タカシの外資系物語

# 35  ■ 傘も差さずに…( ロンドン紀行-その 2 )


ロンドンの 11 月は、非常にもの寂しい季節です。日増しに目に見えて日照時間が短くなり、午後 4 時ごろには、すでに街は薄暗くなっています。12 月になればクリスマス・シーズンということで、街もそれなりに活気を取り戻してくるのでしょうが ……。みんなには、「タカシ、お前ホントに最悪の時期に来たな」といわれました。私もそう思います。


さて、このシーズン、ロンドンでは雨が多いのも特徴です。そもそもロンドンは「スカーッと晴れた青空」なんていう日はほとんどないのですが、毎日どんより曇っているか、雨、雨、雨 ……。


雨が多いロンドンでは傘は常備品かと思いきや、そうでもありません。「オレは傘を持ち歩かない主義なんだ」という人が結構います。雨の日に歩いていても、傘を差していない人をかなりの割合で見かけます。では、彼らはびしょ濡れで歩いているのかと、そうでもありません。1 つには、ロンドンという街が非常に狭く、少し歩けばすぐに地下鉄の駅に行けるということがあります。また、ロンドンの町そのものが、雨が降ることを前提に構成されていて、店の軒下が長いのです。だから、普通に歩道を歩いていれば、雨が降っていても、それほど濡れずにすむというわけです。


クライアント先での重要なプレゼンテーションがあった日のこと。私は資料を人数分用意し、質問が出たときのために、それ以外の資料もたくさん抱え込んでオフィスを出ました。一緒に行く Simon は、プレゼンテーション資料とメモ帳しか持っていません。


「タカシ、何をそんなに持っていくんだい ? オレたちは、資料運びをしてるんじゃなくて、クライアントと話をしにいくんだぜ !」


「念のために ( Just to be sure )、だよ。」


地下鉄「St.Paul」の駅からクライアントのオフィスまでは、歩いて 10 分弱。案の定、雨が降っていました。われわれはしばらくの間、ロンドン流に傘も差さずに歩いていました。しかし、急に雨が本降りになってきたのです。


「タカシ、走ろうぜ。このままじゃ風邪ひいちゃう」


「ちょっと待って !」


私が差し出したのは、伝家の宝刀「折りたたみ傘」。


私はいつもカバンの奥に忍ばせているのです。


「タカシ、すごいな。いつも持ち歩いてるのかい ?」


「Just to be sure !」


恐れ入ったか、 Simon 。




  • 奈良タカシ
  • 1968年7月奈良県生まれ。
    大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。3年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る(外資系2社目)。