グローバル転職NAVI

キービジュアル キービジュアル

有元美津世のGet Global!

富裕層観光客の誘致合戦2022.09.27


  やっと日本でも、10月11日から個人旅行のインバウンドが解禁されることになりました。ビザ免除措置の再開は、大きいですね。

 あちこちのネットコミュニティでも、ここ2年間、日本旅行を待ちわびている外国人旅行者たちから歓声が上がっていました。2020年に訪日予定だったのを予約の変更を続けて、今に至っている人もいます。

  今月、3000人以上を対象にしたオンラインのアンケート調査では、回答者の7割が「日本が開国したらすぐに訪問したい」と答えています。また、「日本が開国しないから他国に行き先を変えた」という人が4割近くいるものの、4割は「今も日本が開国するのを待っている」と答えました。

  旅行関連のネットコミュニティでも「10月(または11月)に日本に行く」という投稿も結構あるので、来月以降、確実に海外からの観光客は増えるでしょう。(中国が開国していないので、コロナ前ほどの混雑にはならないでしょうが。)

  一方、日本に住む外国人からは、「(観光客で溢れかえる)それまでに、毎週末、京都に行こう!」という声が上がっていました。「あ~あ、また観光客と間違えられて、”大丈夫です”って言っただけで、”日本語お上手ですね”って言われるようになるんだろうな」というため息も聞かれます。

量より質重視


  以前、書いたように、各国、コロナで大きな打撃を受けた観光業の回復に努めています。同時に、コロナ前のようなオーバーツーリズムを避け、持続可能な(sustainable)ツーリズムに力を入れる国が増えており、「量より質」を求めるようになってきています。

  つい先月も、ニュージーランドの観光大臣が「キャンパーで寝泊まりしてインスタントラーメンを食べて一日の予算が10ドルのような旅行者たちでなく、高質の観光客を誘致したい」と発言しました。「富裕層の方が環境に与える負荷は大きい」など一部から批判を受けて、「バックパッカーに来てくれるなというわけではなく、敢えてターゲットにはしていないということ」と釈明しましたが、コロナ前から大臣は「恥も外聞もなく、超富裕層を狙っていく」と豪語しています。

  昨年、インドネシアでも、「バリが観光客受け入れを再開した際には、(ルールを守らない)バックパッカーの入国は禁止して、もっと富裕層をターゲットにしよう」と提案した大臣もいました。 

  コロナ前には、東南アジアで、路上で物を売ったり、演奏などをしたりして旅費を稼ぐ欧米のバックパッカーが“begpacker”と呼ばれ、非難を受けていました。(”beg”=「乞う、物乞いする」)

  今月に入ってからは、ベトナムの観光総局が中東の富裕層を呼び寄せるためのマーケティング戦略を提案しました。ベトナムも、コロナ前は中国人観光客で溢れていましたが、中国人観光客が戻って来るのはいつになるかわかりません。(元々、ベトナムに行く中国人観光客は、格安ツアー利用者が多い。)

  国連世界観光機関(UNWTO)によると、中東の観光客は、世界平均より6.5倍消費し、個人観光客の4割が1万ドル以上消費するということです。

  年収10万以上のデジタルノマドをターゲットにしたカリブの国については、昨年、書きましたが、最近、デジタルノマドビザを開始したタイも、「安い滞在先」というイメージを変えるために尽力しており、年収8万ドル以上という条件を設けています。(デジタルノマドビザの最新情報については、また後日。)

  ちなみに、日本も、2015年から、ビザ免除対象国に限り、観光・保養を目的としたロングステイ向けの特定活動ビザを設けています。預貯金が3000万円あることが条件で、最長1年まで日本に滞在できます。このビザも、コロナ禍で発給が停止されていましたが、来月から再開されるのでしょう。

地方創生


  日本でも、コロナ前から、富裕層の誘致が課題になっていました。まず、日本政府観光局(JNTO)では、ターゲットとする富裕層を「海外旅行先で一人100万円を消費する人」と定義しています。

  訪日外国人旅行者は、2019年に3188万人、その旅行消費額は4.8兆円に達しましたが、そのうち一人当たりの来日後の消費額が100万円以上だったのは、全体の1%に過ぎませんでした。ただし、その消費額は全体の11.5%を占めていました。(なお、消費額の75%を占めていたのは中国人観光客。)

  しかし、富裕層の訪問先は、東京や京都、大阪などの大都市に集中しており、地方での消費が少ないことが課題となっています。観光庁では、今春、「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりに向けたアクションプラン」をまとめ、こうした層に対応できる宿泊施設や観光コンテンツを整備し、今年度中に全国10カ所ほどでモデル観光地を選んで施策を実施する予定です。

  しかし、「役人に任せていては心もとない」という政治家もおり、昨年、自民党議員が「ラグジュアリー観光議員連盟」を立ち上げています。一方、民間企業が中心の地域創生インバウンド協議会では、富裕層向け旅行コンシェルジェサービスの実証実験を行っています。

  コロナ下にもかかわらず、日本各地で(一泊10万円以上の)高級ホテルが次々オープンしましたが、日本は、1軒あたりの海外旅行者では、5つ星ホテルの数がタイやベトナムよりも少なく、旅行者数に対して不足していることが理由のようです。

  「インバウンドとは、海外の人に日本のサービスを買ってもらう輸出産業」という人もいますが、円安を追い風として、観光業が経済再開に一役買うことが期待されています。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

外資・グローバル企業の求人1万件以上。今すぐ検索!

この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

合わせて読みたい

---