
2010 年頃までには、大学の定員数が大学入学希望者の人数を上回る、いわゆる「大学全入」の時代に入るといわれています。数値上は、大学進学を考えている高校 3 年生は、進学先を選ばなければ、誰でも大学に入れるようになってきているのです。この動向が大卒女性のキャリアの意味に、変化をもたらす可能性があると思われます。
大学進学者の少なかった時代には、「大卒」という肩書は男女にとって、それぞれ意味がありました。大卒は、男性にとって「立身出世」するために必要であり、女性にとっては「地位表示機能」と「地位達成機能」を果たしていました。
高学歴の女性にとって、学歴は、その女性の知的レベルの高さと経済的バッググランドを示し、大卒の「地位表示機能」を生かして、社会的な地位と収入が共に高い男性と結婚し、社会的地位と経済的な地位の向上を期待することができました。ここでは、大卒というシグナルは「上昇婚」の可能性を高める手段となっています。
また、一部の女性は社会に進出して、大学在学期間中に身につけている知識と技能を生かして、個人の社会的地位の上昇を図ってきました。この時、学歴は、女性の社会進出にとって「地位達成」の手段となり、社会で男性並みの地位を獲得するための一助になります。
「大学全入」の時代においては「大卒」の稀少価値が低くなっていきますので、女性にとっての「大卒」の「地位表示機能」は弱まっていくでしょう。また「大卒」だから「上昇婚」機会を得られる可能性が高い、ということは無くなっていくのではと思われます。前述の「地位表示機能」が弱まるということです。
一方、女性にとって、高等教育により付加価値が高まるのは、「地位達成機能」でしょう。就職する時点とその後の人生において、大卒の付加価値は女性の仕事を通じて反映され、女性の高等教育への投資が男性と同様に社会に還元される環境になることが期待できます。
制度的にも、1999 年の男女雇用機会均等法の改正実施に伴って、募集・採用、配置・昇進、教育訓練、福利厚生、定年・退職・解雇において、男女差をつけることが禁止され、大卒女性が男性と同等に仕事に取り組むことができるようになりました。たとえ現実的には昇進・昇格の「ガラスの天井」があるとしても、法的には彼女達の道は開かれてきています。このように、「大学全入」の現状と法的制度の整備を考えれば、女性の大卒機能の変化のみならず、女子労働史上における大卒女性の就職に関する新たな動きが現れるかと考えられます。
上記に述べた変化は、日本における女性の社会進出にとって決して悪い傾向ではなく、女性が社会で活躍する場が整備されてきた日本企業は、日本で就職・転職したい中国人女性にとっても良いチャンスになるでしょう。日本企業の過去に「男尊女卑」の企業文化があったとしても、昨今の状況をみる限り、環境はだいぶ変化してきています。中国人女性も、自分の能力を生かしながら、日本企業の「ガラスの天井」を突破したいという心構えで一所懸命に頑張って頂きたいと思います。これは中国社会に存在しない、日本企業のジェンダー文化に対する挑戦でもあるでしょう。
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執筆者 李尚波
桜美林大学 リベラルアーツ学群 講師 1989 年 7 月 北京外国語大学日本語学部卒業。 1997 年 3 月東京外国語大学地域文化研究科博士前期課程修了。 2004 年 4 月東京外国語大学博士(学術)学位取得 現在は桜美林大学 LA 学群で社会学、教育社会学、高等教育と社会参加、ジェンダー論、日本歴史文化論をテーマに研究を続け、講師として活躍中。 『女子大学生の就職意識と行動』 (2006年御茶ノ水書房)、 「女子大学生の就職行動における変化の全体像」(単、『国際教育』No.10(2004年10月)日本国際教育学会)、 「日本女大学畢業生持続就業的未来走向探析」(単、世界知識出版社『日本学研究』2004年7月北京日本学研究センター)、 「日本私学発展的現状及其特徴」(共、山西教育出版社『日本私立学校』1996年) |
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