タカシの外資系物語

# 411  ■ 外資流 ! イス取りゲーム必勝法 ( その 1 )


――― リーマン破綻 ! ―――


「ありゃ ! これは大変なことになったな … 」 
去る 15 日、経営危機に陥っていた米証券 4 位のリーマン・ブラザーズが、連邦破産法 11 条( 日本の民事再生法に相当 ) の適用を申請すると発表しました。つまり、「倒産」したのです。先日、同様にサブプライムの余波で経営破綻の危機を迎えたベア・スターンズもそうですが、かつて投資銀行業界に身をおいた立場としては、「あの、ベア・スターンズが … あのリーマンまでもが … 」という印象で、正直、驚きを隠せません。ちょうど、三洋証券や長銀、そして私のいた日債銀 ( 現・あおぞら銀行 ) が破綻した 10 年ぐらい前の日本に酷似した状況となっています。


リーマンの東京支店には、銀行員時代に非常にお世話になった T 氏がいます。当時私は、システム部からトレーディングの部門に異動になり、仕事のやり方がわからずに、毎日泣きながら過ごしていました ( 思い出すだけでも、泣ける … )。T 氏は私と同様にシステム部から異動してきた大先輩でして、トレーディング部門でも屈指の収益を上げている花形トレーダーでした。日債銀が破綻した際、T 氏と私はほぼ同時期に銀行を去ったのですが、私は外資のコンサルティング・ファームに移り、彼はトレーダーとして、リーマンに移籍しました。


えっ ? どうしてタカシはトレーダーとしての道を諦めたのか、って ? 厳しいとこ、突きますねぇ …  そりゃ私だって、できることなら T 氏と一緒にリーマンに移りたかったのですよ。でも、T 氏ほどの実績はなかったし、何よりも、T 氏に次のように言われたのです。
「足手まといだから、ついてくるなよ ! 」


(T-T)(T-T)(T-T) あ、足手まとい、って、あんた … ま、今考えてみると、これも T 氏なりの思いやりだったのかもしれません。私にはトレーダーとしての素質がないのは明らかでしたし、外資投資銀行での過酷な競争には耐えられないと思ったのでしょう。
「タカシは IT の方が向いている。コンサルに行け、IT コンサル !」


―――トレーダーを諦めきれないタカシは? ―――


T 氏に IT コンサルを薦められた私はどうしたでしょうか ? 実は、素直にコンサル会社に転職したわけではありません。IT コンサル会社との面談と並行して、香港にある、某欧州系投資銀行のファンド会社に移ろうと画策していたのです。


「T 氏はあんなこと言うけど、俺だって、一人前のトレーダーとしてやってみせる ! 」
そのファンド会社には O 氏という先輩が勤めており、彼を頼って、香港に行くつもりだったのです。私は日帰り ( ! ) で香港に飛んで、そのファンド会社の役員と面談をし、入社 OK を取り付けました。あとは、銀行を退職して、ビザを取得して、英会話の勉強をして … と、希望に胸をふくらませていたある日、香港の O 氏から電話があったのです。


O氏 「タカシ、申し訳ないが、例の話はなかったことにしてくれ … 」
私 「へ ? 何が ? 」
O 氏 「こっちに来る話だよ、お前を雇えなくなった … 」
私 「そ、そんなぁ … (T-T) O さんのアシスタントでも何でもしますから、使ってくださいよぉ … 」
O 氏 「そういう問題でもないんだな、これが … 実は今日、会社が無くなったんだよ」
私 「会社が … 無くなった …?」
O 氏 「そう、本日付でファンドの解散が決まったの。朝連絡があって、俺も今自分の荷物をダンボール箱に詰めてるところ。もうすぐ業者が来て、PC とか電話とか撤去されるらしいから、もう電話できない」
私 「 … 」
O 氏 「じゃ、そういうことで ! 」 ガシャッ !
… なんじゃ、こりゃ … トレーダーなんか、やめじゃ、やめーーーーーーーーーっ ! コンサルじゃ、コンサルぅーーーーーーー ! (T-T)(T-T)(T-T) ハァハァハァ …


というわけで、海外で働くという夢も、トレーダーとして一旗上げるという野望も、一瞬にして消え去ったというわけです。


――― Musical Chairs とは ? ―――


今思うと、これはこれで良かったのかもしれません。私が転職する予定だった香港の外資ファンドの解散が、仮に一ヶ月でも後にズレていたら、私は慣れない香港の街でダンボール箱を抱えて路頭に迷っていた可能性もあるわけです。


先に述べた T 氏だって同じことでして、仮に今、彼がダンボール箱を抱えて六本木を歩いていたとしても、それはそれで仕方ないのです。自分でそういう世界を選んだわけですから。それに、彼は数年間、天下のリーマンで花形トレーダーとして君臨していました。すでに、我々とは比較にならないレベルの報酬を得てきたはずです。


さて、以上述べたような「外資系投資銀行」というのは、ハイリスク・ハイリターンの典型的な例だと思います。投資銀行以外の外資というのは、そこまでのリスクはない。しかし、一般の日系企業よりはハイリスクであることは確かです。


実際に、これと似たようなことは、私の周囲でも頻繁に起こっています。先日もこんなことがありました。同業他社の○○コンサルティングがセミナーの案内を出していたので、何気なく見ていると、スピーカーにどこかで見覚えのある顔が !
「あれ ? この人どっかで見たよな … A さんって、あの A さん !?」


つい先日まで、隣の部門でマネージャーをしていた A さんが、別のコンサルティング会社が主催するセミナーのスピーカーとして登場しているではありませんか ! 実は、こういうのはコンサル業界にはよくある話なのですが、驚くべきは、私は A さんが我が社を辞めたことを知らなかったのです !


そういえば A さん、担当する分野の業績が悪く、半年ぐらい前から退職の噂が絶えませんでした。 「ふーーん、変わり身早いねぇ … さすが、A さん」
褒めてるんだか、けなしてるんだか、何だかわからない評価を下している自分に気付きます。


いつ自分の居場所がなくなるかわからない … こういう状態を、外資では「musical chairs」と呼びます。musical chairs とは、「イス取りゲーム」のことを指します。みなさんも子供の頃、イス取りゲームをして遊んだことと思います。ゲームのルールは単純でして、参加者は、人数より 1 つ少ないイスの周りをグルグル回ります。で、音楽が止まった瞬間、そのイスを取り合います。あぶれた人は「負け」。普段は音楽が鳴っていて気付かないのですが、いざ立ち止まってみると、会社には自分のイスがない … まさに、過酷な外資の状況を表しています。


リーマンや私が経験した香港のファンドの場合は、結局はイスが 1 つも無くなった ( =会社自体が消えてしまった ) ので、少し状況は違うかもしれません。しかし、多くの外資系では、会社が順調である場合でも、いやむしろ、会社が順調であればあるほど、限られたイスを、そのイスより多い人数で取り合っている状況にあります。


では、「musical chairs」の必勝法とは、どのようなものでしょうか ? ゲームである以上、やっぱり「コツ」のようなものですよね、これが。次回はそのあたりをお話したいと思います。


( 次回続く )


<<前のコラム  |  次のコラム>>


  • 奈良タカシ
  • 1968 年 7 月奈良県生まれ。
    大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。3 年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系 2 社目 )。