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タカシの外資系物語

Are you "THE LAST SAMURAI" ?2003.12.26

先日、トム・クルーズ主演の「ラスト・サムライ」という映画を見てきました。実は「ファインディング・ニモ」というアニメを見るために映画館に出かけたのですが、あいにく満員だったため、仕方なくトム・クルーズの方に変えたのです。


正直言うと、あまり気が進まなかったんですよ、トム・クルーズの方。何となくタイトルからして、また例のごとく「日本の文化」が誤解されて、西洋人のトム・クルーズが喝采を浴びるようなストーリーになっていることが容易に想像できるじゃありませんか。「サムライ」「ハラキリ」「ゲイシャ」「スキヤキ」・・・・・・ どうせ日本がバカにされとるに決まっているのです。うーーーむぅ ・・・・・・ とはいえ、このまま何も見ないで帰ったのでは、余計に虚しさが残ります。


「よーーーーーーーーし、見てやろうじゃねぇか。かかってこんかい、トム・クルーズ君よ !」


「いやーーー、よかった。今年見た映画の中で、一番よかったんじゃないの ?」


3 時間近くの大作。見終わって出てきた私は、ただただ映画の出来栄えのよさに感動していました。舞台は明治初期の日本。トム・クルーズ扮するのは、アメリカ南北戦争の英雄であるオルグレン大尉。オルグレンは、近代化を急ぐ日本政府軍の指導者として、日本政府に招かれます。政府軍は、武士の残党である侍一派を近代兵器で圧倒しようと企てます。オルグレンの仕事は政府軍の手助けをすることなのですが、逆に侍たちの誇り高い生き方に感銘を受け、最終的には反政府軍の一員として侍と一緒に戦うことになるのです。


まず何がよかったかというと、ハリウッド映画(ですので、スタッフの大半はアメリカ人 !)にもかかわらず、日本文化を忠実に描いていたところ。極端なデフォルメや誤解もなく、規律と忠誠を重んじた武士の世界を見事に再現していました。また、トム君を支えた役者陣もいい ! 渡辺謙も真田広之もサイコー、言うことなし ! ・・・・・・ なんか、映画評論のコラムみたいになってしまいましたね、スミマセン。で、なぜ私が今回のコラムでこの映画を取り上げたのかと申しますと、この映画の中に外資系企業のあり方を見たからなのです。それは、どのようなものなのでしょうか ?


映画の中には、2 つの日本人組織が出てきます。 1 つは政府軍です。政府軍は欧米の近代兵器や戦術を次々に導入していきます。その背後には資本、つまり「オカネ」が動いており、その強大な資本力と経済合理性で全ての物事が進んでいきます。ところが、政府軍は欧米の力を利用しているようでいて、実は欧米に操られているにすぎません。そのことは、歴史が教えてくれます。明治時代はおろか、2 度の大戦を経て 21 世紀に入った現在ですら、基本的にこの構図は変わっていません。


ここ 10 年ほどの間に起こった、外資系の日本マーケットへの上陸も、基本的には幕末に「黒船」がやってきたのと同じです。バブル崩壊で経済的に疲弊した日本企業に変わって、欧米の列強が資本力にモノを言わせて攻めてきたのです。最初は知恵をつけてもらうだけだった提携関係も、いざフタを開けてみれば、日系と外資系の力の差は、資本力・戦略ともに大人と子供ぐらい離れていました。そして結局のところ、外資にマーケットを譲るような形になったケースが多いのではないかと思います。


このケースでの最大の教訓は、何でしょうか ? 私は、「だれかのマネをしても、その人には勝てない ( 一番にはなれない ) 」ということだと思います。明治から昭和初期にかけての日本もそうですが、欧米列強のマネばかりしてきた日本が、欧米列強に勝てるわけはないのです。ビジネスにおいても同じことでしょう。


映画に出てくるもう 1 つの組織は、武士の残党である侍一派です。トム君扮するオルグレンは、侍一派に捕虜として捕らえられます。初めは反抗していたオルグレンは、次第に武士の世界に共感し、溶け込んでいきます。映画でも、この部分におけるオルグレンの気持ちの移り変わりを非常にうまく描いているのですが、最も重要なことは、オルグレンが日本人化したわけではなく、アメリカ人のまま日本人の心を理解したという点にあると思います。わかりやすく言うと、外資系企業のままで、日本のマーケットのことを理解したということです。


では、オルグレンはいかにして、日本人の心を理解したのでしょうか。それは、「Conversations ( 対話 ) 」です。渡辺謙扮する、侍一派の首領が言います。


「We cannot understand each other without conversations. ( 対話こそが、お互いを理解する手段なんだ )」


このセリフこそ、この映画のキーワードであり、日本で成功する外資系企業のキーワードでもあるのです。


マクドナルドしかり、IBM しかり、日本で認知された外資系企業というのは、一夜にして築かれたわけではありません。これらの企業の経営者は、非常に長い年月をかけて、米国本社と、そして何よりも日本の消費者と「対話」を続けてきました。「対話」を通じてマーケットを理解し、日本に根付いてきたのです。このような企業の特徴は、今となっては外資系企業と思えないほど「日系企業化」したということでしょう。しかし、それは外見だけの話であって、内側には外資系企業ならではのスキルやノウハウが蓄積されており、それゆえに強いのです。これが「見た目 = 日系、中身 = 外資」型企業の強さの秘密です。


一方で、「黒船」形式でやってきて圧倒的なパワーを誇った外資系は、日本市場を支配し続けているでしょうか。実はそうではありません。非常に苦戦を強いられているのです。例えば、生命保険業界を見てみましょう。金融ビッグバンにより規制が緩和されたことから、ここ数年の間に、多くの外資系保険がやってきました。彼らの資本力は圧倒的で、その多くは、破綻した日系生保を乗っ取る形で上陸したのです。つまり「黒船」です。確かに最初のうちは、日系生保はやられっぱなしでした。だれもが、外資系生保の商品開発力やマーケティング力には到底かなわないように思えたのです。しかし数年が経過した今、「黒船」のようにやってきた外資系生保の多くは、規模を縮小するか撤退を余儀なくされています。


その理由は、彼らが日本のマーケットと「対話」をしなかったからだと、私は思っています。確かに彼らのマーケティング力は優れていますが、それは単なる方法論に過ぎません。消費者の「本当の」ニーズを理解するためには、消費者の中に入り込み、「対話」をしなければ得られないのです。オルグレンと同じように、ということです。このように、「見た目も中身も外資」型の企業は、登場時のインパクトは大きかったものの、それほど長続きはしないような気がします。


話を整理してみましょう。


・日本マーケットと「対話」し、消費者のニーズを理解した外資系は成功している ( オルグレン = トム・クルーズ )


・外資のマネをした日系は停滞したまま ( 政府軍 )


・「黒船」のごとく現れた、強大な外資系も、苦戦を強いられている ( 欧米列強 )


では、われわれ日本人、日系企業は、どのように対応すればいいのでしょうか。それは、「対話」をすることに尽きます。外資と「対話」をしながら、そのスキル・ノウハウを吸収しつつ、日系企業としての良さを忘れないということです。そのためには、パートナーを選ばねばなりません。オルグレンのように本当に日本人の気持ちになって「対話」してくれる外資系企業は、まだまだ少ないような気がしてなりません。


その証拠に、欧米メディアのこの映画に対する評価は散々だったようです。「武士の世界は理解できないし、その世界をアメリカ人が理解したということについても理解できない」と、ある有名紙が書いていました。こう言われてしまっては、「対話」などできませんね、まったく。


さて、映画の中では、私が日系企業の見本となると考えている人物 = 侍一派の首領 ( 渡辺謙 ) は、政府軍との戦いの中で滅んでいきます。桜が散る中、彼は死に際に、こうつぶやきます。「完璧だ ・・・・・・ 」 映画の中では感動するシーンなのですが、現実にはこのようなことがあってはいけないと思います。滅んでしまっては完璧もへったくれもありません。規律と忠誠を重視する日本文化は、ビジネスの世界においてもかけがえのないものです。外資系企業で働いていても、日本人が失ってはいけない大切なもの = 「サムライ・スピリット」 だけは、いつまでも持ち続けていたいと思っています。


みなさん、本年もお世話になり、ありがとうございました。来年も、ますますパワーアップした『タカシの外資系物語』を楽しみにしていてくださいね。それでは、よいお年を !


Merry Christmas & Happy New Year!!! by Takashi (^ - ^)

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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