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タカシの外資系物語

外資におけるダイバーシティ (その 1 )2006.10.10

ダイバーシティって、何 ?

みなさんは、「ダイバーシティ ( diversity ) 」という言葉を知っていますか ? ダイバーシティとは、「多様性」と訳され、「国籍・人種・宗教・性別など、異なる属性を持つ人の思想や価値を理解し、認め合う」という意味です。

 


一般に、外資系企業ではダイバーシティを非常に重視します。そもそも外資系企業には、様々なバックグラウンドを持った人々が働いているので、ダイバーシティに対して真っ向から取り組むという「文化」が根付いています。一方で、日系企業の場合は、日本人という単一民族だけで企業が構成されていることが多く、ダイバーシティという考え方そのものに馴染みがないために、変に構えて考えてしまうというか、ぎこちない対応をとっているケースも多いように思います。


私の場合も、こんな経験をしたことがあります。それは、日系の銀行に勤めていたときのこと。シンガポールに出張していた私は、シンガポール支店長 ( 日本人:役員 ) と、あるお客様を訪問しました。お客様のオフィスまでは、マレーシア人の運転手が、車で送ってくれました。しばらくして、お客様との会合を終え、車がとめてあるガレージのところまで行くと、待っているはずの運転手の姿がどこにも見当たりません !


私 「あ、あれ ? 運転手の人、どこ行ったんだろ … 支店長、す、すみません。すぐに探してきますから … ( トホホ … んったく、どこで油売ってるんだよ … )」


支店長 「タカシさん、今何時だい ? 」


私 「 12 時ちょっと回ったところですけど … 」


支店長 「じゃ、しょうがない。お昼でも食べに行くかね ? 」


私 「へ ? 」


支店長によると、その運転手はイスラム教の信者で、正午になると「お祈り」をすることになっているとのこと。当時の私は、「役員である支店長を待たせてまで、お祈りするなんて … 」と思ったものです。しかし、支店長は私に、このように言いました。


「タカシさん、あなたは宗教を持っていないから、そんなことが言えるんだ。イスラム信者の彼らにとって、お祈りは命より大事なものなんだよ。国際社会でビジネスをするためには、宗教をはじめ、自分を取り巻く全ての人の多様性を認めないと、仕事をすることなんてできないよ」

ダイバーシティを重視する理由

外資系企業がダイバーシティを重視する理由は、「企業として、様々な人の多様性を認めている」ことを、社会にアピールするためだけではありません。その最大の理由は、優れた人材を確保することにあるといえます。


つまり、異なる価値観を持った人たちの考え方を尊重することで、ビジネス上でのシナジー効果が期待でき、多様な市場においてビジネスを優位に展開することを目的としています。例えば、日本の市場のみに対してビジネスを展開するなら、日本人だけの企業でも、大きな問題はないかもしれません。


しかし、外資系企業が相手にするのは、多くの場合、世界中の多様な国々のマーケットです。多様なマーケットで支持されるためには、多様な人材による「知恵」が必要だということです。ですから、 P&G や IBM といったグローバル企業、特に消費財を扱うような外資系企業は、ダイバーシティを非常に重視しているケースが多いというわけです。


また実際に、ダイバーシティを重視している企業は、そうでない企業よりも優れた人材を集めることができるのも事実です。私がいた前職のコンサルティング会社は、一時、インド人が CEO になったことがあります。彼が CEO だった時代には、 IT に強いインド人エンジニアを多数作用することに成功し、 IT コンサルティング部門が飛躍的に発展しました。また、中国人が役員を務めていた時代には、アメリカに留学していた中国人学生を多数採用することにも成功しました。


私の場合も、黒人のアメリカ人女性が上司だったことがあります。彼女は、お母さんがイタリア人、お父さんがアフリカ人という家系でして、彼女いわく「アメリカ社会では、私のようなパターン ( 片親が黒人で、もう一方がアメリカ人ではない白人 ) が一番いじめられる … 」と、自ら言っていました。しかし、彼女は貧困と差別に耐え、名門スタンフォード大学から、これまた名門のペンシルバニア大学ウォートン校に進み、 MBA を取得。その後就職したコンサルティング会社においても、トントン拍子で出世し、 30 代後半にはパートナー ( 役員 ) になるなど、まさにシンデレラ・ストーリーを実現したのです。(『"インセンティブ・デバイド " と外資系 ( その 2 )』 参照)

ダイバーシティが社会に根付くために

さて、私の上司だったその女性、確かに人の何十倍もの努力をしたことは間違いありません。しかし、努力だけでウォートンの MBA を取れるかというと、それはかなり難しいと思います。実際には、彼女は「マイノリティー枠」という、黒人やヒスパニック系の貧しい家庭の子供に適用される制度を使って、大学に入学したり、 MBA を取得したりしてきました。この制度を使うと、授業料が大幅に減免されるだけでなく、成績そのものも、通常の入学枠に比べると配慮してもらえるそうです ( もちろん、入学後に頑張って、通常枠で入学した学生に追いつけるようなポテンシャルのある学生しか選ばれないのでしょうが )。


一方、日本では、各種奨学金制度など、それなりの経済的な支援制度は存在するものの、潜在能力を優先して、成績を配慮してくれるような制度はありません。つまり、大学入学時点において、何らかの理由で思うように勉強ができなかった学生を救済するような制度はない、ということです。


では、どうしてアメリカは「マイノリティー枠」を設けているのでしょうか。もちろん、黒人やヒスパニック層に対する福祉政策の一環であることは確かです。しかし単なる福祉政策なら、私の上司のようにビジネス社会に出てから大活躍する人材は少ないはずです。実際に、マイノリティー枠から高等教育を受けた人材の多くが、多方面で活躍している事実を見れば、これが見せかけの政策レベルの話ではないことがわかります。


では、アメリカの ”真” の狙いは何か ? それは、「ダイバーシティによる優れた人材の獲得」にあります。アメリカは、マイノリティー枠という制度を使って、他の国では報われないような優れた人材を救済し、社会全体としての、人材の質の維持・底上げを図っているというわけです。


私はこのような部分に、アメリカの強さ、懐の深さを感じずにはいられません。ダイバーシティという考え方が、社会の仕組みと一体化することでよりよい影響を与え、それによってまた、ダイバーシティという考え方が認知されていく … このようなサイクルが構築できるまでは、本当の意味で、ダイバーシティが社会に根付いた考えとはなりえないような気がします。


次回のコラムでは、ダイバーシティの新潮流についてお話します。一般的な日本人の常識としては、少し驚くような話になるかもしれませんが … 是非楽しみにしておいてください!

 

( 次回続く )

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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