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有元美津世のGet Global!

インドの新たなカースト:英語カースト2018.05.22


 以前、インドの若いエリート層には「子供には英語でしか話さない」という英語優先の人もいるという話を書きましたが、そうした社会現象を描いたボリウッド映画があります。

 昨年、封切られた「Hindi Medium」。Hindi Mediumとは「ヒンディー語を表現・伝達手段とした」という意味で、Hindi Medium Schoolといえば「ヒンディー語で授業を行う学校」のことを指します。この映画は、English Medium (英語で授業を行う)の私立の名門小学校に一人娘を入れようと悪戦苦闘する中流階級の夫婦の姿を通じ、インド社会を風刺したものです。*

英語力がベースの新たな社会階層


 観光客にとっては非常に面白いゴチャゴチャ、グチャグチャのOld DelhiにあるChandi Chowkに住む夫婦。娘を名門私立小学校に入れようとしたところ、Chandi Chowkに住んでいては応募条件さえ満たさないと知り、デリー郊外のハイソなVasant Viharに引っ越します。大学は出ていない夫婦ですが、夫は衣料品店経営で成功しており、お金はあります。そこでVasant Viharに立派な家を買い、ハイソな社会に溶け込もうとするのですが…

   夫婦がヒンディー語で話しかけても、Vasant Viharの住人は英語で返事をし、英語しか話そうとしません。**

 夫婦はVasant Viharの住民を招待してホームパーティーを開くのですが、英語が達者でなく、キャビアを食べたことのない夫は嘲笑されます。あざ笑われていることに気づかず、音楽にのって娘と楽しくボリウッドダンスを踊る夫の姿に耐えられない妻は、ブレーカーを落として音楽の電源を切ってしまいます。そして、夫にはボリウッドダンスは二度と踊らないようにと...

 Vasant Viharのエリートたちは、ヒンディー語を話すインド的な夫婦をとことん見下し、彼らの娘と自分たちの子供が遊ぶことも禁じます。「娘はいいのだが、親がふさわしくない」ということで、名門校も次々に不合格となります。

貧富の差が英語力の差に


 今年初め「インドで急成長する最新のカースト」という記事がインドで論議を醸したのですが、過去10年ほどで英語しか話さない家庭が増えており、英語力を基に新たなカースト層が生まれているという内容です。この層は、大都市の高学歴の富裕層で、宗教やカーストの違いを超えて結婚した夫婦も多く、英語が流暢で西洋的な価値観やライフスタイルを共有さえできれば、低カースト層出身者でも「新カースト層」に加われるというのです。

 ただし、映画「Hindi Medium」の後半で貧困層の生活が映し出されますが(貧困街では英語を話すと奇異の目で見られる)、貧困層が英語を習得するのは簡単なことではありません。彼らが通う設備の乏しい公立の学校では授業はヒンディー語で行われ(Hindi Medium)、私立学校には貧困層・低カースト層向け特別入学枠はあるものの、彼らが私立学校に入るためのハードルは高く、やはり貧富の差が教育格差、英語力の差につながっています。

  インドの大都市で低賃金のサービス業に就く人の多くが英語を話せないのは、こういった背景からなのです。

 

 

* English Medium Schoolというのはインドに限らず、 マレーシアで私の知人夫婦が行ったミッションスクールもEnglish Medium School。

 

** でもインド訛りなので、「私は英語が流暢なエリート」を気取る彼らも、いったん英語圏に行けば「インド訛り」のレッテルを貼られるのを知ってか知らずか... 

 

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この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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