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タカシの外資系物語

“ソフトパワー” を売り込むために日本人がすべきこと (その2)2016.01.19

“成果物” を定義できるか?

 

(前回の続き)「日本は世界に、“ソフト” を売り込むべきだ!」・・・ 最近よく聞かれるスローガン。今回のコラムでは、日本のソフトパワーをグローバルに売り込む上で、日本人自らがいかに変革すべきかについてお話したいと思います。

 

 

「この作業の “成果物” って、何?」

 

クライアントとコンサルティング契約を結ぶ上で、“deliverables”(成果物・納品物) を定義することは、非常に重要な作業です。以下のように、成果物は作業タスクごとに定義されます。

 

-      システム要件の検討 ・・・ (成果物)要件定義書

-      マニュアル作成 ・・・ (成果物)オペレーション・マニュアル

 

ではここで問題。以下の作業タスクの 成果物 は何だと思いますか?

 

-      ユーザーに対するトレーニング(training users) ・・・ ???

 

正解は・・・、

 

(成果物) トレーニングを受けた(知識を得た)ユーザー (trained users と表現します)

 

です。なぁーんだ、と思われるかもしれませんが、日本人のビジネスパーソンの大多数は、この問いに即答できないのではないでしょうか。私が外資系コンサルティング会社に転職して、衝撃を受けたことの1つがこれです。正に、目からウロコの発想でした・・・

 

では、“ソフト” を定義してみよう!

 

日本人にとって “成果物” という言葉からイメージされるのは、文字通り、手で触れることができる “物(モノ)” です。それは物理的に存在する モノ であって、報告書をつけて上司に回覧できる モノ であって、ファイルに閉じて金庫に保管できる モノ なんですよね。コンサルティング会社にお金を払う以上、その対価を物理的に体感できないと、気がすまない!それ以上に、上司に説明が説明ができない!! よって、紙に印刷可能な成果物をもらって、「これでよし!」と悦に入るわけです。

 

もちろん、最終報告書等、紙ベースの成果物も大事でしょう。なぜなら、議論された内容を第三者に伝え、そこで決定された事柄を知識として移転するためには、何らかの文書が必要だからです。しかし、よくよく考えてみると、実現すべき “成果” というのは、“紙” で表現できるような代物じゃないケースがほとんど。それは、知識を得たユーザーであり、新しい営業パーソンの動きであり、そこから導出される収益やコスト削減、顧客満足度 等々のはずです。これらの大半は、結果的に企業の業績として数字に現れるものであって、現場にて物理的に体感できるものではない。「新しいシステムで仕事が楽になったね」「営業部の雰囲気が良くなったね」「職場が明るくなったね」 ・・・ そういう類のものですから。 実は、このように 

 

「物理的に見えない・触れないが、目的の達成に必要不可欠なもの」

 

こそが、“ソフト” と呼ばれるものの本質ではないでしょうか。

 

例えばITの世界において、“ソフト(ソフトウェア)” といえば、Microsoft Officeシリーズや iPhoneアプリ などがイメージされると思います。一昔前なら、ソフトウェアが入ったCD-ROMの円盤がなければ安心できない日本人が多かったかもしれません。かく言う私も、インターネットでソフトを購入する際、ダウンロード版 と CD-ROM版 という選択肢があれば、手触り感のあるCD-ROM版の方がいいんじゃないか・・・、などと思わず悩んでしまうことがあります。インターネットのつながらない無人島に行くわけじゃなし、CD-ROMなんて、あっても邪魔なだけなんですけどね・・・。

 

さて、ここで重要なのは、Microsoft Office のWordやExcel といったワープロ・表計算といったソフトウェアそのものではなく、それを使って、何を実現するか? ということです。iPhoneアプリだって同様で、そのアプリを使って、どのような生活シーンを実現するか? が重要なわけですね。 広義の意味での “ソフト” というのは、ITの世界で例えれば、アプリそのもの と それを使って実現するビジネスや生活の変革 の両方で、むしろ後者の方が重要だというわけです。

 

日本の強みを、理路整然と説明するために

 

「日本は世界に、“ソフト” を売り込むべきだ!」 と言う前に、われわれ日本人に必要なのは、まずは “ソフト”とは何なのか? を理解することではないでしょうか。“ソフト” というのは、安全性・楽しさ・面白さ・クールさ などといった、物理的に手でさわれないもの(こと)、しかし、お金を払ってでも実現したいもの(こと)を支える 仕組み や 考え方 のことです。機械や設備などの ハード は、当初は競争力を持っていても、時間がたてば真似されます。なぜなら、物理的に手で触ることができるからです。しかし、“ソフト” というのは、そうそうたやすく真似できるものではない。だから、長期間、非常に高い利益率を保持することができるのです。

 

アップルなどは、その典型例でしょう。アップルのハードは、技術的にはそれほど抜きん出たものではありません。しかし、デザイン・雰囲気・かっこよさ・先進性 等々のソフトパワーが半端なく強いので、あれだけの競争力を保っているのです。

 

一方、日本のソフトはどうか? ハードの競争力に比べて、ソフトのそれは、言及するまでもなく 低い。ひところ、“おもてなし” という言葉が流行りましたが、案の定、一過性で終わりました。なぜか? それは、“おもてなし” をサポートしている ソフト とは何か? を、日本人自身が説明できないからです。洗練された店舗で、相手を思いやって、一歩先の所作で接する・・・ そこには、武士道や儒教、茶道や華道などに通じる ルール がある。考え方がある。高い技術力に裏打ちされた ハードとこれらソフトが噛み合わさって、“おもてなし” が実現しているのです。

 

日本だから、日本人だから、という抽象的な説明ではなくて、日本の強みを理路整然と外国人に説明することができるか? これこそが、2020年の東京オリンピックを前に、われわれ日本人に課されているチャレンジのような気がしてなりません。今年は私自身、日本のソフトパワーを世界に売り込むアクションを起こしてみたいと思います。では!

 

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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