりとしているというイメージがあります。
石原さん
海外で働いた経験を持つ人の強みは「日本の物差しが唯一のものではない」ということがわかっていること。それだけに物事を多面的に見ることができますし、いろんな部分で許容範囲も広い。採用担当者は帰国子女を「扱いにくい」というイメージで見ることも少なくありませんが、その点だけ注意すれば大丈夫だと思います。頑張ってください。
相談者
はい。ありがとうございます。

石原久美の転職アドバイス 今回のポイント

転職相談_ishihara

1) 面談では気持ちの伝え方に注意しなければならない
2) 今の環境の中で「自分のできること」を追求してみる。しっかりとした土台を作らなければチャンスは巡ってこない
3) 帰国子女の強みと弱みを理解して転職に臨む

Aさんは海外の大学を卒業し、まず海外で就職、その後日本の伝統的な(お堅い?)企業に転職したという珍しいケースです。二つのまったく違った企業カルチャーに接したことはそれだけで大きな武器になるでしょう。今の業務には多少の不満があるようですが、そこから逃げ出すのではなく逆に糧とすることができれば、帰国子女としての強みを一層強化できると確信しました。つまらないルーティンワークをイヤだイヤだと思ってこなしているだけでは経験の蓄積にはなりません。決まりごとが多くて劇的な改善はできなくても、自分なりに工夫を凝らして取り組んでください。そこで得る経験のひとつひとつは小さなものであっても、積み重ねていけば大きな財産になります。採用担当者は帰国子女に対して、良くも悪くもある種のイメージを描いているはずです。それだけに帰国子女としての強みをアピールし、弱点を克服していることを伝えることが大切だと思います。