
日本企業の企業風土で中国企業と明らかに違うのは、大卒女性の社内での位置づけでしょう。前回触れたように、中国では、大学を卒業した女性は、その数が少ないこともあって、職場では幹部候補生として受け入れられ、将来は職場の中堅になるという暗黙の前提があります。大卒女性の就職に関しては、日本企業の企業風土は中国とまったく違うと言ってもいいと思います。
日本は、1960 年代半ば頃、東京オリンピック大会をきっかけに経済の発展スピードは徐々に上がり、1980 年半ば頃には、世界の GNP の 1 割を占める大国となって、歴史上最大規模の経常収支黒字国、且つ世界一の債権国となりました。
このような輝かしい国である日本ですが、大卒女性の雇用に関しては、先進国の中で立ち遅れていました。例えば、1977 年度の場合、大卒女性に門戸を開いた企業は、調査対象全 1,827 社のうち 519 社 ( 28.4 %) だけで、1 社平均採用人員は 7.1 人です。その内 100 名以上採用した企業は、ジャスコ、東京銀行、協和銀行の 3 社にすぎず、50 名以上採用した企業を含めても、6 社だけでした。大卒女性を 1 名のみ採用した企業は 146 社で、1‐2 名の少数しか女性を採用しなかった企業は女性を採用した全企業の 45%、約半数でした。
つまり、70% ぐらいの企業は、ほぼ女性を締め出した状態でした ( 注 ) 。当時の大卒女性にとっては、企業よりもむしろ教員、保母、薬剤師、看護婦、美容師など女性の表出的性役割の延長線にある職種の方が開かれていました。
企業が事務職に女性を採用しはじめたのは、1970 年頃です。この時期に、高学歴化によって、男子若年労働力が足りなくなり、賃金も高くなったため、企業はやむを得ず、女性に目を向け始めました。その後、日本の企業といえば、我々外国人がすぐに思いつくような、女性社員がお茶汲み役で、中年男性が管理職というイメージが徐々に定着していきました。大卒女性であっても、このように企業内で補助的仕事しかできない状況は、15 年程度続いていました。
1986 年、雇用均等法の実施により、制度上は、大卒女性は企業内において男性並の仕事と昇進・昇格のチャンスが得られるようになりました。しかし、戦後 40 年の長きに渡って徐々に出来上がった企業風土は、一日で変えられるものではありません。企業はまず、コース別採用制度をつくって、雇用均等法に対応する試みをしました。この制度は、一見性別に関係なく、「転勤の有無」または「採用区分」や「新雇用形態」などを理由としてコースが分けられているように思われますが、実際は男女差別である場合が多かったのです。「コース別雇用管理の望ましいあり方」(旧労働省、1991 年 10 月 8 日)でも、「コース別雇用管理は、本来、労働者を意欲、能力、適性等によって評価し、処遇するシステムの一形態として導入されてきたものであるが、実際の運用をみると、性別による雇用管理の疑いのあるものも見られる」と述べられています。
このように、企業内において大卒女性にとって不利な状況は、21 世紀に入るまで続いています。前回言及したように、女性のキャリア・ステージが男性と違いますし、女性同士でも、総合職か一般職かによって、キャリア・ステージのステップが違います。これは、大卒女性自身の意欲のみ、または単純に女性本人の勤続意識によるものではありません。企業風土という働く環境によることも大きいかと思われます。
いくら先進国である日本の大企業であっても、このような企業環境に、違和感や圧迫感を感じる中国人女性が少なくありません。そのため、日本大企業で働いて、ある程度の年数がたってから、もっと昇進・昇格の機会の多い中国企業を選んで、帰国した人も多く居るのです。この目にみえない「ガラスの壁」は、中国人女性が日本企業で就職する際にぶつからざるを得ない障壁であるでしょう。その障壁をどう切り開いていくかは、中国人大卒女性だけではなく、日本人女性自身にとっても大きな課題であるかと思われます。
注
これらの数字は、リクルートが発行した『就職ジャーナル』誌より引用。出典:深谷昌志「大学卒の女性はどこへ」民主教育協会氏誌『IDE 現代の高等教育』No.194(1978 年 11 月)31‐32 頁。
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執筆者 李尚波
桜美林大学 リベラルアーツ学群 講師 1989 年 7 月 北京外国語大学日本語学部卒業。 1997 年 3 月東京外国語大学地域文化研究科博士前期課程修了。 2004 年 4 月東京外国語大学博士(学術)学位取得 現在は桜美林大学 LA 学群で社会学、教育社会学、高等教育と社会参加、ジェンダー論、日本歴史文化論をテーマに研究を続け、講師として活躍中。 『女子大学生の就職意識と行動』 (2006年御茶ノ水書房)、 「女子大学生の就職行動における変化の全体像」(単、『国際教育』No.10(2004年10月)日本国際教育学会)、 「日本女大学畢業生持続就業的未来走向探析」(単、世界知識出版社『日本学研究』2004年7月北京日本学研究センター)、 「日本私学発展的現状及其特徴」(共、山西教育出版社『日本私立学校』1996年) |
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