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タカシの外資系物語

# 116  ■ 華やかなり ( ?! ) トレーダーの世界 ( その 2 )


( 前回の続き、ちなみにこれはほぼ 7 年前の話です )


( 晴れて ( ? ) トレーディング部門に異動になってから早や 6 ヶ月。当初は「マーケット部門内システム部員」として活動していた私にも、トレーダーとしての真価が問われる時期がやってきました。つまり、目に見える形での「稼ぎ」が必要となってきたのです。


( 私がトレードの対象としていた商品は「円金利」と呼ばれるもので、円の債券 ( 主に国債 ) およびその先物、それらの派生商品としてのスワップ・オプションなどです。しかし、個人として扱えるのは「債券先物」に限られており、 1 回の取引金額がだいたい「10 億円」くらいです。 10 億と聞くと非常に大きく思えますが、この金額では、相場がかなり動いたとしても数百万円の損益しか出ません。ですから、仮に毎日 100 万円勝ち続けたとしても、年間 200 営業日で 2 億円しか収益が出ないことになります。実際にはずっと勝ち続けることは不可能ですので、他の部分に安定的な収益源を求めなければなりません。


( そこで、われわれ円金利トレーダーは、銀行本体が行う取引を代行してやって、そこで「利ざや」を稼ぐことになります。要は、マーケットから安く仕入れて、銀行に対して高く売るという行為です。銀行本体は、 1 回の取引が 1000 億単位に及ぶこともしばしばですから、そこに「コバンザメ」として寄生して生きていくわけです。「自分が所属する銀行と商売して儲けるとは、いかがなものか ! 」と思われるかもしれませんが、トレーダーなんてハッキリ言うとそんなもんです( 「伝説の相場師」なんて人もたまにいますが、ごくごくわずかにすぎません )。


さて、コバンザメが生きていく上で重要なことは何でしょう ? それはひとえに「いかにしてご主人様に好かれるか」ということにつきます。ご主人様である財務部門の担当者とは、通常は電話で会話します。好かれる、好かれないの分かれ目は、実は「演技力」が大きくモノを言います。


( 財務部門担当者 ) 「もし ( ※ 1 )、タカシかい ? 今、 7 年 ( ※ 2 ) ってどれくらい ?」


( 銀行員時代の「コバンザメ」タカシ )「えっと、マル 6 のハーフ ( ※ 3 )ってとこですね」


( 財務部門担当者 )「うそ言え ! ロイターだとマル 7 ( ※ 4 ) だぞ !」


( タカシ )「 ( 泣きながら ) 勘弁してくださいよ。うちの銀行の格付 ( ※ 5 ) じゃ、画面通りなんて無理なんですよ。トホホ ……」


( 財務部門担当者 ) 「うーーむ … しょうがないな …… それでいいや。じゃ 30 ヤード Done ( ※ 6 ) ね」


( タカシ ) 「じゃ、Doneってことで。毎度ありがとうごぜいやす。( しめしめハーフ抜けた( ※ 7 ) ぞ、と ) 」


これらの会話、業界用語が飛び交っていますので、少し解説しておきます。


( ※ 1 ) トレーダーの中には、電話のときに「もしもし」と言わずに、「もし」と 1 回だけで済ます人がいます。 2 回言う時間がもったいないからだそうですが、私に言わせればどっちでも大差ありません。


( ※ 2 ) 7 年物の円金利スワップのレートはいくらか ? と聞いています。


( ※ 3 ) 「2.065 」という意味です。だいたい 2% であることはわかっているので、「2」は省略して言いません。


( ※ 4 ) 彼が見ているロイター社の情報画面では、「2.07」だと言っています。つまり、オレはもっと高い金利が受け取れるはずだと主張しているわけです。


( ※ 5 ) ロイター社をはじめとする情報会社が提供するレートは、あくまでも平均的・一般的なものです。しかし、私がいた銀行は当時、平均的な他の銀行より格付が低かったため、画面情報よりも悪い条件でしか取引ができないケースが多かったのです。


( ※ 6 ) 「ヤード」というのは 10 億を表しています。ですから 30 ヤードは 300 億円ということになります。"Done" というのは、「取引完了(取引させてください)」という意味です。新米の頃の私は、この言葉の意味がわからず、「Done ね !」というのを「旦那 !」だと思っていました。「じゃ、あっしはこれで失礼しやす、旦那 ……」 わしゃ桔梗屋か ……


( ※ 7 ) このケースでは、珍しく画面通りのレートでできたのです。それにもかかわらず、私はいつも通りに、画面より 0.005% 悪いレートでしか取引できないかのように「演技」したのでした。


上記の例からもわかる通り、要は「演技力」なのです。電話口では舌を出しながら、常にへりくだって相手を立てながら話す。これこそ私がトレーダーとして身に付けた「知恵」だったのです。実は私、高校では演劇部、大学では英語劇のサークルに所属しており、これぐらいの演技はお手のもの。これだけで、年間数億円稼いだこともありました。


1 年後に外資系証券会社に出向したときも同じ手口です。使うコトバが英語になっただけです。


"You are excellent! Genius!" ( 「いやーぁ、君はすごいなぁ、天才だよ、天才 !」 )


なーんて言いながら、コバンザメをしていたわけです。夢にまで見たトレーダーの世界とは、私にとっては「ヨイショ」の技をみがく場にすぎなかったのです。


トレーダー時代に身に付けたこれらの癖は、今になっても抜けません。


( タカシ ) "Simon! Excellent! Genius!" ( 「サイモン ! にくいね、この天才 !」 )


( Simon ) "Thank you. But... you can NOT get anything more from me ..." ( 「あんがと。でも、そんなにほめても何も出ないぜ ……」 )


…… な、情けない …… 元・花形 ( ? ) トレーダーの顛末でした …… トホホ ……


( 注 ) 実際には、カッコいいトレーダーもいます。すべてが私のようなわけではないので、誤解なきよう !

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タカシの外資系物語
奈良タカシ 1968年7月 奈良県生まれ。
大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。3年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。
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