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タカシの外資系物語

# 294  ■ スポットライトを浴びるヤツ


――― Award を受賞すると … ―――
 


今日は四半期に一度の部門会議です。役員である金融部門長が、この四半期のビジネス実績を総括した後、 Staff Recognition Award ( 成績のよかったスタッフを表彰する制度 ) の発表がありました。 


「...staff of the quarter is...TAKASHI!」


お、なんと。 staff of the quarter に選ばれてしまったではありませんか。こりゃ、光栄なこって … え ? 感動が少ないんじゃないかって ? もっと喜んでもいいんじゃないかって ?


そりゃもちろん、それなりに嬉しいんですよ、これでも。賞金もいくらか出ますしね。でも、この Award って、結局持ちまわりみたいなところもあるし。それに、何よりも周りのみんなに「この人、賞金もらいましたよーっ ! 」 … みたいな感じになるのがイマイチなんですよね。私、どちらかというと目立ちたがり屋ではないので、できれば黙って賞金だけ欲しいんですが。ま、そうもいかないか …


「Congratulations! Takashi. Please come here...」


( げ ! 前に出て行って、挨拶しろってか ? しょうがないなぁ … ) 「OK! Thank you, Ted ( 部門長 ) & Friends...I’m very glad to win the award...」


実はこの Award、私以外にも 10 人ぐらいの人が受賞しています。私が所属する金融部門には 200 人ぐらいのスタッフがいますから、 20 回に 1 回は受賞することになります。それが四半期に 1 回あるわけですから、5 年に 1 回は持ち回りで回ってくる計算です。


Award の賞金 ×× 万円は、それはそれなりの金額だと思うのですが、 Award 自体が持ち回りで回ってくる以上、そんなに飛びぬけてうれしいものでもありません。はっきり言えば、 5 年間辞めなければ、確実にもらえるボーナスみたいなもんですから。


しかし、外資では、このような Award に対して、異常なまでに手間をかけます。部門会議でのセレモニーだって、「今回の Award は、タカシさんほか 10 名のみなさんです。おめでとう ! 」と言っておけば事足りるってもんです。それなのに、受賞者一人ひとりを壇上に上げて、一言コメントを求めます。


「Congratulations! Hideki. Please come here... 」


まだ 6 人目。1 人目に私が呼ばれてから、かれこれ 20 分近くたっています。トホホ … 早く終わらないかにゃ …


———— スポットライト効果とは ? ―――


さて、なぜ外資はこのような受賞セレモニーにこだわるのでしょうか ? それは、「スポットライト効果」を狙っているからなのです。


人はだれしも、自分の名前が大勢の前で読み上げられ、評価されることについて、一種の願望を持っています。そして、そうなりたいと思うことがモチベーションの向上につながったりもします。スポットライト効果というのは、名前を挙げて評価を与えることによって、社員のモチベーションアップを狙うという、重要な人事施策だったというわけです。


ま確かに、私もかなり面倒くさいふりをしていましたが、 Award を受けてみんなの前で表彰されるのはまんざらでもありません。受賞者の大半は、「また Award に選ばれるように頑張ろう ! 」と思うことでしょう。


また、惜しくも受賞を逃した人が「次回は絶対に Award をゲットしよう ! 」と思うことも重要です。持ち回り的な要素があるのは事実ですが、 1 年に数回受賞している人もいます。その気になれば、毎回 Award を受賞することだって可能なはずです。


もう 1 つ重要なことは、営業や開発部門のような目立つ部門だけでなく、バックオフィスやサポート部門にもスポットライトを当てているということです。今回の受賞でも、セールス分野での受賞は、私のほか 2 名だけで、あとは人事や事務サポート分野の人が受賞していました。このようにするだけで、経営がすべての業務に目を向けていることが、スタッフにアピールできます。日系の銀行に勤めていたときにも同様の表彰がありましたが、受賞するのは営業部門ばかりで、システム部門にいた私は思いっきり冷めていた思い出があります。こういうのも、外資の経営のうまいところだと思います。


――― タカシ、「○○効果」に踊る ―――
 


「Congratulations! Tomomi. Please come here... 」
… ふぅ、やっと終わったようです。


「では受賞者のみなさんにインタビューしてみましょう ! 」


( あ、あのなぁ、まだやんのか … さっき、一言話したやんけーーー ! )


「どうですか、今の心境は ? 」


私 「は、はぁ。うれしいっす」


「隣のアキラさんとは同じ部門の同じ仕事ということで、ライバル心むき出しってとこですか ? 」


私 「は ? いや、別に … 」


今回はアキラも受賞していました。こうやってライバル心を煽るのも、外資の人事施策のひとつなんです。こういうのを「ライバル効果」っていうらしいんですけど …


「賞金は何に使います ? 」


私 「は ? ( なんでそんなこと言わにゃならんのだ ! )」

「賞金 ×× 万円の使い道ですよー」


( あ、あのなぁ … 。みんな知ってることとは言え、わざわざこの場で金額まで言わんでもええやろ … )


壇上から、ふと会場に目をやると、私のチームの若手連中がカラオケのジェスチャーをしています。( 飲み代に使え、っちゅうことかい ! )


私 「は、はぁ … いつも世話になってるチームのみんなにご馳走したいと思います … ( トホホ) 」


部門スタッフ全員の前で言った以上、今夜はパーッと繰り出すしかありません。口に出した以上、やらざるをえない … こういうのを「コミットメント効果」というそうです。


賞金の使い道まで決められてしまうとは、トホホ … 。回りまわって、こういうのが社員の「福利厚生」の役割まで担っていると思うと、まさに外資おそるべし、というところです。

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タカシの外資系物語
奈良タカシ 1968年7月 奈良県生まれ。
大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。3年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。
「タカシの外資系物語」の作者、奈良タカシさんへメッセージをお寄せください。