外資系企業に勤めていると、いわゆる「訴訟リスク」に対する備えが随所に見られることに気付きます。「訴訟リスク」とは、相手から訴訟を起こされ、裁判沙汰になるリスクのことを指します。
もちろんビジネス社会に生きている以上、つねにこのようなリスクには注意しなければならないのは当然のことですが、外資系企業のやり方は徹底しているのです。
例えば、ある顧客とシステム開発プロジェクトの契約を結ぶとしましょう。
担当者である私はまず、このプロジェクトが抱えているリスクをすべて洗い出さねばなりません。導入計画に無理はないか、プロジェクト・メンバーのリソースは十分かどうか、あいまいにしている要件はないか、などなど。
それが終わると、洗い出したリスクを一覧表にして、社内の法務部門に説明に行きます。
「タカシ、この部分は内容があいまいだな。具体的に書けないようなら、プロジェクト範囲から落としてしまおう」
「おいおい、タカシ。このスケジュールは厳しいんじゃないのか ? この予算内で収めるためには、お客さまからメンバーを出してもらわなきゃ無理だぞ」 かくして、さまざまな前提条件を含んだ、100 ページを超える分厚い契約書ができあがります。
これに対して、日本の顧客の反応は、たいていの場合次のようなものになります。
「タカシさん、おたくの言い分もわかるけど、最初から『できない』『限定される』と言われちゃ、こっちも困っちゃうんだよね。もうちょっとボヤかすっていうかさ、何とかならない ?」
日本のビジネス社会では、いわゆる「紳士協定」というものが存在します。それは、「わざわざ契約書面上に盛り込まないけれども、常識として相互に理解している部分」のことを言います。スケジュールが厳しいのは、よく理解している。でもそこを何とか、みんなで力を合わせて、ってことで ! 半ばそういうノリで、契約自体にグレーな部分を残しておくのです。しかしこれは単一民族国家である日本という閉鎖社会でのみ成り立つ技であり、多種多様な民族・考え方が存在する外資系企業では通用しません。
私自身は、このような外資系の考え方を否定しません。はっきりすべき部分は、はっきりさせた方がいいに決まっているからです。しかし、そういうやり方だけでは、日本のお客様と契約できないことも理解しています。
ここが腕の見せどころ。いかに契約内容を変更せずに、顧客から信頼を得ることができるか、これにかかっているのです。そのためには、自分なりにある程度のリスクを取らなければなりません。
「契約書はこのまま行かせていただきます。心配いりません。私に任せてください」
それをどのように行うのか ? 虎の巻には、えーっと、ふむふむ ... その先は内緒ということで ...
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奈良タカシ 1968年7月 奈良県生まれ。
大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。3年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。 「タカシの外資系物語」の作者、奈良タカシさんへメッセージをお寄せください。 |