連載も 200 回を超えたということで、ここらで初心 ( ? ) に帰って、外資系企業に入社した当時のお話をしたいと思います。
私が日系の銀行を退職したのは、1997 年の 9 月末のことです。転職先である外資系コンサルティング会社に入社したのは、その年の 10 月 15 日。この空白の 2 週間、気分をリフレッシュするために南の島へバケーーショーーン ! わーーい ! …… といきたいところだったのですが、当時は貯金がほとんどなかった ( 今もない ! ) ものですから、実は東京でじっとしていました。
後から気付いたのですが、転職の際にはこのような「空白期間」 ( どの会社にも所属しない期間 ) を作らない方がいいと思います。理由は簡単でして、健康保険の扱いが厄介なのです。本来なら、この期間だけでも国民健康保険に入るべきなのですが、2 週間程度のことですから、ついつい面倒で何もしなくなりがち。しかし一方では、この期間中に病気やケガをした場合には、保険が利かないので大変なことになります。
また、次の会社へ入社するまでに気分をリフレッシュしたいなら、退職してからお休みをとるのではなく、前の会社の有給休暇を、「無理やりにでも」消化することを薦めます。「立つ鳥あとをにごさず」とばかりに、転職する前日まで頑張ってしまう人をよく見かけるのですが、それって残っている上司や同僚にとっては、実は別にどうでもいいことなのです。最後まで働こうが、有給を存分に消化しようが、要は辞めてしまう ( 会社からいなくなる ) ことに変わりないのですから、変に意地を張って頑張ってはいけません。多少気まずい部分はありますが、最低限の引継ぎができたら、サクッと休んでしまっていいと思います。
話を戻しましょう。大学時代は、奈良の実家から大阪の大学に通っていました。銀行員時代も親元を離れて東京に出てきたとはいえ、会社の独身寮にいましたから、純粋な意味での「一人暮らし」を、このタイミングで初めて経験したわけです。おまけに転職先は未知の世界、外資系。私はヒタヒタと迫り来る不安を胸に、荷物が入ったダンボールが高く積まれた部屋で一人、ひざを抱えて泣いていたい衝動に駆られました。
「えーーん、えーーん、寂しいよーー、ピーーピーーピーー …… なーーんて、泣いてばかりもいられんわい …… こうなったら、清水の舞台から飛び降りた気持ちで、自分に投資したるわーー、おりゃーーーーー !」
私はすずめの涙ほどの退職金 ( 6 年半も勤めたのに、こんなに少ないとは …… ) をはたいて、短期間の専門学校に通うことにしました。内容は、「 2 週間で完璧マスター MS-Office スーパーコース」 というもので、要は Word、Excel、PowerPoint、Access などマイクロソフトのアプリケーションを短期間で学ぶという内容でした。
講義は数あるメニューの中から、自分の希望するものを選択するのですが、私は以下の優先順位で選択科目を決めました。
1. Word ・・・・ 当時、書店の店頭で見かけたパソコン雑誌に、「Word を使ってスマートな報告書作成 - デキる社員の仕事術」という記事があり、「スマート」「デキる社員」というフレーズにつられて、つい ……
2. Excel ・・・・ 同様に、「Excel を使ってスーパー顧客管理 - デキる社員の仕事術」という記事があり、「スーパー」「デキる社員」というフレーズにつられて、つい ……
3. Access ・・・・ IT コンサルタントになるのだから、データベース・ソフトぐらい使えないと話にならんだろうと、漠然と考えた。ほとんど根拠なし ……
2 週間という短期間であったため、これらのソフトの「初級」「中級」「上級」コースを選択してしまうと、どうしても PowerPoint のコースを入れることができませんでした。
「ま、いっか …… そもそも PowerPoint って、何に使うのかよくわからんし …… 」 ( 銀行員時代に、PowerPoint を使うことなんてなかったので )
で、2 週間の「特訓」を経て外資系企業に無事入社したわけですが、はっきり言ってこのコース選択は思いっきり失敗しました。Word も Excel も、お金を出して研修を受けるまでもなく、銀行員時代のスキルで十分でした。要は、ほとんど使わんのです。また、Access にいたっては、外資系に入社以来、一度も使った試しがありません ( もちろん、お客様のために開発したシステムとしては使っています。ここで言っているのは、自分のために、という観点です )。
その代わり、PowerPoint は死ぬほど使います。いや、外資系企業で使う文書の90% 以上は PowerPoint と言っても過言ではありません。ということで、私の予想はものの見事にはずれたわけです。
では、事前に PowerPoint の研修を受けておけばよかったのかというと、実はあながちそういうわけでもありません。確かに PowerPoint にもいろいろな「技」 - アニメーション ( 絵を動かす )、音を出す等 …… があるのですが、そんなものはほとんど使いません。顧客へのプレゼンの際にも、アニメーションを使って絵を動かすことぐらいはありますが、「ギュイーーーン !」とかいって音を出すようなことは、常識的にほとんどありえないことです。PowerPoint のうまい下手というのは、そういう機能をどのくらい知っているかではなく、まぁ何といいますか、「センス」のようなものだと思います。自分の言いたいことを簡潔な文章に表現し、見た目をきれいに仕上げるというセンス。こういうのは習って身に付くものでもなく、ある程度は経験に左右される部分が多いと思います。
ということで、入社前の付け焼刃的なスキルアップに失敗した私。こうなったらジタバタせずに開き直って、自然体でスキルを吸収していくことに決めました。PC スキルにしたって、欧米人に比べれば日本人の方が手先は器用なはずでしょうから、そのうち彼らに追いつくはずです ( 楽観思考への転換 )。
さてさて、では実際に彼らに追いつくことができたのでしょうか ? 例えば PowerPoint のスキルに限って言えば、私はまだまだ欧米人スタッフの域には達していないと思っています。日本語と英語の違いもあるのでしょうが、彼らが作った PowerPoint 資料の方が断然カッコいいし、読みやすいのです。私をはじめ、日本人が作る資料は、何となくヤボったいというか、文字詰め込みすぎっていうか ( それ、Word の方がいいんじゃない ? というぐらい、文字が書かれている )、全然イケてないんですよね。ま、このあたりは、これからも改善していかねばならん部分ですな。
話がものすごく脱線しましたので、また戻します。晴れて外資系企業に入社した私。毎日英語を駆使してバリバリ働き出したのかというと、実はそうではありませんでした。当時私が入社した会社は、中途採用を積極的に行っていました。今までのオフィススペースでは手狭だということで、中途採用者用に、同じビルに新しいフロアを借りて、スペースを拡張していたのです。
私が最初にもらった席は、窓側に近い場所にありました。座席は 4 つ、それぞれの席に間仕切りがあって、1 つ 1 つが単独のブースになっていました ( 正方形が 4 つに区切られているイメージ )。新しいスペースだったせいか、4 つある座席のうち、私以外の 3 席にはまだだれも座っていません。
「どんな人が来るのかな。コワイ人じゃなきゃいいけどな …… ワクワク …… 」
3 日後のこと、隣の席にやってきたのは、グレッグという名前のアメリカ人でした。
「Hi, your name is … Takashi ? OK ! Hi, Takashi ! I’m Greg. Nice to
meet you !」
「な、ないす、ちゅー、みーちゅーー ……( とほほ、なんじゃこの英語は …… )」
グレッグは、実際には本当にいい人なのですが、当時の私はブースの間仕切りがあるにもかかわらず、隣に外国人が座っていると思うだけでガチガチに緊張していました (No.1 『「映画スター」が隣にいる !』参照 )。
Greg が来てさらに 3 日後、3 番目の「住人」として Kim さんという中国人女性がやってきました。
「タカシサン、ハジメマシテ。ワタシハ Kim トイイマス ……」
Kim さんはそれなりに日本語が堪能でしたが、普段は英語で話していました。
…… こりゃ困ったな …… 2 対 1、すでに数で負けとるやないですか ……
そもそも、話す言葉に勝ち負けもないのですが、何だか心細くなったのは事実です。自分の周りから聞こえてくるのは、すべて英語。確かに銀行員時代にも、英語を使って仕事をしていたものの、やはりベースは日本語でしたからね ……
「こうなったら …… 4 人目に賭けるしかない ……」 私は決死の覚悟で、4 人目を待ちました。
さらにさらに 1 週間が経過した頃、朝出社してみると、4 人目のブースに名札がかかっていました。「Ms. Hayashi」は、はやしさん …… こりゃ日本人だ、間違いない …… 助かったぁぁ …… (T - T)日本語に飢えていた私は、林さんが来るのを今か今かと待っていました。すると、入り口から人事の担当者と林さんらしき女性がやって来るのが見えました。しかし、すぐに私の野望は打ち砕かれたのです。「は、はじめまして ……」と言おうとした私が耳にしたのは、マシンガンのように流暢な林さんの英語でした。
「ほとんどネイティブやんけーーーーーーーーーーーーー(T - T)!」
すぐにわかったことなのですが、林さんは、Greg 専属の秘書とのこと。つまり私の周りは、ほぼ英語しか聞こえてこないという、ヒアリングマラソンを地でいくような環境が整ったわけです。
「ははは …… ( 力のない笑い ) 」入社して 2 週間、そこにはどんどん寡黙になっていくタカシの姿がありましたとさ。トホホ ……
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