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タカシの外資系物語

インド人CEOが続出する理由(その3)2015.09.29

8年前の研修にて・・・携帯の未来を論じてみた!

 

(前回の続き)“証明” なしに “定理・公式” を量産した、インド人天才数学者・ラマヌジャン。タカシは、昨今のグローバルビジネス社会において、インド人TOPが数多く輩出されている理由を、ラマヌジャンに見出そうとしています。今回のコラムでは、タカシが衝撃を受けた、インド人同僚との交流からお話しすることにいたしましょう。

 

今から8年前のこと。私は会社主催の研修で、中国・上海 にいました。世界中のコンサルタントが集められ、最新のトピックをビジネス・スクール形式で討議する、という感じの研修だったと記憶しています。

結構昔のことながら、なぜ “8年前” と、はっきり覚えているかといいますと、2007年はちょうど、AppleのiPhoneが発売され、市場を席捲してた時期だったからなんですよね。研修のテーマも、「今後の携帯電話市場について」 でしたから(※注:この段階ではまだ、“スマートフォン”という言葉は存在しませんでした)、非常に印象深かったのだと思います。

 

研修はいくつかの分科会に分かれ、私が組み分けされたチームの議題は、

 

『携帯電話のアプリケーション、コンテンツはどうあるべきか?』

 

でした。なんか高尚なテーマを扱っているようですが、実は、 

 

裏テーマ 『日本のガラケー、どうよ、これ?』

 

を議論するように仕向けられていました。で、チームリーダーは予想通り、日本代表の 私・・・。このありがちな流れには、閉口するしかありまへんな、まったく・・・。

 

 

チームには2名の論客がいまして、冒頭に、彼らの主張を提示する形で議論が始まりました。

 

論客①・アメリカ人Aさん 「今後、携帯電話は、AppleのiPhoneを中心に展開されていく。Appleのアプリケーションやコンテンツは、本来なら、日本のSONYあたりが開発すべきものだった。Appleにできて、SONYにできなかった理由、それは 創造性=イノベーション の有無 である。今後の携帯電話マーケットに必要なのは、イノベーションに他ならない!」

 

論客②・インド人Bさん 「今後、携帯電話は発展途上国にも展開されていく。発展途上国の場合、豊富なアプリケーションやコンテンツよりも、いかに安価で使いやすいか、が焦点となる。今後の携帯電話マーケットに必要なのは、OSのオープン化とグローバルベースでの販路・サプライチェーンの構築に他ならない!」

 

今だからわかる!インド人同僚Bさんのすごさ

 

議論は、圧倒的に アメリカ人Aさん の主張をベースに進んでいきました。

 

Aさんの問題提起 = SONYがAppleになれなかったのはなぜか?

 

は、この段階において、メディアが取り上げ始めた話題でしたし、ハーバードなと、欧米の有力ビジネススクールが、同様の研究テーマを “ケーススタディ” としていました。ま、なんといってもわかりやすい内容だし、穿った見方をすれば、かつて “ジャパン・アズ・No1” の象徴としてもてはやされた、日本の製造業(例:SONY) を アメリカの製造業(例:Apple) が打ち負かした わけですから、気持ちいい。口角泡を飛ばして、議論を引っ張りたいのも無理はない・・・

 

一方、インド人Bさんの主張を見てみましょう。この研修が実施された段階で、彼の主張の本質を理解した同僚は、あまりいなかったように思います。しかし、今考えてみると、以降の携帯電話マーケットのメインストリームは、Bさんの主張を ほぼその通り 辿っていることがわかります。彼が言った OSのオープン化 とは、Android を指します。研修が実施されたのが2007年の夏で、グーグルが中心となってAndroidの基本構想が発表されたのが2007年11月ですから、インド人Bさんの先見性には舌を巻くしかありません。

 

では、インド人Bさんは、いかにして彼の主張を導いたのか? それは、「(まだ結果が出ていない)最新事例の理解」 と 「論理思考」 に他なりません。研修における、Bさん と 同僚(Bさんの主張に反論したい輩) とのやり取りを見ると、そのことがよくわかります。

 

同僚1 「携帯電話OSのオープン化など不可能ではないか?(2007年当時は、そういう意見が大勢でした) AppleのiOSも、NTTドコモの i-mode も クローズのOSだが・・・」

インド人Bさん 「発展途上国に携帯を広めるには、価格を低く設定する必要がある。低価格に最も寄与するのは、OSや仕様のオープン化である。実際に、OSオープン化の動きは既に始まっており、近い将来実現できると思う」

同僚1 「“思う” ってのは、あなたの 予想 にすぎないよね?」

インド人Bさん 「ビジネスや企業経営の要諦は、結果を真似ることではなく、予想の精度を高めることではないのか?(怒!)」

 

同僚2 「Appleの成功、SONYの失敗から、何が言えるか?」

インド人Bさん 「過去におけるAppleの戦略をいくら研究しても、Appleにはなれない。Appleは常に先頭を走るから意味があるのであって、スティーブ・ジョブズのような才能は、真似できないし、作ろうと思っても作れない。われわれコが議論すべきは、天才に依存しない 第二軸 を作って、ビジネスとして成功させることではないのか?」

 

既存MBAを超える インド思考

 

ビジネススクールで学ぶことは、基本的に 過去に起こった事例 を、後付けで理論化することです。これを ケーススタディ と呼びます。ケーススタディには、成功事例も失敗事例も含まれますが、それらは総じて大企業中心の、だれでも知っている話であって、話題にされずに消えていったような話 や 結果が出ていない現在進行中の話は対象となりません。

 

過去に起こった事例 を、後付けで理論化する・・・ これは 数学の 証明 と似ています。個別事例を一般化し、過去と同じようにやっていれば 成功する/失敗しない という虎の巻を作るわけです。

 

しかし・・・、少し立ち止まって考えてみましょう。これは、自然科学の世界では意味があるかもしれませんが、社会科学、とりわけ、ビジネスの世界において、どれだけ意味があるのか? 

確かに、「失敗しないための知識」は、多少は有効かもしれません。「あの道を歩くと転ぶぞ!」というのは、これから歩く人にとっては参考になる。また、地理的な分離が明確である20世紀型ビジネスの場合、アメリカで成功、ヨーロッパで成功、アジアで成功・・・ という段階論もありえるかもしれません。発展経済学でいうところの 雁行形態論 などは、先行する国での 「成功法則」 を裏づけとして成り立っています。

一方で、インターネットがビジネスの中核を担い、フラット化した世界を対象とする21世紀型ビジネスモデルの場合、成功 は、ほぼ一度きりです。つまり、過去事例を紐解いて、そこに後付けの公式・定理 を与えることは、それほど意味がないということになります。

 

もうおわかりだと思いますが、インド人Bさんのアプローチは、ラマヌジャンのそれと酷似しています。事実 を 論理的 に積み重ねて、1つの確からしい 予想 を得る。予想 を常にブラッシュアップして更新し、結果を出す。過去事例の 成功法則化(=証明) は、重視しない・・・。

 

私は、インド人のすごさ、強さは、この部分にこそあると思っています。アプローチとしては、欧米ビジネススクールの伝統的MBAにとって、対極 にあるといってもよく、そのため、評価されるまでに時間がかかった。そして今やっと、評価され始めた・・・ というのが、インド人CEO頻出の背景にあるように思えてなりません。

 

さて、次回は最終回として、別の論点も含めて御紹介します・・・ と思ったら、あら、まぁ・・・ 日経ビジネスの最新号(9/28号)の特集が 『インド人CEO世界を制す』 だとか。私の論と、両者読み比べていただくのも、一興かもしれません。では、また来週!

(次回続く)

 

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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