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タカシの外資系物語

It's a Drill!2002.12.20

"It is FIRE in the cabinet of the port side ! It's a drill!" ( 左舷側のキャビネットで火災発生 ! ちなみにこれは訓練である )


これはハリソン・フォード主演の、旧ソビエト原子力潜水艦の悲劇を描いた「K-19」という映画でのセリフ。ハリソン・フォード扮する艦長は、毎日のように乗組員達に過酷な訓練を強制します。艦長の目的は次のとおり。


「単なる訓練というだけではなく、これを通して、乗組員の能力の限界を知ることができるのだ……」


これを外資系企業に当てはめてみましょう。外資系企業においては、「訓練」と名のつくことはほとんどやりません。仕事はもちろんのこと、9 月 1 日 ( 防災の日 ) の避難訓練すら、やったことがありません。「訓練やってる暇があったら働け !」という考えが根底にあるのと、ある意味ではみんな大人なのだから、いちいち訓練しなくても何とかなるでしょ、という暗黙の了解があるからなのだと思います。


訓練をやらない一方で、いざというときのための「マニュアル」類に関しては、おせっかいなぐらい完備されています。わが社の LAN にある「マニュアル・フォルダ」には、「台風が接近していて帰れなくなりそうな午後の過ごし方」( 午後 3 時時点で○○警報が出ていたら、上司の許可を得て帰宅してもよい、てな感じ ) まで記載しています。さすがにこれにはすごいなと思う反面、本当にいざというときに、一体だれがわざわざこの手のマニュアルを見るのだろうと思ったりもしますが。


また、9.11 以来、米国本社が気にしているのが「週末の居場所」です。金曜午後になると、「週末あなたはどこにいますか ? 住所と電話番号を書いて返信してください」というメールが、本社から届きます。日単位なら返信する気にもなりますが、時間単位で答えねばならないため、私は今まで一度も返信したことがありません。


一方で、仕事に関しても同じような考え方があります。それは、「常にいざというときのことを考え、対応策を文書化しておく」ということです。


例えば、私があるプロジェクトのプロジェクト・マネージャーだったとしましょう。この場合、裏では次のような事項がマニュアル ( 文書 ) 化されているのです。


・ 私が病気、事故等で業務が遂行できなくなったときの代理はだれか ( 代理が私の代わりをするまでに何日かかるか )

 

・ その代理人が病気、事故等で業務が遂行できなくなったときの代理の代理はだれか ( 代理の代理が、代理の代わりをするのに何日かかるか )


・ 私が何らかの理由でプロジェクト・マネージャーとしての指示・意思決定ができなくなったときの連絡経路と、私を解雇する意思決定 ( 要するに、私が急に頭がおかしくなったらどうするか、ということを言っているのです )


実はこのようなことを、私自らが会社に申告しなければならないのですから、慣れるまでは何ともおかしな気分がしたものです。


しかし冷静に考えてみると、こういう考え方こそ日系企業に欠けている点なのだと思います。つまり日系企業では、実際にはほとんど役に立たない訓練にばかり熱心に取り組んで、可能性の高いリスクを放置したままでいるのです。例えば、ここ数年起こっている日系企業の不祥事は、冷静に考えれば対処法などひとつしかないような、常識的なことばかりでした。しかしその「当たり前の対処法」が社内で認識されていなかったばかりに、マスコミの対応をしくじったり、結果的に消費者にウソをつくような結果を招いてしまったのです。


一般に、危機管理に対する取組み方針のことを「コンティンジェンシー・プラン」といいます。このプランの立て方については、外資系企業の方がはるかに勝っており、日系企業が学ぶべき点が非常に多いと感じています。


さて、最近私のプロジェクトもマンネリ化しているようです。ここは「K-19」のハリソン・フォードを見習って、「訓練」をしてみましょうかね。


私 「みんな、ちょっと聞いてくれるかな」


…… しーーーーん ……


私 「…… エヘン、ちょっと聞いてくれるかね ! 」


スタッフ 「なんすかぁ …… ( うるせぇなぁ …… )」


私 「プロジェクトの締め切りが 1 か月前倒しになったと想定して、プランを立て直してみないかな、訓練っちゅうことで」


スタッフ 「ちょっと忙しいんすよね …… 来週の暇な時でもいいっすかね ……」


…… ま、所詮こんなもんです。訓練で想定するような状況なんて、起こらないにこしたことはないのですから、これでいいんですよ、ね …… トホホ なんか情けない …… (T-T)


みなさん、今年も「タカシの外資系物語」をご愛読いただきまして、ありがとうございました。来年も面白くてためになるコラムをお届けしますので、よろしくお願いいたします。


Merry Christmas & Happy New Year … are NOT drills!

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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