
「日本社会と中国社会の最大の違いは何 ? 」と聞かれれば、私は迷わず「中国企業には終身雇用制度が無いこと」と答えます。
毛沢東時代の中国で企業はすべて国有国営で、私有財産すらいっさい禁止されていました。それが 80 年代以降の改革開放路線により民間企業の設立が始まり、 90 年代の国有企業改革では国有企業の多くが一気に解体され、「集団公司」等と呼ばれる民間企業に民営化されていきました。同時に農村でも人民公社が解体され、農民たちが都市へと大量に出稼ぎに出るようになったのです。
その後、 1993 年に中国初の労働法が施行され、そのなかで中国の企業労働者はすべて「契約労働者」( 中国語で「合同工」と言います ) と定められました。これに対して公務員や国有企業の職員は「固定工」と呼ばれ、現在では例外的な終身雇用身分となっています。
現行の労働法では、労働契約の期間は「期限の定めがあるもの」、「無いもの」、「一定期間の請負契約」の三種類に分類され、原則は有期限の契約労働者としながらも、同一雇用主の下で継続して 10 年以上勤務した者が希望すれば、無期限の労働契約を締結することができるとされています。つまり、 9 年目の個人面接が重要な意味を持ってくるわけです。
日本では「死語」になったとまで言われる終身雇用制ですが、現実には今なお健在です。高度成長期に定着した日本の終身雇用制の長所としてよく言われることとして、( 1 ) 職場の安定性、( 2 ) 賃金の安定性、( 3 ) 人材と情報の囲い込み、等がよく挙げられます。
これが現代中国では、すべて逆さまになります。すなわち、人材の流出と流入が頻繁、職場は不安定になりがち、賃金格差は大きく広がり、社内情報も外に流出しやすくなる、ということです。かかる問題は個別企業経営レベルの問題ではなく、社会制度システム全体の問題です。企業が個々に解決しようと努力するよりも、かかる社会制度に適合した適切な人事管理システムを構築すべきでしょう。ややもすると日本企業は、終身雇用を前提とした日本式経営システムをそのまま中国にあてはめようとしますが、ジョブホッピング、技術ノウハウや企業秘密情報の漏洩、模倣被害などの問題が後を絶ちません。
もうひとつ、契約雇用制度に加えて、中国の企業社会で特徴的なことに「労使関係の不存在」という点が挙げられます。共産党単独執政の中国においては、「企業は国民のために生産販売活動をしており、ストライキは反国民的な行為とみなされ、違法行為として処罰される」という建前があります。中国にも労働組合 ( 中国語で「工会」と言います ) は存在しますが、団体交渉権もスト権も持っていません。ひとたびストライキが発生すれば、経営に協力して一日も早く正常な生産活動に復帰させる責任すら負っています。
最後に、労働契約制度の極端な例として、有名な中国の家電メーカー「ハイアール」の「 2-7-1淘汰制」をご紹介しましょう。これは従業員全員を成績順にならべて、上位 2 割を「優秀」としてボーナスを出し、 7 割を「可」として次年も契約更新し、最下位の 1 割については契約更新せず「淘汰」するという人事評価システムです。この人事制度には賛否両論ありますが、「中国ならでは」の人事制度と言えるでしょう。
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執筆者 筧武雄(かけひ たけお) Profile
中国ビジネス・コンサルタント 1981年 一橋大学卒業 横浜銀行入行。 1984年 北京大学に派遣留学ののち銀行北京事務所開設、初代駐在。 1988年 海外経済協力基金(現・国際協力銀行)派遣出向。 2001年 銀行を退職し、独立。著書、雑誌連載等多数。 http://members.aol.com/ChinaInformation http://blog.explore.ne.jp/kakehi/index.php 主な著書 「中国との付き合い方がマンガで 3 時間でわかる本」 「中国ビジネス<超>成功戦術 252 」 「中国投資マーケティング戦略マップ」 「中国進出失敗・トラブル事例集」 「最新版中国投資・会社設立ガイドブック」(以上、明日香出版社) 「中国ビジネスのツボ」(重化学工業通信社)等 他多数
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