タカシの外資系物語

# 397  ■ 暗いオフィスで独り言 …


――― 午後 10 時にオフィスが …!? ―――


ブチッ !
ただ今、午後 10 時過ぎ。私のオフィスでは、午後 10 時を過ぎると、部屋の電気が自動的に消える仕組みになっています。「び、びっくりしたぁー、何だよ一体 ! 」と驚いている人は、残業の素人。私のように、毎日のように電気が消えるのを目の当たりにしていると、「あ、10 時なのね … 」としか感じなくなってきます ( 決して褒められたことではない )。


もちろん、電気のスイッチを入れなおせば、部屋の電気は点きます。では、会社はなぜこんなことをしているのか ? 単なる嫌がらせなのか ? いやいや、そんなことはありません。1 つの目的としては、「省エネ」が挙げられます。すでに全員帰宅したにもかかわらず、部屋の電気が点いている場合には、この策は効果的です。もう 1 つの目的としては、「もう 10 時ですよー、そろそろ帰ったらいかがかねー ? 」という合図の意味合いです。


しかし、いくら合図をしてみたところで、それに反応しなければ意味はありません。私のように、10 時になって電気が消えても、「はいはい、点ければいいんでしょ。点ければ … 」と、半ば条件反射的に動いていたのでは、制度を導入した側の会社もやりがいがないってもんです。


実はこの制度、アメリカではかなり一般的なようです。同僚によると、アメリカの多くの企業では、夜 8 時になると、一斉にオフィスの電気が消えるようになっているのだそうです。その時オフィスにいるスタッフはどうするのか ? 殆どの人は、電気が消えるとそそくさと帰宅するとのこと。電気が消えても余裕をかましている日本とは大違いです。


では、どうしてこのような違いが生まれるのか ? これは、日米における「残業」に対する認識の差のせいではないかと思います。つまり、日本においては、残業は「仕方のないもの」、または「他人より働いているのだから、褒められてしかるべし … 」くらいのイメージだと思います。一方、アメリカにおいては、残業は「回避できるもの」、または「残業しなければならないのは、自分に能力がないことをあらわしており、カッコ悪い … 」 と考えられています。この認識の違いが、オフィスの電気が消えた時の反応として、如実に現れているわけです。


――― 残業をする理由 ―――


私も外資に転職するまでは、「残業がカッコ悪い … 」という認識を持っていませんでした。日系企業にいた頃は、毎日定時に帰るようなやつは、仕事のできないやつだと勝手に決めていたように思います。


もちろん、「カッコいい / 悪い」というのは、本質的には「仕事ができる / できない」で判断されるべきですから、「残業する / しない」は一切関係ありません。当然のことながら、「残業しないで仕事ができる人」 が一番カッコいいに決まっています。にもかかわらず、日本においては、残業をすることを前提に、仕事をするようになったわけで、これには何か深いワケがありそうです。


日本では、結果よりもプロセスを重んじる傾向があります。これも、残業を生む大きな要因です。アメリカのように、「結果さえ良ければ、多少手を抜いてもいいじゃん ! 」という合理主義は、どちらかというと「悪」ですから、常にきちんとした作業が要求される。つまり、適当にやっても上手くいきそうな場合でも、手を抜くわけにはいかず、残業をしてでも全作業をやり遂げる必要があるわけです。


なるほど、確かにそれはあるかもしれませんね。しかし、1 つ納得いかないことがあります。私は外資に転職して早 10 年以上になります。アメリカ式の仕事術にも慣れ、かなり合理的に考えられるようになっています。なのに、どうして毎日残業をしてしまうのでしょうか ?


――― “日本人・タカシ” と “アメリカ人・マイケル” の差 ―――


どうして外国人の同僚は残業をせずに、日本人の私は残業をしていまうのか … それを探るには、両者の行動パターンの「差」を特定しなければなりません。


例えば、同僚のマイケルと私。2 人とも同じ職位で、同じぐらいの成果を上げています。クライアントを訪問して、ニーズをヒアリングして、提案書を書いて、提案作業をする … うーーん、殆ど同じことをしています。同じことをしているのに私だけ残業をしているということは、私はマイケルに比べて仕事が遅いということなのでしょうか ?(T-T)


「そういえば … 」 1つだけ違うことがありました。マイケルはやっていないことで、私だけがやっていること、それは、「準備作業」です。「準備作業」というのは、クライアントを訪問するに際して、そのクライアント ( 面談していただく方 ) がどのような会社・人物なのかを調べたり、提案書を書くに際して、過去の同様事例を詳細に調べたり … という作業のことです。もちろん、マイケルも準備作業をしていますが、明らかに私の方が多い。私はその分だけ、残業をする羽目に陥っているわけです。


私 「マイケルってさぁ、クライアントをコール ( 訪問 ) する際の準備に殆ど時間かけないよね ? 」


マイケル 「そうかな。( 会社の LAN にある ) クライアント情報 DB ( データベース ) ぐらいは見てるけど … 」


私 「それ以外の情報は見ないの ? クライアント情報 DB って、最小限の情報しか載ってないだろ ? 」


マイケル 「それ以外の情報、てったって … そりゃ、あるにこしたことはないけどさ、時間かかるだろ、集めるのに。どっかで割り切らないと、いくら残業したって足りないぜ ! 」


… 全くその通りなんですがね。


私が事前準備に時間をかけるのは、一種の「保険」みたいなもんでして、それをやっておかないと落ち着かないというか、なんというか … マイケルの方が、事前準備が少ない分だけ、突っ込まれる可能性が高い。しかし、マイケルはそのような局面に「慣れて」いるので、突っ込まれた時の機転は、それなりに利くように思います。


では、私とマイケルでは、どちらが優れたやり方なのでしょうか ? もちろん、残業をしないことについては、マイケルの方が上です。しかし、私の方が仕事を受注する率が高いのです。仮に、私が残業を全くしなかったとしても、私の方が高確率で受注していると思います。これはやはり、事前準備を入念に行っているからなのではないでしょうか。マイケルは、ある意味、「下手な鉄砲、数打ちゃ … 」方式なのです。


残業はしない方がいいに決まっています。だから、私も今後は、何とか定時に帰るようにしたいと思っています。しかし、こと仕事のやり方に関しては、その人なりの方法があるわけで、全てにおいてアメリカ式がいいとは言い切れないように思います。「自分流を貫いて、定時に終えることができるか ? 」これこそ、カッコいいビジネス・パーソンが追究すべきテーマなのでしょうな。


ブチッ !
オフィスの電気がまた消えました。え ? 10 時だぞ、早く帰れ ! って ? 定時に帰るカッコいいビジネス・パーソンを追究してるんじゃなかったのか、って ?


ま、徐々に、徐々に。そんなにすぐ変えられませんから … あ、そうそう、ちなみに今は、夜中の 12 時ですな。実は、うちのオフィスは、午後 10 時から 2 時間おきに電気が消えるんで、今日 2 回目というわけ … 次消えたら、午前 2 時かな、ハハハ …


早よ、帰れって、かーーーーーーー ! もうちょっとだけ、あと 30 分で終わるからーーーーーーーーーーっ !(T-T)(T-T)(T-T)




  • 奈良タカシ
  • 1968年7月奈良県生まれ。
    大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。3年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る(外資系2社目)。