タカシの外資系物語

# 311  ■ コーチングを受けよう ! ( その 1 )


――― タカシ専任のコーチ ―――
  


前回まで 3 週にわたり、私が受講した海外研修プログラムのお話をしました。そのコラムの中でも触れたのですが、この研修プログラムは「研修に参加したら終わり ! 」というものではなく、研修参加者のその後のパフォーマンス ( 研修に参加した社員が、狙い通りに収益を上げることができるか ) についても管理されています。


つまり研修に参加したが最後、これから一定期間にわたって、私の日々の成果は常に米国本社の管理下にあるわけで、ことあるごとに報告を求められることになります。実際には、研修を受けたからといって、急に敏腕セールスマンになるわけではありません。多少は営業の進め方が洗練されてうまくなる部分もあるでしょうが、そのことが即、収益に結びつくかどうかは甚だ疑問です。しかし、ここは外資系。「研修を受けたのだから、すぐに売り上げが上がるはず ! 」という、極めて短絡的なロジックで話は進むわけで、私にとっては地獄の日々が始まることを意味しています。


「こんな状態じゃ、毎日ビクビクして過ごすことになるよなぁ ・・・ あーぁ、だれか相談に乗ってくれないかなぁ ・・・ ( T-T ) 」 私をはじめ、参加者の大半は、このように考えているはずです。さて、こんなとき、外資系はどう考えるか ?  「じゃ、心配事がなくなるように、相談できる人を手当てしてあげるよ ! 」 となります。つまり、研修に参加した社員が成果を出す前に脱落しないように、あらゆる手段を講じるのが外資系の手口なのです。げに、恐ろしや …


というわけで、私をはじめ、この研修の参加者全員に、相談役として「コーチ」がアサインされることになりました。なんと、コーチングを専門とする会社から、私専用にプロのコーチがつくことになったのです !


――― 無礼なコーチを許すのか ? ―――
 


「もしもし、タカシさんですか ? コーチング・ジャパンのユリコです。よろしくお願いしますね ! 」


「は、はぁ ・・・ 」


コーチング・ジャパン ( 仮名 ) のユリコさん ( これも仮名 ) から、第 1 回コーチング・セッションの連絡が入ったのが、昨日の夜遅くのこと。早朝の方が気持ちいいからと、いきなり翌日の朝 7 時にセッションを始めることになりました。当日は、 8 時半から営業会議のある日です。私は 7 時に出社して、会社の会議室の電話から、コーチングのセッションを受けることにしました。


私 「あのぅ ・・・ セッションって、電話で事足りるもんなんすかね ? こういうのって、実際に会って話をするものだとばかり思ってたんですが ・・・ 」


ユリコさん 「われわれコーチング・ジャパンのコーチメソッドは、実際に Face to Face で会わなくてもできるようになっていますのでご安心を ! 電話の方が集中して話ができるので、かえって良かったりするんですよ ! 」 ( ホンマかいな ・・・ ま、いっか ・・・ )


ユリコさん 「じゃ、 1 回目のコーチング・セッションを始めましょうね ! 」


私 「は、はあ ・・・ よろしくお願いします ・・・ 」


ユリコさん 「なーーんだ、元気ないぞーー ! 」 ( な、なんじゃ、コイツ ・・・ )


ユリコさん 「じゃ、私から質問するね。今、どんな気分かな ? 」 ( おいおい、だんだんタメ口になっとるぞ ! タメ口に ! )

私は彼女の「攻撃 ( 口撃 ? )」に、ぶったまげてしまいました。40 前のおっさんつかまえて、いきなり「どんな気分かな ? 」はないでしょう ? コーチング・ジャパンのメソッドかなんか知りませんが、最低限の「礼儀」ちゅうもんがあるだろーーが !


ユリコさん 「どうしたーー ? 返事がないぞーー」


私 「 ・・・ あのぅ ・・・ ユリコさん ・・・ 」


ユリコさん 「ん ? 」


私 「私、コーチングって、よくわからないんですが ・・・ ずっとこんな感じで進めるんですかね ? 」


ユリコさん 「こんな感じ、って ? われわれコーチング・ジャパンのコーチメソッドは、グローバルで確立されたものなのよ。タカシが所属している○○コンサルティングの米国本社も、同じメソッドでコーチングを実施して、素晴らしい成果を上げてるんだけど ・・・ 何か、不都合でも ? 」


私 「はぁ ・・・ わかりました ・・・ ( って、こっちが下手に出ているのをいいことに、いつの間にか「タカシ」って呼び捨てにしとるやんけーーーうがーーーーっ ! ) 」


正直、何度電話を切ろうとしたことか ・・・ しかし、ここで電話を切ってトラブルを起こしてしまうと、「タカシは米国本社がアサインしたコーチを侮辱した ・・・ 」などと、あらぬことをチクられ、結局は私が本社に怒られることになるのは目に見えています。ここはガマン、ガマン ・・・ 耐えるのだ、タカシよ ・・・ ( T-T )


――― コーチング開始 ! ―――
 


ユリコ 「じゃ、気分もほぐれたことだろうから、早速セッションに入ろうね ! まず、紙と鉛筆を用意してくれるかな ? そしてその紙に、タカシの顔と同じぐらいの大きさの円を描いてみてくれる ? 」 


タカシ 「 ・・・ 」


ユリコ 「次に、その円を、パイを切り分けるときのように、 8 等分してくれるかな ? 8 等分だぞー、うまくできるかなーー」 


タカシ 「・・・」  


ユリコ 「どうしたーー ? 元気ないぞーー」


・・・一体何が悲しゅうて、朝の 7 時に出社して、「お絵かき」をせにゃならんのでしょうか ?


私 「できました ・・・ 」


ユリコ 「じゃ、 8 等分したそれぞれに、今タカシが心の中で不安に思ってることや不満に感じてることを書き込んでみよっか ? まず、何かな ? 」


あんたや、あんたーーー ! あんたの態度が最大の不満じゃーーー ! とでも言えばスッキリしたのでしょうが、うぅーむ、ここがガマンのしどころです。


私 「そうですね、まずはやっぱり、自分の部下のことが心配ですね。夜遅くまで無理してないかな、とか、今の仕事にやりがい感じてくれてるかな、とか ・・・ 」


ユリコ 「次は ? 」


私 「次は、チームや自分の業績のことですかね。年初に立てた目標が達成できるかな、って ・・・ 」


ユリコ 「次は ? 」


私 「自分自身のキャリアですかね」


ユリコ 「次は ? 」


・・・ このようにして、コーチのユリコさんに誘導されながら、私は自分の心の中に引っかかっている「 8 つの不安・不満」を、 8 等分したパイの中に記入していきました。


ユリコ 「さーて、ここからがコーチングの本番よ。しっかりついてきてね ! 」


この後、私はユリコさんとの会話を通して、コーチングの真髄を実感することになろうとは、この段階では知る由もなかったのです。


( 次回に続く )




  • 奈良タカシ
  • 1968年7月奈良県生まれ。
    大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。3年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る(外資系2社目)。