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タカシの外資系物語

日本柔道と外資系 ( 「なんじゃコリャ」に勝てるか ? 2 )2008.03.18

ルール改正は日本に有利 ?

いよいよ、北京オリンピックまで残り半年を切りました。先日も男女のマラソン代表が選出されるなど、日増しにムードが高まってきています。いやー、ホントに楽しみですよねぇ~。

 

先日のこと、スポーツ欄に次のような記事が掲載されました。

 

「柔道 タックル禁止 『効果』廃止 ! 組み合う日本型柔道に追い風 ! 」

 

読者のみなさんは、柔道に馴染みのない方が大半だと思いますので、ここは黒帯 ( 初段 )の私 ( 実は武道家 ! ) が解説しましょう。まず、「タックル禁止」というのは、まともに組み合わないままタックルなどで相手の柔道着 ( ズボン ) をつかんで攻撃する行為を禁止するというもの。最近の国際試合を見ていると特に顕著なのですが、日本人選手が負けるパターンというのは、たいていが「なんじゃコリャ ? 」というようなタックル系の技なのです。このまま、外国勢のタックル攻撃がはびこってしまうと、柔道なのかレスリングなのかわからん … ということで、国際柔道連盟がタックルを禁止することになりました ( 本件については、当コラム 『「なんじゃコリャ」に勝てるか ?』 に詳しく書いてありますので、参考にしてください)。

 

次に、「『効果』の廃止」です。柔道の国際判定基準には、「一本、技あり、有効、効果」の 4 つがあるのですが、その中で一番最下位 ( つまり、最もしょうもない技 ) の「効果」をなくそうというものです。そもそも、日本の柔道が採用している「講道館 (※) ルール」では、「一本、技あり、有効」の 3 つしかなかったのですが、これでは両者とも技が出ないままに「判定」に持ち込まれるケースが多いため、国際基準では「効果」を入れたのです。しかし、ここにきて、「効果」そのものの基準が審判によって曖昧だという批判が多くなったため、このような動きになったわけです。「タックル禁止」は北京オリンピックから、「『効果』廃止」はオリンピック後になるとのこと。いずれの措置も、柔道本来の形に戻る動きということで、日本柔道には追い風になると言われています。(※注:柔道は、明治 15 年に嘉納治五郎が講道館において創始した武道を起源としています。いやー、今回のコラムは教養がつきますな、ハハハ )

柔道における 「一本」 の定義

さて、今回の措置、一見すると日本勢に有利になるような気がしますよね。果たして、本当にそうなのでしょうか ?

 

確かに、タックルが禁止されることは、日本柔道にとって朗報です。前述の通り、外国勢の「なんじゃコリャ ! 」系タックルに苦しめられてきたのは事実なので。しかし、日本柔道が国際試合で苦労しているのは、単に「タックルがあるから」ではなく、もっと本質的な違いによるものなのです。それについて、以下で説明しましょう。

 

さて、みなさんに質問です。柔道の「一本」とは、どういう定義だと思いますか ? 「『一本』、っていうぐらいなんだから、思いっきり畳に投げつけられた状態じゃないの ? ドバーン ! ってさ … 」 いや、まぁそうなんですけどね … ドバーン ! って言ってもねぇ … 実は、柔道の「一本」とは、次のように定義されます。

 

・投げ技の場合 = 「背を大きく畳につくように、相当な強さと速さをもって投げたとき」
・固め技の場合 = 「相手の背、両肩または片方の肩を畳につくように制し、相手の脚によって自分の身体、脚が挟まれていない状態のまま、30秒が経過したとき」
( 講道館ルール、出典Wikipedia )

 

… なんじゃコリャ。固め技の方は、まだ何となくわかります。でも、投げ技の定義って、これ、いかがなもんでしょう。「相当な強さと速さ」の「相当」って、何やねん ! 秒速何秒 ? マッハいくつ ? どれくらいやねーーーーーーーーーーーーん ! って、言いたくなりません ?

 

実は、柔道における技の基準というのは、そもそも極めて「曖昧」なものなのです。実際に投げられてみるとわかる ( ほとんどの方は、そんな経験ない … ) のですが、一本負けで投げられたときには、「やられたーっ ! こりゃ、一本とられたーっ ! (T-T)」みたいな、何ともいえない感覚があります。投げた方にも同じような感覚があって、そのような感覚があったときが、「一本」なのです。そもそも柔道というのは格闘技なのですから、相手にそういう感覚 ( =「負けました ! 」という感覚 ) を抱かせたら「勝ち」なのです。ですから、お互いがそういう感覚を持った時点で、勝負は決しているわけで、畳に背がつこうが、単なる尻もちで終わろうが、実はあまり関係ないのですね。

 

日本で柔道を習うと、そういう感覚を植えつけられます。審判も長く柔道をやっていれば、見ていてその感覚がわかる。なので、日本の柔道では、しっかりした定義がなくとも、「一本」は「一本」として処理され、負けた側もほとんど文句を言わないようになっています ( 審判のジャッジに文句を言うこと自体、柔道における礼儀の精神に反しているという側面もあります )。

 

一方、多くの外国人には、上記のような感覚は理解できないように思います。おそらく、「やられたーっ ! こりゃ、一本とられたーっ ! … と思っても、畳に背がつかなきゃいいんだろ ? 」 と考えている人もいるのではないでしょうか。これはあくまでも私見ですが、今回のルール改正は、「日本の立場を立てるために、とりあえず、タックルだけは禁止にしてやろう。でも、タックル以外の技なら、畳に背がつきさえすれば、有無を言わさず『一本』にするぞ ! 」ということなのではないでしょうか ? つまり、曖昧さの排除が進むことにより、日本柔道にとっては、より一層言い訳ができないようなジャッジがされる可能性が高まったように思うのです。

礼儀を重んじる柔道が国際的スポーツになった理由

私の意見、ちょっと穿って物事を見すぎなのかもしれません。しかし、同様のことは、ビジネス社会にも当てはまります。外資系企業における考え方の基本となっている、「成果主義」「市場主義」というのは、まさにその典型でしょう。手段はどうであれ、数字を稼いだものが「勝ち」、見えない部分でいくら会社に貢献しても、数字が稼げなければ「負け」となります。「数字」として定義できるもののみが重要で、それ以外はどうでもいいという考えです。

 

かく言う私も、かれこれ 10 年以上も外資系に所属しているわけで、外資の言い分もわかります。「数字」が重要なことも、痛いほどわかる。しかし、それだけではないように思います。

 

柔道の試合を見ていると、柔道着や帯がはだけると、審判は試合を止めて、選手の身だしなみを整えさせます。これほどまでに礼儀を重んじるスポーツは他にないでしょう。確かに、礼儀だけしっかりしても、負けていたのでは話になりませんが、礼儀が軽視され、単に「いかにして相手の背中を畳に強打させるか ? 」を競うだけなら、柔道という形態をとる必要はありません。柔道が勝ち負けと礼儀を併せ持っているのと同様に、企業は「お金を稼ぐマシーン」以外にも存在理由はあるわけで、その部分は妥協してはいけないと思います。

 

外国人の同僚であるジョンは、「柔道はルールが曖昧で、よくわからん ! 」と言います。上記の通り、確かに曖昧であることは認めます。しかし一方で、勝負以外の礼儀作法をこれほどまでに重んじる競技が、なぜヨーロッパをはじめ世界中で受け入れられているか ? それは、やってみて初めてわかる「魅力」があるからに他なりません。曖昧な日本の企業文化だって同じことでしょう。中に入ってみて初めてわかることもあるはずです。「お金」以外を重視しながらも、結果として「お金」という結果も出す … という、日本的な企業経営も成り立つはずです。

 

さて、いずれにしても柔道ファンとしては、オリンピックでは日本柔道のメダルラッシュを期待したいですね。グローバル社会における、日本企業のメダルラッシュは、もう少し時間がかかりそうですから、せめて柔道ぐらいは … と思う、今日この頃です。

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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