グローバル転職NAVI

キービジュアル キービジュアル

有元美津世のGet Global!

スリランカ(2) - 市民の生活2022.05.10


 IMFと協議を続けているスリランカですが、市民の生活は一向に改善する気配がなく、大統領に退陣を迫る市民の抗議デモが頻度を増しています。先週金曜、大統領が非常事態宣言を発令し、これによって、大統領は、法的手続きなしに市民の身柄拘束、私物没収、家宅捜査、法律の改正や停止をすることが可能となりました。

 昨日は、政権支持派が反対派を襲い、死傷者が出てしまい、反対派は政治家が所有するホテルに放火するなど過激化したため、外出禁止令が出されました。

 

 政治については、次回、解説するとして、3ヵ月ほど停電が続き、生活物資が不足する中で、「スリランカの人は、どうやって暮らしているの?」と思う人もいるでしょう。そこで、スリランカに一カ月滞在している間に、目撃、体験した経済危機の一端を紹介したいと思います。

 私は、2月頭にコロンボでレンタカーを借りて、1ヵ月かけて12の都市を訪れたのですが、コロンボを出る前も、すでに営業していないガソリンスタンドは結構ありました。しかし、開いているところはいくらでもあったので、気にはしていませんでした。(ちなみにレンタカーは日本から輸入した中古車。)

 2週間ほど経って、古都キャンディ(Kandy)に向かう途中で給油しようとしたところ、「一台3000ルピー分まで」と言われました。海外のクレジットカードが使えず、現金は2000ルピーしか持ち合わせがなかったので、現金を降ろしてから給油しようかと思ったら、「この先にあるガソリンスタンドは二軒閉まってるよ。今、ガソリンは配給制になっているから」とのことでした。

 その後、ガソリンの購入量制限はなくなったのですが、今月に入って、また制限が課せられたようです。(車は一台8000ルピー分まで。)

 ガソリン価格は、3ヵ月前の倍になっており、日本より少し安い程度ですが、スリランカの平均的な給与は月数万円です。(元々、車を買えるのは、お金のある層。ちなみに、車はすべて輸入車なので、経済危機勃発後、中古車の価格はマンションよりも高くなっている。)

計画停電(Scheduled Power Outages/Rolling Blackouts)


 2月中旬に、山の中のゲストハウスに泊まった際に、日中ときどき停電になりました。発電機(generator)が作動している音がするのに…  実は、そこは太陽光パネルを使っていたので、曇りの日が多いとシャワーも水しか出ないという... 計画停電とは無関係のようでした。インターネットは衛星なので、ほぼ使えないし... (有名なNine Arch Bridgeの眺めのいいところに泊まろうと思ったら、こういう小さなゲストハウスしかない。)

 その後、日々の計画停電がどんどん長くなっていたのですが、ホテルは、どこも(巨大)発電機を備えていますし、部屋が2~3室しかないゲストハウスでも、たいてい発電機を持っていたので、停電に遭うことはありませんでした。

 スリランカ中部の遺跡・世界遺産が集まる地域に入った後、発電機のないゲストハウスに泊まったときに、初めて停電を経験することになりました。その頃は、計画停電が一日4時間半に延びていましたが、昼間は、観光しているし、大した不都合ではありませんでした。

 停電の問題は、1)エアコンや扇風機が使えなくて暑いこと(気温30度、湿度80%)、2)モデムがダウンしてWiFiが使えないどころか、場所によってはモバイルデータまで使えなくなることでした(セルタワーにも電気が行かないから)。

 その後、2月末になると計画停電が一日10時間まで延びましたが、泊まったゲストハウスには発電機があり、光ファイバーを使っていて、滞在中泊まった中でネットが一番速くて満足でした。(ホテルの方が、ユーザーが多い分、遅くて使えないケースが多々。)

 4月には、停電は一日13時間まで延びたのですが、病院など基幹インフラのある地域では(市民の噂では政治家が住む地域も)停電はないようです。「この辺は停電まったくなし」というゲストハウスもありましたし、コロンボ市内でも停電のない地域があります。

 コロンボを経つ日に、市内で行ったトレンディなカフェには発電機がなく、天井ファンが止まった中、汗ダラダラでWiFiもモバイルデータも使えず、かつトイレには窓がなく、真っ暗な中で用を足すという状況でしたが、泊まっていた小さな安ホテルは、停電のない地域にあったので、快適でした。

 いずれにせよ、一日の半分を停電の中で耐えねばならない地元民の苦労に比べれば、何ということはないですし、新興国では、経済危機でなくても、信じられないことが、いろいろ起こるので...

ディーゼル不足


 発電機のない飲食店では、停電中はブレンダーが使えず、新鮮なジュースは飲めませんでしたが、調理はガスでするので問題ありませんでした。

 不足していたのはディーゼルで、2月末になると、各地のガソリンスタンドの周りでトラックやバスなどが1キロくらい並んでいるのを目にするようになりました。「二日待たないと給油できない」とのことでしたが、それを後目に、ガソリンは並ぶこともなく給油できました。ただし、一度、東部のガソリンスタンドで「ガソリンはあるんだけど、停電中はポンプが動かないので給油できない」と言われたのですが、翌朝に行けば、やはり並ぶこともなく給油できました。

 同時に、ガソリンスタンドでは、灯油を買うためにポリ缶を持って並ぶ市民の姿が目に付くようになりました。調理に使うプロパンガス(LPG)が(二倍に)高騰して買えなくなり、灯油を使う市民が増えたのです。中には、灯油も買えず、薪を使っている人たちもいます。

 3月に入ると、炎天下の中、燃料を買うために何時間も並んでいた高齢者が倒れて亡くなったり、待っている間にケンカになって殺人事件が起きるといったニュースが流れるようになりました。また、ケーキを焼いて生活費にしていた女子高生が、燃料が買えなくなったために生活費を稼げなくなり、自殺するといった悲痛な話も聞きました。

 プロパンガス不足で閉店するベーカリーが相次いでいるというニュースが流れましたが、3月頭時点では各地のベーカリーは開いていました。* しかし、今月に入って、配送トラックからプロパンガスを市民が略奪するという事件も起きています。

 なお、今も、現地を旅行している観光客はいくらでもおり、観光客を輸送する運転手たちは(観光客の多くが運転手付き車を雇う)優先的にガソリンを給油させてもらえるようです。(外出禁止令が出るまでは、ホテルに泊まれば、観光客は経済危機とは無縁で過ごせた。)

インフレと通貨暴落


 今、多くの国がインフレに悩まされているわけですが(トルコでは70%)、スリランカでは、昨年末からインフレが始まり、3月には前年同時期比19%、4月には30%に達しました。食品に限れば、3月だけで30%高騰し、ネットのコミュニティでも「パンや卵の価格が倍になった」という投稿が見られるようになりました。先進国からの観光客にとっては、30円のパンが60円になったところで、何の問題もないのですが、地元の人にとっては死活問題です。

 さらに為替レートは、ルピーを米ドルに連動させていたのを(固定相場)、3月頭に変動相場に変えたため、ルピーは一気に対ドルで12%下落しました。その後も下落を続け、2月初めに1ドル=200ルピーほどだったのが、今では360ルピーまで落ちています。(つまり、2ヵ月で8割下落。)

 ルピーから外貨への交換は制限されており、海外に脱出しようという市民は闇市で外貨を入手するしかなく、レートはもっと高いです。資金に余裕がある人は、すでにスリランカを脱出しており、今から脱出しようという人は、2ヵ月前より倍近くの資金を用意しないといけないのです。そのため、大半の人は脱出したくても、できないという状況です。


* スリランカの都市ではベーカリーが多いのだが(とくにKandy)、普通のパンよりも、中にツナなどが入った揚げ物などの”short eats”と呼ばれるスナックを主に売っている。店にもよるが、おいしい。

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

外資・グローバル企業の求人1万件以上。今すぐ検索!

この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

合わせて読みたい

---