悩みに答える転職相談
石原

相談者の悩み( T・Kさん、30歳 )
7年務めた大手通信会社を退職して、MBA取得のためにスペインに留学することになりました。帰国後はベンチャーキャピタルへの転職を考えているのですが、私の年齢、経験から考えられる一番有効なキャリアステップはどのようなものでしょうか? エンジニア以外の経験を積んだ方がいいのでしょうか?

【相談者 経歴】大学卒業後、大手通信会社に就職。ネットワークエンジニアとして専用ネットワークやプラットフォームなどの設計・構築・技術検証を担当する。02年、アメリカへ赴任しここでもエンジニアとして活躍。学生時代、中南米諸国の大半を渡り歩いた経験から、ラテンアメリカ文化に興味を持った。スペインでMBAの取得を考えたきっかけでもある。
「MBA取得後を決めかねているのですが…」
石原さん
T さんはMBA取得のために留学を予定されているとか?
相談者
はい。今日教えていただきたいのは“その後”のことなんです。中長期的にはベンチャーキャピタル(以下、VC)への転職を考慮しているのですが、MBAを取って帰国したあと、どのような道を進めばいいのか悩んでいます。
石原さん
具体的には?
相談者
私のバックグラウンドはエンジニアですから、技術的な知識を活かした仕事ができればと考えているのですが、その前に金融やコンサルティングの分野で経験を積んでおいた方がいいのかなあと思うこともあります。ストレートにVCへ進んだ方がいいのか、それとももうワンステップ経験を積んだ方がいいのかご意見をお聞かせください。
石原さん
ヘッドハンターとしての経験をもとにアドバイスさせていただきますが、その前に一個人の意見であるということを念頭に置いてくださいね。端的にいってしまうと、最終的にやりたいことが決まっているなら、寄り道をしないで最短距離を進んだ方がいいというのが私の考え方です。
相談者
そう思われる理由は何ですか?
石原さん
ishihara 確かにVCを目指す人たちの多くは、コンサルタントか、あるいはそれに近い分野で、アウトサイダー的な立場から「経営」を学んできた方が多いですよね。ただ、それらの人にしても、「異分野への転職」のリスクはあるわけです。高いレベルで仕事をするためにリスクを取らなければならないとすれば、できるだけ若いうちに取っておいた方がいい。若ければ若いほど、リスクに対応する力、柔軟性がある。別の言い方をすれば、失敗しても立ち直ることができるんです。T さんの場合は、飛び込む海は既に決まっているわけですから、遠回りしないで早めに飛び込んだ方がいいと思うんですよ。
相談者
私は今30歳ですが遅くはないですか?
石原さん
帰国したときには32歳ですね。それなら全然遅くはないですよ。その時点でMBAを取得している訳だし、エンジニアというベースになる武器は持っている訳ですから、全く問題はないと思います。
相談者
自分でもエンジニアとしての経験や知識には自信があるのですが、ファイナンスの経験がないことがネックにならないかと心配で……。一部ではエンジニアの経験だけでは難しいという話も聞きますし、付加価値をつけた方がいいと思っていたのですが。
石原さん
考え方を変えましょう。例えば一旦金融の道へ進むにしても、やっぱりそこではゼロからのスタートですよね。いきなりVCの世界に行くのもゼロからのスタート。また、金融からVCへ移ったとしても、やっぱりゼロからのスタートなんですよ。ファイナンスの知識という付加価値があったとしても、VCに入った時点で、過去の経験や知識は机上の論理に過ぎないと考えることもできますよね。
「新規ビジネスに関わってみたい気もします。」
相談者
一方で、より経営に近いところで新規ビジネスの立ち上げをやってみたいという気持ちもあります。無論、この場合もエンジニアとしての経験を活かしたいと思うのですが。
石原さん
むしろそっちの方が現実的ですね。ただ、気鋭のベンチャーに入るとして、そこの経営者がどんな考えを持っているかによって、採用は決まると思います。社長自身が資格より実務を優先させるタイプかもしれないし、MBAを持っているということで「人件費が高くならないか」と心配されるケースも無い訳ではありません。
相談者
なるほど。
石原さん
ishihara それ以前に有名企業で大きな仕事を経験してきた人が、若い社長の下でキッチリ頭角を現すことができるかという問題もあります。某ベンチャーの子会社に有名企業出身の有能な方が配属されたのですが、最初はなかなか芽が出なかったということがありました。彼には金融の知識も経験もあったのですが、シーズファイニングのコネがなかったんですね。自分より若い子たちがどんどんシーズファイニングしてくるのに自分は右往左往するばかり。当初は相当悩まれたようですが、金融のバックグラウンドを利した形で自分なりの仕事の仕方で地道に社内外の信頼基盤を徐々に築くことで結果が出せたということです。
相談者
どんなネットワーク(コネ)を持っているかどうかも肝心ですね。持っているネットワークをアピールすることはやっぱり重要なんでしょうか?
石原さん
重要なのは、そのネットワークがきちんと実働するモノであるかどうかということです。例えば同じ大学の卒業生に有能な人がいっぱいいて、電話一本、メールひとつで、即座に必要なサポートを得ることが出来る人には魅力が感じられますよ。
相談者
それを履歴書や職務経歴書に書くのは難しそうですね。面接でもうまく表現できないかもしれない。石原さんなら、そこをどうやってアピールしますか?
石原さん
難しいですね(笑)。ただ、コネがある人、助っ人が多そうな人はパッと見でわかる。人を引き寄せる魅力がある人、「この人を助けたい」と思わせるような人っているんですよ。 あと、大切なのは面接で、どれだけ具体的な話ができるかということだと思います。自分がどんなチームにいて、どんな立場で、どんなプロジェクトを遂行してきたかという話をすると思いますが、そこで何に苦労して、どういう人たちに助けてもらったのかを、具体的なエピソードを交えて話すといいでしょう。失敗したことも包み隠さず話せるなら、それはリアルな体験となって相手に伝わります。
「バックグラウンドをうまく活かすには? 」
相談者
エンジニアのバックグラウンドを最大限に活かすためには、どのような分野がいいと思いますか?
石原さん
2年後にTさんがMBAを取得して帰国したという前提で話しますね。コンサルやシステム・インテグレーダー、製造業など。様々な分野が考えられると思いますが、実はMBAというのは“変身の道具”のようなところがあるんです。卒業後の進路の可能性が格段に広がる傾向はあります。 本人の意志次第で、過去の経験だけに囚われずどこにでも行ける訳です。もちろんその人のバックグラウンドは重要なものですが、可能性を狭めてはならないと思いますよ。知らず知らずのうちに自分の可能性を狭めている人は意外に多いんです。
相談者
わかりました。ありがとうございます。

石原久美の転職アドバイス 今回のポイント

転職相談_ishihara

1) 進路が明確に決まっているならば、敢えて遠回りする必要はない
2) 面接では具体的なエピソードを挙げて、リアルな体験を語るべき
3) 過去の経験に縛られて、自分の可能性を狭めてしまうのは得策とはいえない

Tさんのように、自分のバックグラウンドに自信を持っている人でも、異分野へ転職するときには「足りないものがあるのではないか? 」と、思い悩む人が多いようです。確かに彼のように最終的にベンチャーキャピタルを目指しているならば、ファイナンスや経営の経験があった方がいいかもしれませんが、あえて遠回りするという考え方が正しいとは言い切れないところがあります。スキルアップのための転職をして何年か働いたとしても、それが直接活きるという保証はどこにもないのですから、Tさんの場合は最終目標への最短ルートを取るのが正解なのではないでしょうか。また、過去に培った経験や知識は大きな武器になりますが、それ故に自分の可能性を狭く見積もってしまうという例が少なくありません。MBAという、ある意味“使える変身の小道具”を持つわけですから、もっと大きな視野を持って、自分の可能性を考えていくことも大切なことだと思います。


石原久美(いしはら くみ)

国際基督教大学教養学部仏語科卒後、日本興業銀行入行。国際業務部にて海外業務に携わった後ロンドン支店に赴任し、営業企画に従事。その後退職しそのままロンドンに残り、ロンドン・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)取得。帰国後ラッセル・レイノルズ・アソシエイツに入社。以後「天職」・「人」ビジネスに関わる。縄文アソシエイツの創業・創成期に関わった他、日本パラメトリック・テクノロジーにて人事VP職を経験。現在ストーンフィールド・インク代表。伸び盛りの企業と前向きな人への側面支援をエンジョイしている。