タカシの外資系物語

# 325  ■ 外資で必須 !? “オートクライン” って何 ?


———— 骨子を話せ ! ————


「Takashi、Takashiーーーーーーーーーーーーーーっ ! 」


はいはい、すぐ行きますよ ・・・ 上司の Thomas です。ただ今、わが社では来年の事業計画を立てている真っ最中でして、私も他のマネージャーと分担して、自分のセクションの計画を立てています。


私 「何ですか ? 」


Thomas 「来年のプラン、できたか ? 」


・・・ 今やってる最中じゃーーーーーーーーー !


私 「今やってますよ。明日には、 draft up できると思うんで、また相談します」


Thomas 「どんな感じなんだ ? 」


私 「は、はぁ ? 」


Thomas 「 outline ( 骨子 ) を話してみろ ! 」


・・・ そんなもん、今話して何になるんじゃーーーーーーーーーー !


私 「明日話しますよ」


Thomas 「ん ? お前は自分のやってることの骨子も話せないのか ? しょうがないやつだなぁ ・・・よし、じゃあ、私が考えるわがセクションのとるべき戦略について、その骨子を話してやろう ・・・ ペラペラペラペラ ・・・ 」


・・・ おいおい、始まったよ。こりゃ 1 時間コースだね ・・・ トホホ、仕事させてくれよ ・・・ (T-T)


ついさっきも同僚のマネージャーであるカズノリが Thomas に呼びつけられまして、「 Thomas が考える戦略の骨子」についてレクチャーを受けさせられていました。そもそも、説明するのに 1 時間もかかるようでは、それは骨子ではありません。それよりもまず、部下の仕事の邪魔すんな ! って感じです。


外資系企業に勤めていると、よくこのような経験をします。つまり、「自分が今やっていることを口に出して話す」ということ。これは、どういうことなのでしょうか ?


———— オートクラインって、何 ? ————
 


実は以前から、 Thomas 以外の上司や同僚からも、まだ作業が半ばであるにもかかわらず、「ちょっと説明してみてよ」みたいに言われることがありました。また逆に、「ちょっとオレの話聞いてくれるかな」なんてのもありました。


当初、私は「これはお互いにプレゼンの練習をやり合っているんだろう ・・・ 」と思っていたのですが、どうもそうでもないようです。なぜなら、プレゼンとは思えないほどまとまりのない話を聞かされることの方が多いからです。人に何かを説明すると言うよりは、単に自分が口に出して話すことで満足している感じ。私は同僚に、この行為について尋ねてみました。


「それはね、オートクライン ( autocrine ) をやってるんだよ」


autocrine ? 辞書を見ると、「自己分泌」と出ています。なんじゃ、そりゃ ??? ネットで詳しく検索してみると、そもそもは医学用語のようでして、「ある細胞が出したホルモンが、その細胞に作用すること」。ここから転じて、「自分で口に出してみて、自分で気付くこと」という意味で、主にコーチングの世界で使われている用語のようです。


頭で考えたことを表現するには、大きく 2 つの方法があります。口に出して話すか、文字や図表で書き表すか。オートクラインとは、口に出して話すことによって、自分の考えをまとめ、誤っている部分を修正したり、不足している部分を補ったりする作業のことを言います。


オートクラインが優れている点は、文字で書くよりも手っ取り早いことが挙げられるでしょう。自分の頭にあることを口に出せばいいだけですから、いつでもどこでも、すぐにできます。たとえ聞き手がいなくても、独り言でも構いません。また、自分の考えの誤りや不足点が、文字で書くよりもわかりやすいというメリットもあります。確かに、考えがまとまっていない段階で口に出すと、かなりボロボロになってしまうことがわかります。しかし、そのボロが直接的にわかるので、修正も早い。一方で、文字で表現すると、何となく誤魔化したみたいな感じがあって、後で口に出したときにボロが出てくることが多いように思います。


———— オートクラインに不慣れな日本人 ————
 


さて、オートクラインの効用は理解できたものの、一般的な日本人の仕事の進め方としては、やはり文字で書く方が優勢だと思います。このことは、外国人と一緒に研修を受けると、よくわかります。


例えば、「日本の M&A について、自分の考えを 15 分でまとめて発表しなさい」というお題が出たとします。外国人の場合は、自分の考えを口頭で述べるだけというのがほとんどですが、日本人の場合は違います。半分以上の日本人は、短時間の間に何らかの図表を用意したり、自分の考えの骨子を、事前に文字で書いておいたりします。事前に何らかの準備をしておくと、落ち着いて話ができるという面もあるのでしょうが、一方では、オートクラインのやり方に慣れていないとも言えます。


また、欧米のマネージャー以上、エグゼクティブ・クラスになってくると、「自分は話すだけで、文字を書くことはほとんどない」というケースもあります。つまり、筆記役がいるので、書く必要がないのです。そういう意味でも、欧米のホワイトカラーというのは、オートクラインのやり方に適しているのではないでしょうかね。


「Takashi、Takashiーーーーーーーーーーーーーーっ ! 」


はいはい、すぐ行きますよ ・・・


Thomas 「できたか ? 」


私 「ええ、ドラフトできたんで、”骨子” を話しますね」


・・・ よしよし、オートクラインでやってみっかな、と ・・・


Thomas 「あ、いや。先にオレの方から “骨子” を話させてくれ ・・・ 」


・・・ な、なんちゅう上司 ! こんなもん、先に部下の話を聞くに決まっとるやろーが !


Thomas 「よし、じゃあ、私が考えるわがセクションのとるべき戦略について、その骨子を話してやろう ・・・ ペラペラペラペラ ・・・ 」


・・・ トホホ。結局 Thomas の話が長くて、私の「オートクライン」はお預けになりそうです。みなさんもオートクラインをするときには、くれぐれも相手を選びましょう。はよ、終われや ・・・ (T-T)




  • 奈良タカシ
  • 1968年7月奈良県生まれ。
    大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。3年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る(外資系2社目)。