
日本企業の効率性が高いことは世界で有名な話ですが、どの国の企業にとっても、1 日は 24 時間で 1 年が 365 日間であることには変わりありません。それでは、同じ時間でどうして日本企業は世界中の企業に敬服される程の効率性を保つことが出来るのでしょうか。その秘密を解明するのにはいくつかの切り口がありますが、企業風土から見ていくのも一つの方法かと思います。
周知のように、日本企業では、エリート男性社員が頂点に立ち易く、女性労働者の大多数は補助として配置するという、ピラミッド型の労務管理体系を取っているケースが多くあります。ある意味では、女性という性別が企業人としてのキャリア人生を決めてしまう部分もあるでしょう。中国人の視点から見れば、これはとても不思議なことだと思うかもしれません。
中国においては、学歴に関係なく、都市部の女性はほぼ全員が定年退職まで仕事を続けます。特に大学を卒業した女性は、その数が少ないこともあって、職場では幹部候補生として受け入れられ、将来は職場の中堅になるという暗黙の前提があります。企業においても、性別というより、能力で昇進・昇格をするケースが多いようです。なぜ日本の企業ではそれが出来ないのでしょうか。
これについて、統計的差別理論では次のように解釈しています(注)。企業は勤続期間の短い者を対象に教育訓練を行っても、その教育訓練費の割には収益を得られませんから、できるだけ定着性が高く、しかも訓練効率の良い人を選んで訓練を受けさせ、企業のために働いてもらいます。採用する前に、応募者個人の資料をある程度もっていても、入社後何年勤めて退社してしまうかはわかりません。
前回紹介したように、平均すれば、日本企業に勤める女性の勤続年数は男性より短く、そしてキャリア・ステージも「総合職女性」であるか、または「一般職女性」であるかによって違います。その為、企業はまず、性別など外見上の特性に基づいて判断を下すことにして、そのグループの平均値を踏まえて選別し、教育訓練を実施する人事計画を立て、採用活動を行うのです。
このような理論の下で、当然ながら、労働力供給が過剰な時代には、相対的に勤務年数の多い男性社員のみを採用して企業内訓練を受けさせます。彼らはその後、企業の中堅として働き、昇進・昇格も企業内のルールに従ってスムーズに進んでいきます。日本企業の効率性の高さの要因の一つは、この企業内訓練を受けた能力の高い労働者が長期的に勤務する体制にあると言えるでしょう。
女性労働者に関して言えば、いくら意欲的に仕事をしたくても、最初から企業に長く残る社員として考えられていない為、補助的な仕事しか任せられて来ませんでした。
しかし、今後ますます進む少子化・高齢化社会では、労働力が足りなくなりますので、企業は発展の為にやむを得ず対象範囲を広げ、女性社員の活用を視野に入れるようになるでしょう。
市場経済社会になった中国では日本の企業と違い、人を採用する際、男女という性別より個人の能力を見るようですが、日本でのキャリアアップを目指す女性であれば、生涯のキャリアプランを考える際、上記の現状を考慮に入れておいた方が良いかと思います。
それでは、また次回にお会いしましょう。
(注)
Phelps,E.S.[1972],“The Statistical Theory of Racism and Women”,American Economic Review, Vol.62, No.4.、Arrow, K.J.[1974], “The Theory of Discrimination,”in labor Market, ed. by O.Ashenfelter and A. Ress, Princeton University Press. 篠塚英子『日本の女子労働』(東洋経済新報社、1982 年)、冨田安信「女子の雇用管理と男女間賃金格差」(小池和男・冨田安信編『職場のキャリアウーマン』東洋経済新報社、1988 年)、樋口美雄『日本経済と就業行動』(東洋経済新報社、1992 年) 254 頁。
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執筆者 李尚波
桜美林大学 リベラルアーツ学群 講師 1989 年 7 月 北京外国語大学日本語学部卒業。 1997 年 3 月東京外国語大学地域文化研究科博士前期課程修了。 2004 年 4 月東京外国語大学博士(学術)学位取得 現在は桜美林大学 LA 学群で社会学、教育社会学、高等教育と社会参加、ジェンダー論、日本歴史文化論をテーマに研究を続け、講師として活躍中。 『女子大学生の就職意識と行動』 (2006年御茶ノ水書房)、 「女子大学生の就職行動における変化の全体像」(単、『国際教育』No.10(2004年10月)日本国際教育学会)、 「日本女大学畢業生持続就業的未来走向探析」(単、世界知識出版社『日本学研究』2004年7月北京日本学研究センター)、 「日本私学発展的現状及其特徴」(共、山西教育出版社『日本私立学校』1996年) |
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